第2話 その少年、測定不能につき
12歳になった俺はあれから努力を積み重ね、少しずつ成長していた。
そして成長するごとにこの世界の常識も身についていき、その中で俺は2つのことに気づいてしまった。
魔力を体外で維持できるの、もしや世界で俺だけでは? ということ。
それを疑問に感じてそれとなく父に聞いた時、そんなこと人間にはできない。もしできたらそれだけで弟子を1000人は取れるとまで言われた。
魔力を魔法に変換し、体外で維持してくれるのは人間の身体機能ではなく、魔法を使うための道具、魔道具の機能らしい。
……いや〜、悩んだよ。公にして弟子1000人取るか、隠し通して自分だけの技術にするか。
承認欲求と独占欲が俺の脳内で第三次世界大戦を起こすくらい悩んだ。
そして、その戦争の結果は独占欲の辛勝で終結した。
一旦は隠したまま生きて、もしも気が変わったら公開して弟子からの月謝で生活していく。
その内容で、承認欲求と独占欲の間に講和条約が結ばれた。
そして気づいたこと2つ目。それは体内の魔力は気体のような状態であること。
どういうことかというと、魔法を使う場合は魔力が固まって密度が上がる。魔力で身体強化をする場合でも同じことが起こる。
しかし、体内のニュートラルな状態の魔力は気体のように密度が低い。これはあまりにももったいない。
ゴミ箱へ適当にゴミを投げ込んでばかりではすぐ満タンになってしまうのと同じ。もっと押し込んで詰め込めばより多くの魔力を体内に保持でき、魔力量の最大値が大幅に上昇する。
「さて、そろそろかな」
今日、その効果がどれだけ表れているかを視覚的に確認できる機会が待っている。
俺は期待に胸を膨らませながら村の広場へ向かった。
「待ってたよ、シオン」
そう俺に呼びかける金髪の少女はリリア・フェリジット。
俺と同い年で、昔から仲良しの幼馴染みと言ったところだろうか。
リリアは快活で笑顔が絶えず、とにかくよく食べる。人間の明るさの要素を全て詰め込んだ、天真爛漫という言葉がこの世でもっとも似合う人間だ。
他人に対してもとにかくフレンドリーなので隣にいて心地が良い。
「4人揃いましたね、では始めさせていただきます」
広場に立っていた、メガネとウェーブしたエメラルドグリーンの髪が特徴的な女性が、俺たちが揃ったのを確認し話し始めた。
「もう聞いていることとは思いますが、今年で12歳を迎える皆様には魔力測定を受けていただきます」
俺が待っていたのはこの異世界ではテンプレとも言えるイベント。
圧縮して大量に溜め込んだ魔力量の暴力で水晶玉ぶち割ってやるぜ!
「これからこの魔道具に触れていただき、発生する光の強さによってE〜Sのランクで評価させていただきます」
女性が左手に持っていたバッグから取り出したのは布に包まれた手のひらサイズのキューブ。
前世にあったものでサイズを例えると、ルービックキューブよりちょっと大きいくらいかな。
女性が布の結び目を開くと、白く濁った色の、布の外から見た形と同じキューブが姿を現した。
うん、まあ、球の形だと持ち運びとか面倒だろうし、そっちの方が合理的だよね。
「っしゃあ! まずは俺から行くぜ」
一番最初に名乗りを挙げたのは……誰だっけ。うーん、少年Aでいいや。
少年Aが女性の持つキューブに触れると、キューブは黄色い仄かな光を放った。
見入ってしまうとても優しい光ではあるが、魔力量としてはあまり期待できないように感じる。
「なるほど、残念ですがDランクです。魔力を使う職業に就くのはかなり厳しいかと……」
「チクショー! どうしてだよぉ!」
次の少年BはCランクと判定された。平均値もCランクなので彼は特別な人間ではなかったということになる。
「次は私が行く。最後ってなんか緊張するし」
その緊張する役割を俺に押し付けるのかと内心では思いながらリリアの様子を見守った。
「うおおおっ!?」
リリアの驚きの声と共に、カメラのフラッシュと誤認するほどの赤い光がキューブ型の魔道具から放たれ、その場の女性以外の全員が反射的に目を閉じた。
「素晴らしいです! これはAランクに相当する魔力量! ガレアス魔法学院への入学を是非目指してみませんか?」
「え、えぇ……、前向きに検討します……」
まさかリリアにそんな魔力量があったとは。人の魔力量はこういう道具を使わないと確認できないから意外なところに才能の原石が転がっている。
……そしていよいよ、俺の番だ。頑張って魔力圧縮して詰め込んだから最低でもAランクは欲しいな。
「では、魔道具に触れてください」
ふふん、と余裕の表情で俺は魔道具に触れた。
「……」
「……へ?」
俺が魔道具に触れると、最初の少年Aとほぼ変わらないくらいの紫の光が出た。
ほへ?
「……Dランクです」
「はあああああああっ!?」
まさか、まさかこの魔道具は……。
魔力が圧縮されていることを感知できないのか!?
「この欠陥品がぁーーーーー!」
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