脇役悪役貴族 学園生活終了の危機

「試合始め!」


 教員の合図と共に試合が始まる。


 相手は闘王ウォーグだ。適当に飛び出したらそれだけで瞬殺される。


 俺はゆっくりとウォーグの周りを歩き出し、ウォーグはその場から一歩も歩かず、視線で俺を追っていく。


 ウォーグは後手からしか動かない。というか、相手の一撃を受け止めてから自身の一撃をお見舞いするスタンスだから、俺が攻撃するまでは決して攻撃はしてこないだろう。


 最初の一撃が大事だ。一撃さえ当てられれば俺の勝利と言っても過言では無い。皆、俺が一撃さえ当てられずに終わると思っているのだから。


 俺はグルグルとウォーグと一定の間隔を保ちながら隙を見計らう。時間をかけて、決定的な瞬間を見逃さないように。



 試合開始から数分。両者進展が無く、生徒たちの談笑が目立ってきた時。



 っ! 今だ!


 ウォーグの視線が外れたのを見逃さなかった俺。


 即座にウォーグへと直進。



 ギョロリ。


 しまった……


 ウォーグの目が俺を捉えた。あれはウォーグのミスなんかじゃ無かった。俺を嵌める為の一手だったんだ。


 この攻撃は止められない。このままいくしかない。



「はぁ!」


 一番守りづらいであろう背中めがけ、剣を振りかぶるステイン。


「甘い」


 カキィン!


 無情にもその刃がウォーグに触れる事無く、ステインの攻撃は止められる。


 俺の振る速度よりもウォーグの振る速度の方が早いだと。相手の方が何倍もの重さがある武器を使っているのに。


 俺は攻撃が失敗に終わると、素早く後ろへ後退しウォーグに剣を向ける。



「ふむ……確かに悪くない剣筋だった。だが、一撃をお見舞いするには威力が足りない」


 ウォーグは表情を崩すことなく語ると、戦槌をゆっくりと地面に立てる。



「……実力は分かった。次は俺から行く」


 ウォーグのステータスは防御力はさることながら、一番の強みは攻撃力。ただ、スピードはあまり早くなかったはずだが。


 俺とウォーグの距離は5メートル。最近分かった事だが、ステイン自体の素質は中々に悪くない。いや、素晴らしい部類だろう。特に瞬発力が秀でている事が最近分かったぐらいだ。このまま伸ばしていけば立派な戦士になれるとも。


 よく見ろ……瞬きすらもしないで……


「これを避けられるか」


「は?」


 一瞬にして5メートルの距離を詰めるウォーグ。


 一体どうやって……


 ウォーグの腕が動くと同時に戦槌が頭上に迫る。


 今はそんなこと考えてる暇はない!



「くっ!」


 ギリギリの所で右に避けると、遅れて爆風が届き元いた場所に大きな爆発が走る。


 おいこれ……


 ステインがいた場所には戦槌の爆風で出来たと思われる穴が。


 当たったら死ぬんじゃないか?


 死の危険を感じてか、至る所から汗が噴き出る。


 これ……死にそうになったら止めてくれるよな?


 俺は教員がいる方へと顔を向ける。すると、教員は苦笑いし、戦闘に戻れと身振り手振りでステインに伝える。


 くそっ、他人事だと思って……



「これを避けるか……」


 ウォーグが小さな笑みを零す。


「ではこれはどうだ」


 戦槌軽々しく回すと、両手で掴み。



「ちょ、ま……」


 俺の制止を他所に、ウォーグは体を破壊しうる攻撃力を持つ一撃一撃を次々とステインへお見舞いする。


 考えるな! 死ぬ気で避けろ! 当たったら死ぬぞ!


「くぅ……」


 俺は一撃一撃をギリギリの所で避けていき、次の行動を考えようとする。


 駄目だ。なんも考えられない。考えようとすると行動がワンテンポ遅れて今の状況だとそれが命取りになる。まずはこの攻撃が落ち着くまで……それまで耐えきれば。


 ウォーグの手が緩むまで、必死に避けていく。



「へぇ……ウォーグ君の攻撃を辛うじて避けてるね。それに、あの子が使ってたのってフェルザック先生の」


 桃色髪の少女が妖艶な笑みでリングに視線を向けている間にも、ステインは避けて避けて避けまくる。



「避けているだけでは俺に傷一つ与えられないぞ」


「ちっ」


 避けるぐらいしか出来ないんだ。今の俺にはウォーグとぶつかり合う実力はない。主人公であるカインでさえ、4章後半ぐらいにならないとウォーグとはまともに戦えないっていうのに。


 一手間違えた途端に死に陥る極度の環境に身を置いているステイン。そのおかげでメキメキと避ける事に対しての能力が増していき、ようやく避けながら思考することも可能になった。


 ブレインソウルは7章構成。1章ごとにラスボスとなるキャラが存在し、そのキャラの野望を阻止することでクリアとなる。俺が転生したのは7月頭。現在は7月下旬だから、1章の決着まであと2ヶ月ないくらいか。


 ウォーグの攻撃を紙一重でさけながらも考えを続ける。



 ……え、カイン。ヒロイン、何人と仲良くなってるんだろう。


 ブレインソウルは最初にも話した通り、エロゲでありハーレムゲーだ。ヒロインは数多くいるし、叡智な描写も沢山描かれてきた。だが、ブレインソウルは叡智だけで人気になったわけでは無い。一番の人気の理由、それは戦闘シーンに多大な労力をかけていたからだ。もちろん、それと同等以上には叡智の演出もすごかったが。


 ヒロインを攻略するだけでは章は進めないし、だからといってキャラ育成だけに励み、最強の強さを得ただけではストーリーをクリアしていくことも出来ない。これがブレインソウルの魅力でもあり、大変さでもあった。


 ここで話は戻るが、主人公がどこまでヒロインを攻略しているか。また、内部のヒロイン攻略ポイント、主人公の育成値などが相まってクリアへと近づけるんだが……


 今の所、育成値は問題なさそう。ヒロインもサーヤを攻略していれば1章で大きな力になってくれると思うし、序盤で重要枠の一人アイリスのルートを開拓した今、あともう一人ほどヒロインを攻略し始めれば問題はないだろう。


 どちらかというと、カインより俺の方がやばいくらいだからな。



「余裕がありそうだな」


「そんなもの……ない!」


 ふぅ……


 ようやく、怒涛の連撃から逃れることが出来た。



「なるほど……少々甘く見ていたようだ」


 このまま甘く見ていてくれよ……


 これが何でもありの試合だったら、ウォーグは身体強化魔法を駆使しながら戦って来ただろう。そうなれば俺は一瞬で負けていただろうし、それだけで退学は確定していた。ただ、戦闘実習は本来の能力で戦わなければならない。それが運よく俺を救ってくれていた。


 ウォーグは戦槌を地面に下ろし、息をつく。



「休ませない」


 俺は大きく一歩を踏み抜き、ウォーグへ剣を突き立てる。



「ふんっ!」


 しかし、ウォーグは一瞬にして持ち手を変え牽制をはかる。


 やっぱ無理か。


 俺は直ぐに後ろに下がり、乱れた息を直す。


 はぁ……もう、体が硬直し始めて来た。激しい運動で乳酸が溜まってきたのだろう。もう少し耐えろよ……ウォーグだって少しばかりは疲れているはずなんだから。そうすれば隙の一つや二つぐらい……



「あまりこの手は使いたくなかったが仕方ない」


 何をしているんだ?

 

 ウォーグが戦槌から完全に手を放し、背中に手を伸ばす。


 後ろに手を伸ばして……くそっ。そういうことか。


 そして、背中に差していたもう一つの武器、長剣を取り出す。



「これで終わりにしよう」


 確かに戦槌よりも長剣の方が取り回しやすく、俺のスピードについてきやすいだろう。だが、それは長剣の間合いで戦った場合。ウォーグの懐に潜り込めば何も出来まい。



 自分が出せる最速。この一歩に込めて、懐に潜り込む。


 一瞬にして距離を詰めるステイン。それに対し、ウォーグはじっと静止し、長剣を頭上に高々と上げる。


 行ける!


 あと一歩。それでウォーグの間合いに……


 時間がゆっくりと流れる中、俺はウォーグと目が合う。


 何だ? 何かが……



「え?」


 声が漏れる。


 俺はぱたりと地面に尻もちを付き、後から恐怖と驚きが襲う。


 何が起きた? 


 当事者の俺でも分からなかった。何故か俺は倒れ。ウォーグは長剣をしまっていた。まるで、俺の負けだと言わんばかりに。ただ、何かされたことだけは分かった。だって、体が覚えているのだから。恐怖し、震え、これ以上あの化け物と戦うなと。


 俺は腰が抜けたまま、その場でじっとしていると。



「良い戦いだった。あのまま戦槌を使っていたら埒が明かなかったからロングソードを使ってしまったが、勉強になる試合だった。またいつかやろう」


 そう言い残してウォーグは席へと戻っていく。



「もう二度と……やるか」


 恐怖を飲み込んで、言葉を放つ。ウォーグは小さく笑みを浮かべた気はするが、そんな事はどうでも良くなった。ただ、最後のあれは何だったんだという気持ちはあったが、もうウォーグとは話す勇気が起きない。はぁ、ウォーグが最強だってのは知っていたが、ここまで差があるとは。戦槌での本気は見れなかったし、最後のも意味わかんないしで……


 その時、俺は一番重要な事を思い出す。


 あれ、俺。これで学園生活終了?


 ステインはパチクリと大きく瞬きをする。


 俺の負け……完璧に負けたんだ。旗から見たら逃げ回って勝手に尻もちをついた奴だ。それに加え、ステインは嫌われ者。


 やばい……このままじゃ本当に退学だ。



 ステインはよろよろと立ち上がり、教員へと近づく。



「あの……」


「よしっ! これで全員試合したな。では、解散! お疲れさん!」


「ちょ、待ってください。俺の評価は……点数は一体どうな……」


「ステイン。結果は後日、追って連絡する。それまでゆっくり体を休めることだ。それでは」


 教員は晴れやかな笑顔で去っていく。



 待ってくれ。これで……俺の学園生活は終わりなのか?


 だれか……教えてくれ。


 その場で呆然と立ち尽くすステイン。その光景を生徒たちはケラケラ笑いながら退出していく。



「ステイン君……」


 桃色髪の少女がステインの異変に気が付き、近づき手を伸ばす。



「俺は……」


 しかし、放心状態のステインはその少女が近づいている事さえ気づいていなかった。


 桃色髪の少女は息を呑んでその場を後にする。


 そうして、ステインは誰もいない部屋でガックリと崩れ落ち、魂が抜かれたかのような姿でうずくまるのだった。

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