第38話 お父さん 徘徊Ⅱ
9月23日 月曜日 秋分の日
台風の接近にともないセントレア空港も欠航や遅延など
航空機の運航にも多大な影響
今日のニュースはどこの番組も台風で持ちきりだ。
あかねは昨日(日曜日)今日(月曜日:祭日)と言う事もあってお店を閉めていた。
こんな日でも修平は仕事に行っている。台風時は、鉄道関係も運休になり、
タクシーはそれなりに忙しいようだ。
そんな時、一本の電話が入った。大曽根の加藤さんからだ。
「はい、あかねです。加藤さん、ごめんなさい。
今日は台風でお店を休んでいます」
「ママ、ごめんよ、今日はお客じゃ無いんだ。
実は、今、建設現場の視察で春日井の高蔵寺に来ているんだけれど、
午前中は電車が動いていたから、大丈夫だと高を括っていたら、
午後になって交通手段が全部止まってしまった。
タクシーもいないし、もう、1時間も立ち往生しているんだ、
雨はどしゃぶりだし参っている。
もし、できたら、茜専属タクシーに助けてもらえないかと思って・・・・・
電話をしたんだ」
「そう、それは大変、ちょっと待ってね、一度切るわね」
と言って、あかねは修平に電話するがつながらない、玲香に電話をする、
「ママ、お店、休みじゃ無いの?」
「れいちゃん、今、どこにいる」
「私、今日、会社 休んじゃった!
こんな台風じゃ、恐くて仕事にならないもの!
ママ、どうしたの」
「そうよね、そりゃそうだわね!
れいちゃんも台風が来るたびに辛い思いをするわよね!
そう云う時はおとなしく家にいるのが一番よ!
いえね!大曽根の加藤さんが春日井の高蔵寺で
中央線が止まってるらしいの、それで立ち往生しているんだけれど、
修平さんが捕まらないし・・・・・いいわ、春樹に連絡をしてみる」
「ハルキなら、ここにいるよ・・・・・
雨でずぶぬれになって着替えに来たところ」
「そう、じゃぁ丁度良かったわ、
春樹に高蔵寺まで行けるかどうか聞いてもらえる」
春樹が電話を代わると
「加藤さんに30・40分待てるか聞いてくれるかな」
「わかったわ、チョット待っていて、1度電話を切るわよ」
「加藤さん、春樹がつかまったわ。
今からだと30・40分で着くって、19時頃になるけどどうします」
「春樹って?泉さんの事かな?
じゃ、高蔵寺駅のミスタードーナツ店で待っているって伝えてくれるかな、
あ〃 それと、もう、そこからメーターを入れるように言ってくれないか、
ママ、ありがとう、恩に着るよ。ほんとうに助かる。
じゃ、待っているから」
さすがに台風だ、忙しい、といっても、
今、この、人の移動時間に頑張らないと、あと2時間もすれば、
街はシーンとなって眠りにつくのだ。
それにしても、台風は何度も何度もやってくる、
例年 10個以上の台風が発生しているが、
そのたびに玲香はあの時の光景を思い出して重苦しい気持ちになっていた。
=========================
お父さん 徘徊Ⅱ 九月二十六日 木曜日
「おい、開けろ、何やってるんだ、早く、開けろ」
お父さんが玄関先でわめいている。インターホンをならしても応答が無い。
鍵を入れようとしても鍵が入らない。ドアをドンドンと叩く。
誰も出てこない。電気は煌々とついている。
お父さんは家に入れなくて困っていたのだ。
そこに、パトカーがサイレンを鳴らしてやってきた。
お巡りさんが三人、お父さんを囲む。
「おおおう、ちょうど、よかった、家に入れなくて困っていたんだ」
お巡りさんが尋ねた。
「貴方の名前は言えますか」
「わしか、わしはわしだ、んん、そんな事よりも、
あかねがわしを家に入れてくれなくて困っているんだ」
お巡りさんたちは、お父さんが認知症だとすぐに分かったので、
とりあえず春日井警察署まで連れて行った。
警察署でお父さんのカバンの中を調べると、
名札付きのキーホルダーが中に入っていた。
そこに記してある電話番号に連絡をする。
あかねはお客さんのお酒を作っているとスマホが鳴った。
「はい、スナック茜です」
「私は春日井警察署の小田と言いますが、中西太一郎さん、ご存じですか」
あかねは、中がうるさいので、店から出て話を聞いた。
「はい、父ですが・・・・・」
「実は勝川の田中さん宅で玄関を開けろと騒いでいたようでして、
太一郎さんから話を聞いてみると、
どうも、家を間違っているようなのですが、認知症ですか」
「はい、前にも一度、徘徊で、ご迷惑をおかけしていますが、
どうも申し訳ありません、今からすぐに、
主人を警察署へ向かわせますので、どうか、よろしくお願いします」
あかねは電話を切ると、すぐに修平に電話をした。
「おう、どうした」
「修平さんさぁ、何処にいるの?」
「何処にいるって・・・・・ず~と家にいるよ」
「じゃあ!お父さんが外へ出て行ったの、知っている?」
「えぇ、お父さん、家にいるだろ」
修平は慌ててお父さんの部屋に入るとテレビはついているが、
お父さんの姿は無い
「いつのまに、出て行ったんだ、私が風呂に入っている時かな」
「もう~!お父さんが近所の家でドアを開けろって騒いでいたらしいの、
それで今、春日井警察署で捕まっているから迎えに行ってあげて!」
「本当か!悪かったな、すぐに行ってくるわ、
そうか、あかねの電話番号を書いていたか・・・・・」
お父さんが愛用しているカバンには
家の住所、名前、連絡先をあかねにしていたのだ。
修平はすぐに春日井警察署へお父さんを迎えに行った。
「どうも、すみません、ご迷惑をおかけしました。
いつもは、しっかり見ているのですが、
今日はどうやら、私が入浴している間に出て行ったようでして、
気がつきませんでした。どうも、申し訳ありません」
「そうでしたか、認知症のお父さんでは大変でしょうが、
玄関に、センサーを付けるとか、GPSを使うとか、
もう少し、工夫してみて下さい。」
「どちらのお宅に迷惑をおかけしたのでしょうか、
明日にでも、一言お詫びをしたいのですが」
「そうですね、では、一度、向こうに連絡先を教えて良いかどうか
確認を取ってから、また、ご連絡いたします」
お父さんが、待合室で小さくなって腰掛けていた。
「お父さん、帰るよ」
「あぁ、しょうへい、家を取られて、困っていたんだ」
「大丈夫、家は取り返したから、帰ろう」
お巡りさんは、話を聞いてて、苦笑いをしている。
修平が、しょうへいになってしまった。
「お父さん、どうして、外に出たの」
修平がお父さんに聞いた。
「パンと牛乳とプリンを買いに行ったのだが
ローソンがなくなっていた」
どうやら、お父さんはローソンの場所が分からなくなっていたようだ。
「そうか、大変だったね、じゃ、ほかのローソンで、
パンと牛乳とプリンを買って帰ろうか」
修平は、いつものローソンによって、
お父さんの納得がいくようにと、買い物をして家に帰った。
実は家にはパンも牛乳も沢山ある事は修平も知っていた。
深夜0時半、あかねは急いで玲香のタクシーで帰って来た。
「お父さん、間違って、よその家に入ろうとしていたの」
「修平さん、おじさんが出て行ったの全然、気がつかなかったの」
帰って来るなり、二人は修平に質問攻めだ。
あかねがお父さんの部屋をのぞく。
「あんな事していて、まぁ、よく眠っているわ」
「私が風呂に入っている間に出て行ったようだ。
なんでも、ローソンで牛乳とパンを買いに行ったらしいが、
そのローソンが分からなかったようだ」
「パンも牛乳も冷蔵庫にたくさん入っているのに・・・・・」
あかねが冷蔵庫を開けて確認をしている。
「ママ、腹が減った。この菓子パン食べていいの」
修平が玲香に言う
「れいちゃん、メロンパンはお父さんが食べるみたいだ」
「この小倉とマーガリンのパンはいいの」
玲香は牛乳をコップに注ぐと菓子パンを食べ出した。
「で、また、迷子になったのね
この辺り、同じような家が多いから、暗いと分からないかもね、
それで、その、田中って家にドアを開けろって叫んでいたんだ」
あかねはどうしようもない思いを感じた。
「あぁ、明日、謝りに行ってくるよ、
お父さんは家を取られたって警察に話していたらしんだ。
だから、私は お父さんにもう、
『家は取り返したから、大丈夫だよ』って言っておいた」
「まぁ、取られただなんて、よく、そんな嘘が思いつくもんだわ」
「いや、本人は本気で、そう思っているんだと思うよ、
自分の名前も分からなかったみたいだし、
でも、私がお父さんを引き取りに行ったら
修平がしょうへいに変わっていたけどね」
「しょうへいさんになったんだ」
玲香はしょうへいの方が呼びやすいと思った。
=大谷翔平=頭をよぎった。
「そう、今日はね、そう、呼んでくれたけれど、
明日になったら、なんて呼んでくれるんだろうね」
「でも、おまえは誰だって言われるより、よっぽどよかったじゃない」
「本当だよ、おまえは誰だ、なんて言われたら、さすがに引いちゃうぞ」
「修平さん、そろそろ、しおどきじゃな~い」
「そうだな、老人ホームも聞いてみるか、
明日、玄関にセンサーを付けてドアが開くと音が鳴る器具を買ってくるわ」
「じゃ、わたし、帰るね」
「れいちゃん、この牛乳とパン、プリンも、そうそう、この麻婆春雨、
昼に修平さんが作ってくれたんだけど、とてもおいしかったから、
春樹と食べて、レンジでチンして食べて!」
玲香は、ごちそうを頂くと、早々と帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます