魔法による産業革命が起きた世界線で、俺たちは歴史を作る。
フェルズベルク宣伝省
第一章 逆転
ep.1
俺たちはこの夏、歴史を作った。
そう言っても過言ではないだろう。後世の歴史に与えた影響は、計り知れない。
滅亡が目前に迫り、バラバラに空中分解するはずだった
そして今は、東の熊どもを相手に情報戦を行っている最中なのだが……
まずは、こうなった経緯を見てもらおう。
空気が澄んでいて美味い。
それが、異世界に来て最初の感想だった。
構えたHOWA M1500ライフルから漂う金属と油の匂いが、この異世界の澄んだ空気と混ざり合い、なんとも言えない気分にさせる。
ちなみに、湿気がないから夏なのに暑くないな、というのが次に出た感想だ。欧州の気候に似ている。
スコープから見えるのはやはり手つかずの森と山、そして鹿の群れ。転移してから1時間は経とうとしているのに、モンスターや獣人、中世欧州の街並みといった異世界らしさは欠片も見つからない。何の変哲もない大自然のみだ。
今一度状況を整理してみよう。いつものように愛銃の分解結合を終えて一服していて、気付いたら会社の周りが見知らぬ土地に変わっちまってた……しかもありとあらゆる通信が繋がらない。
やはり、異世界転移の可能性が高いか。しかし、俺たちを乗せたグリッドリンク・ゲームズの会社ごと、この見知らぬ土地に飛ばされた……という部分しか確定情報はない。情報は不足気味だ。
「どうだ? カーナビはつながったか」
「ダメだ。どの車に積んだやつも動かねえ」
車オタクの隼人にダメ元で聞くが、返ってきたのは予想通りの答えだった。
俺のガーミン、零士の無線やラジオ、スターリンクも全滅。その上で隼人のカーナビもダメとなると、やっぱり……
「「「異世界転移で確定か……」」」
会議室にいた数人の声が重なった。
「だが異世界と言っても、この景色じゃ大森林の奥地とかかもしれん。 この先一生、異世界の文明と出会えないという事態も……」
零士が恐ろしいことを口にする。
彼はサーバーやら無線やらといった、人にサービスを提供するためのインフラ部分を担当しているので、提供する相手がいないかもしれないという恐怖に真っ先に行き着いたのだろう。
「だが俺たちは畑も田んぼも、豊富な銃器もある。例え俺たちだけでも、生存に何ら問題はないじゃないか」
それも一理ある。しかし、たった7人でこの寂しい世界で生きるというのは、かなり精神に来るものがあるだろう。
異世界を望んでいなかった、と言えば嘘になる。みるみる悪化する国際情勢にうんざりして、異世界に逃げたいと思ったことは幾度もあった。だが、実際にこうなると素直には喜べないものだ。
大好物だったラーメンもチャーハンも納豆卵かけご飯もマグロ丼も、もう一生食えないだろう。今度見に行くはずだったマジノ線も、もう見れない。
休学中の大学にも一生行けなくなったが……これに関してはレポートを一生書かなくて良くなったので、嬉しい誤算だ。
「とりあえず俺のドローン飛ばして周辺を把握してみるか」
航空機オタクの翼が、俺の待ち望んでいた提案をしてきた。その案は何度か頭に浮かんだが、翼の愛機を危険に晒すような命令を出す気にはならなかったのだ。
しかし、彼自ら提案してきたのであれば気にする必要はない。
「採用だ! リスクは高いが、何もしないよりはマシだ! 早速取り掛かってくれ!」
翼は数十機のドローンを保有している。一機ぐらい失っても痛手にはならない。まぁ、翼に取っては一機一機が可愛い家族なのだろうが。
「じゃあ飛ばしてくる。色々準備するから10分ぐらい待っててくれ。飛ばしたらドローンからの映像をここのモニターに映す」
「おう、墜落させんなよ」
俺は軽く釘を刺す。
「ふん、二機も落としやがったお前に言われたくねぇよ」
それだけ言って翼は走り去っていった。零士もサーバーの点検で席を外したから、会議室に残っているのは俺含めて五人だけだ。
「グリッドリンク、どうなっちまうんだろうな」
「まあ、こうやって会社ごと異世界に来てんだから、現実世界じゃ倒産扱いだろうな」
「うちの会社、山を切り開いて建ててるからなあ……近隣住民は消えたことにしばらく気付かれなさそうじゃね」
「あり得るな」
そう。俺たち7人は俺の会社、グリッドリンク・ゲームズの社員で、会社兼社宅となっていたこの建物ごと転移してきてしまったのだ。だから当分は衣食住に困らない。
まぁそれ以外にも会社ごとという利点は無数にあるのだが、一旦横に置こう。利点は持ち込んだ建物だけじゃない。
従業員はたった7人だが、全員がこの異世界で大活躍できるスキルを持っているのだ。
俺はミリオタ。
零士はインフラオタク兼無線オタク。
慧はプログラマー。
鉄平は鉄オタ。
翼は航空機オタク。
隼人は車オタク。
悠馬はゲームコレクター。
1人でポツンと放り出されることが多い異世界転移で、こうして同志たちと動けるのは強い。他に転移した奴らがいたとしても、俺たちが有利に違いない。
「お、映った」
モニターにドローンからの空撮映像が映し出される。そこにはヨーロッパ風の町並みが広がっていた。零士の懸念は現実にならずに済んだようだ。
だが、少しばかり違和感を覚える。
「翼、家の付近を拡大してくれないか? 特に積み上げられた薪がないか、念入りに」
「了解……ん、確かに薪がない……?」
どういうことだ……? 暖炉なしで冬を越せるような地域なのか? いや煙突があるわけだし、そもそも植生からして違う。
となると……一つしか無い。
「電線やガス管が無いか、確認してくれないか?」
「うーむ、パット見では無いな」
確かに目立ったところに電線はないな。だが、地中に埋められている可能性もある。
「赤外線カメラで室内の温度を測ってみて」
「わかった……こ、これは!?」
「なっ……」
暖房がついている……というのを予想したが、なんと、屋内は屋外より大幅に涼しかった。まぁ、よく考えると夏なのに暖房はつけるはずないか。
「電線無しでクーラーか……。やはり何らかのエネルギーが地中から提供されているのだろう」
「こんな技術が発展した異世界じゃ、現代技術で無双するとかできないじゃないか!」
悠馬が嘆く。やはりゲームのように主人公補正が欲しいのだろう。
「最悪だ。転移してから30分近く、剣と魔法の世界で銃器を使って無双する妄想をしていたというのに……」
例え中世だとしてもマスケット銃ぐらいはあるのだが……まぁ良い。
「だが、ヨーロッパ風ってのは想像通りだな」
あ、確かに。やはり慧は優秀だ。論理的な思考で彼の右に出るものは居ないだろう。
「となると、ひょっとしたら魔法はあるかもしれねぇな」
「剣と魔法の世界が、近代まで発展した結果って可能性もある」
それなら最高だ。魔法が中心の異世界で、俺たちが持つ科学は唯一無二の強みになる。
「あ、なんか武装した集団がいるぞ」
そう言われて画面を注視すると、確かに武装集団――第一次世界大戦のドイツ軍に酷似した軍装の集団が、こちらに近づいている。おおよそ二個小隊といったところか。
「……俺らを攻撃するのか?」
翼が先程までとは打って変わって、鋭い声を出した。
「もし彼らが敵ならば、燃料を満載した大型ドローンで……」
「おい、早まるな」
完全武装な点だけを見ればそう言えなくもないが、たった二個小隊で得体のしれない建造物に攻撃を仕掛けるとは考えにくい。斥候と言ったところだろう。
「ひとまず『アンノウン』としておこう。いきなり戦闘に突入するのは愚策中の愚策だ。だが……万が一に備えてその作戦の準備は済ませておくべきだろうな。あと銃使えるやつは、武器庫の銃から好きなものを選んでおいてくれ」
俺は銃砲店もやっているから、銃はたくさんある。まぁ、日本の銃刀法に則った猟銃の戦闘力など、たかが知れているがな。
「いや俺、クソエイムですよ……」
無線越しに嘆く航空機オタクの翼は銃の使い方を知っているものの、100発撃って5発もあたらないクソエイムだ。しかし……
「「「「「「お前は銃使わなくていいから、とにかくドローン飛ばせ」」」」」」
ドローンによる航空偵察や自爆攻撃は、銃を持った素人の何百倍も役に立つ。
「で、俺たちは?」
零士と悠馬は銃を使えるが、他の3人はドローン操縦や銃の扱いのように、戦闘に直結する専門技術は持っていない。だが間接的に戦闘を支援することはできる。
「鉄平! コレクションの鉄道を動かしてバリケードを作ってくれ! 車窓から射撃すれば、強固な陣地として活用できる!」
「わかった!」
実物車両を何両も集めるレベルの重症鉄オタである鉄平は、暇があれば敷地内に敷かれた短い線路を行ったり来たりさせていた。この程度楽勝だろう。
「隼人! 俺のTー72を準備してくれ! あと余裕があれば逃走用にハンヴィーも!」
「了解!」
車の整備に優れた隼人は、バイクから戦車まで整備できる天才だ。
「慧はセキュリティーシステムを最大レベルにしてくれ! 赤外線センサーも監視カメラも全て起動だ!」
「おん」
慧は、会社のシステムの大半を運用する凄腕プログラマーだ。……正直何やってるのかわからんからそれしか言えん。
一通り命令を出し終えた俺は、再び窓からM1500を構える。武装集団の進行方向に銃を向けるが、相変わらずスコープに映っているのは自然だけだ。
「アンノウンはあと何分でここにつく?」
無線越しに翼に問う。
「あと1分もない。騎兵を斥候に出したようだ。ちなみに本隊は数百メートル先で停止中」
さっきは騎兵なんて見えなかったが、その時すでに本隊からは離れていたんだろう。
「数は?」
「多分二騎。ひょっとすると見逃してるのがいるかもしれない」
気づかないうちに接近されているかもしれない。そう思い始めると、自然と銃を握る手にも力が入って、照準が不安定になってしまう。今一度正しい構え方を意識すると、ちょうどアンノウンの騎兵が現れた。
「他の方向からは来てないな?」
「来てない」
二騎の騎兵は、会社の敷地手前で速度を落とし、警戒しながらゆっくりと近づいてくる。彼らの目線は、固く閉ざされた門に向いているようだった。
「門の映像を大きく映して」
「了解」
モニターの映像が切り替わり、建物の正面に設置された防犯カメラの映像が大きく映し出される。二騎の騎兵は門の前で馬を止め、1人、馬から降りた。
その男は他の騎兵たちと同じ軍服を着ているし、当時の階級章もわからないから断定はできないが、纏う雰囲気は明らかに指揮官のものだった。腰にはサーベルを下げ、顔には長い髭を蓄えている。年齢は三十代後半から四十代前半といったところか。
男は警戒しながらも、ゆっくりとこちらに歩みを進め、正面から2メートルほど離れた位置で立ち止まった。
その視線が、俺たちのいる会議室の窓に向けられる。ガラスは特殊加工で外からは見えないはずだが、まるで俺たちの存在を見透かしているかのような鋭い視線だった。
そして、男は右手をゆっくりと上げ、その手のひらをこちらに向けた。対話を求めているように思える。
「AIによると、軍装からして少尉のようだ。どうする?」
慧がモニターを見つめながら尋ねてくる。
俺はM1500を窓台にそっと置き、深く息を吐いた。
「この緊迫した状況を維持するのは得策じゃねえ。相手の意図を探る。……俺が出て、話をつけてくる」
「まさか1人でか?」
隼人の声に、俺は首を縦に振る。まぁ無線だから見えていないが。
「あぁ1人だ。だが零士、悠馬、お前らは引き続き警戒を怠らないでくれ。あと俺が殺されたら、武器庫の火器をありったけハンヴィーに積んで逃げろ。食料は現地調達できるだろうから最低限で良い。あと隼人、ハンヴィーの燃料は満タンにしておいてくれ。じゃあ、行ってくる」
全員が息を飲む音が聞こえた。
初めての異世界人との接触。
俺は、弱小企業の社長として曲がりなりにも培った己の交渉能力に期待して、ゆっくりと外へ出た。
腰に隠したナイフを意識しながら……
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<後書き>
この度は、拙作をお読みいただきありがとうございます。
本作は、約二年間の執筆ブランクを経ての練習用作品として書き始めました。文に関しては至らぬ点も多々あるかと存じますが、物語は執筆をサボっている最中に数ヶ月かけて構想した自信作ですので、楽しんでいただければ幸いです。
今後も、より良い作品をお届けできるよう精進してまいりますので、温かく見守っていただけますと幸いです。
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