フェルザック流

「月音! ここにいたなら……おっ、ステインもいたのか。久しぶりだな」


 月音。ブレインソウルのヒロインの一人。現在は2学年に在籍しており戦闘科に所属。得意武器は刀だ。そういえば彼女もフェルザック流を主に使っていたな。



「お久しぶりです。何日も来れなくてすいません」


「なに、大丈夫だ」


 ニコッと笑うフェルザック先生。その笑顔からは鋭い眼光が発せられており、猛獣すら射殺しそうな勢いだ。しかし、本人はただの笑みを浮かべているだけで相手を委縮させようなど一ミリも思っていない。因みに俺はもう慣れた。


 それから俺はフェルザック先生にこれまでの経緯とこれからも訓練をお願いしたいという事を伝え、一つ返事でOKを頂いた。


「ステイン。今日の課題だが……月音」


「はい」


「ステインの前で型を見せてあげなさい。1の型でいい」


「承知した」


 フェルザック流は3の型で構築されている。1の型は攻守万能型。序盤のリズムを作り、調子を上げていく事を目的にしていたはず。



 フェルザック先生は月音に指示すると、彼女は刀を持ち直し俺の前へと立つ。


 立ち姿すらも絵になるな。流石ブレインソウルのヒロインの一人だけはある。



「いいか、1の型は序盤を調子作る重要な型だ。ここで乱されでもしたら、中盤終盤と勢いを失ってしまう。だから序盤は慎重に進める必要がある」


 その間も月音は一心に刀身の先を見続け、一呼吸小さく息をすると静かに動き出す。


 刀が宙を舞う。まるで踊りを踊っているかのよう。しかし、注意深く見守っていると彼女はただ刀を振り回しているのではなく、何か仮想の敵と戦っているかのようだった。



「ははっ、月音も懲りないね」


 フェルザック先生が温かみのある苦笑いを浮かべる。


 これは何だ。一手一手が何手先も考えて打たれているのに、仮想相手は月音に怯むことなく猛攻を浴びせている。



「くっ……」


 月音が苦悶の表情を浮かべる。


 劣勢……か。月音が弱いわけでは無い。この学園の中でも上位に君臨する月音が弱いはずが無いのだ。ただ、相手が強すぎるだけで……


 そこからは展開があっという間だった。徐々に相手に押されていき、手を考える暇もなく襲い掛かる剣筋。俺も少しではあるが剣を齧ったから分かる。相手は強者。先日戦った現在のウォーグよりも遥かに格上だと。


 月音よりも遥かに強い相手。これだけでも数は絞れるが、あの特徴ある攻撃方法。となると、ほぼ一人に絞れる。


 ははっ、あいつ相手にここまで頑張れるって……いつになったら月音に追いつけるやら。



「……うっ。はぁ……今回も勝てなかった」


 月音は悔しさにまみれた表情を浮かべると、サッとこちらへ振り向き。



「これでいいですか?」


「うん。それじゃあ、ステイン。今の攻防を見てどう思った? 見えていたんだろう。相手の姿」


「はい」


 前世で何度も見た。学園最強。ゲームに出てくる登場人物の中でも5本の指には必ず入り、最後の章に突入するレベルにならないと主人公ですら苦戦を強いられる相手。その名を……



「ジュリアーク・アーサー」


「っ! 名前まで当てるとは。恐れ入ったよ」


「いつになったらあの男を超えられるんだろうか……」


 いやいや、月音さん。あの人の攻撃を数手受け流すだけでも凄いのに、超えるなんて……


 ジュリアークはチートだ。もう、バグレベルの領域にいると言っても過言では無い。まぁでも、ゲームで彼と戦う事はあまりないし、ルートによっては彼と敵対する事があるが、そうなればゲームオーバー確実。絶対に避けるべき事の一つだ。まぁ、馬鹿な事をしない限りジュリアークと敵対する事はないから大丈夫なはずだが。



「それでステイン。他に気づいた事は無いかい?」


「他……ですか。えぇと」


 欠点という欠点は俺の目には映らなかった。戦闘に圧巻され過ぎて他の事に気を割くことが出来なかったというべきか。そんな俺でもこの年でここまで完璧に型を習得していることが凄いことは分かるし、学べることも沢山あった……あっ、でもちょっと気になった事はあったな。



「……型にとらわれ過ぎてるというか、もうちょっと自由にやってもいいんじゃないかなって」


 我ながら適当な答えだ。型が完璧であれば、その分隙が無いという事だろう。ほんと、何を言ってるんだが……


 俺はチラリと月音を見る。何やら下に顔を向き、プルプル震えている。怒らせてしまったか。無理もない、教わり始めて1ヶ月のド素人が上級者にアドバイスなんかを偉そうにしているのだから。


「ス、ステイン……」


「はい?」


 フェルザック先生? どうしたんだ。そんな目を見張るような表情をして。


「……驚いたよ。全く同じことを月音に指導していたところなんだ」


 おー何たる偶然。本当にただ思った事を言っただけなのに。


「ステイン。自由にとはどういうことなのだろうか。フェルザック先生にも同じことを言われたが、私にはしっくりこなくて……」


 月音は心からアドバイスが欲しいのか本気の目で訴えてくる。


 それ、俺に聞くか? フェルザック先生に教わった方がいいんじゃないかと思うが。まぁでも、聞かれたならしょうがない。考えてみるか。自由に……か。俺も漠然と思っただけでそれを言葉に出来るほど理解してないんだよな。待て、月音のエピソードでそれっぽいのあったよな。あの時、主人公が何か言っていたような……


 確か……


「無理に自分を型にはめなくていいんだ。フェルザック先生は月音になることは出来ないし、月音もフェルザック先生になることは出来ないだろう? それと一緒で、月音が誰を目指しているか分からないけど、月音は月音の道を歩む。自分の為に……」


 そうそう。こんな感じの事を……


「ステイン!」


「へ?」


 突然、月音が俺へと抱き着いてくる。


 な、何が起こった? 主人公が言っていた事を少し内容を変えて言っただけなのに。


 月音は豊満な胸を押し付けながら上目遣いで目をキラキラさせる。


「私は無自覚に兄さまと同じ道を歩もうとしていたのかもしれない。でも、ステインに言われて目が覚めた。君に覚ましてもらったんだ。ありがとう。この恩は一生忘れない」


「そんな大したことじゃ……」


 何だ。この既視感あるシーンは。あっ、これは……



~ブレインソウル 月音ルートイベント~


『カイン! 君のお陰で目が覚めたよ。これでようやく私の道を歩める』


『月音先輩……』


『カイン……受け取ってくれ』


『っ!』


 そうそう。ここで月音からの拙いキスシーンがドアップされて……


『私の……初めてなんだ。どうだ? お礼になっただろうか』


 夕日と月音の紅潮した表情がマッチしてこれが何とも言えないんだよな……って、このシーンに何だか似てないか?

好感度次第で発展する告白イベントは違うが、何故かこのシーンが脳裏に蘇ってきた。


 このシーンは月音ルートを開拓していく上で重要なイベント。何かを間違えてこのイベントが来ないなんて事になったら……月音ルートは絶望的だろう。まぁでも、月音ルートは他のヒロインと比べて比較的簡単な部類だし、どんな主人公でも大丈夫だろう。


 ここで大きな間違いを犯したなど、思う訳もないステイン。



「ステイン……か。フフ……どこか兄さまに似ているな」



 ビクッ!


 な、なんだ。何故か悪寒が……


 ……勘違いか。



「ステイン……どうした? 大丈夫か?」


 別世界に思考が飛ばされていた俺を月音は必死に揺らし、現実世界へ戻す。



「あ、大丈夫です」


「良かった。ステインに何かあったかと思ったぞ」


 安心した顔でふぅっと息を吐く。その表情すらも男を魅了する一撃を含んでいた。



「本当に大丈夫か? 大丈夫であれば私は自己鍛錬に励んでくるが……」


「大丈夫ですよ。ほら、この通り!」


 俺は両腕に力こぶを作り、元気いっぱいアピールをする。


「何だ? そのポーズは……でも、元気そうだな。では、また会おう!」


 この世界では変なポーズ認定されるのか。結構好きなのに、このポーズ。


 直ぐに体を動かしたくてたまらないといった動きで月音は颯爽と部屋から退出していく。そして、俺もフェルザック先生に稽古をしてもらい、濃い一日を終える事となったのだった。

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