第2話 修平に相談

 翌日、春樹は親友の修平とコメダ珈琲店で会う約束をした。

 身長180cm体重90kgの筋肉質な稲留修平は47歳 。

 学生の頃はラグビー部に所属していた事もあって今でも坊主頭だ。 

 春樹は39歳だが修平よりも2年早く入社した事もあって、互いにファーストネームで呼び合っている。

 春樹は酒が飲めないので、人と会う時はイオンの中にあるコメダ珈琲店を使っていた。イオンの出入り口の脇に長椅子が置いてある。そこに腰かけてスマホをいじっているとすぐに修平が来た。

コメダ珈琲に入るや否や、

「よ!なんだって・・・・・錦のママが身体で料金を払ったんだって・・・・・」

 修平が4人席に座るなり、にやけながら春樹に言った。

 大きな体が腰を下ろすとテーブルが小さく見える。

 春樹はホットコーヒーを2つ注文をすると、修平に昨夜のいきさつを話し出した。

「昨夜さぁ、0時過ぎにいつものように錦を流していたら、シャインシグマの通り・・伝馬町通りだっけ、そこから出てきたスナックのママを乗せたんだけど、それがさぁ、勝川駅って言われて、19号線をずーと北へ走って行ったら、勝川駅の南側の公園に着けろって言われてさ!料金4200円です。って言ったら『運転手さん、ちょっと、助手席に移っていい』て言いながら、自分で後ろのドアを開けて助手席に移って来たんだ」


「勝川駅の公園って言ったら302号を渡って左側の三角の公園か」

修平が公園の場所を確認する。

「そっちじゃなくて、南側の地蔵川の所にもあるだろ!」

「あぁ、あるな、そっち側な!」

 修平は場所が分かったようだ。

「それで、そのママさん、助手席に移ってきて春樹に抱きついたのか?」

 修平が両手をテーブルにかけて、体を前かがみにして話を聞いている。


「もう、待ってよ!ちゃんと話を聞いてよ、――俺はママさんがてっきり助手席で精算をするのかなって思ったら・・・・・いきなり、いきなりだよ・・・・・おれにキスをしてきたんだ。びっくりして『何するんですか』って言ったら、ジッーと俺の目を見て、すご~く色気のある声で『いや?』って言うんだよ。あんな!色気のある顔で『いや?』って言われたら『いやじゃないですけど!』って、普通言うだろ。それがさ――石田ゆり子に似ていたんだ。きれいだったな――それで、キスをしていいんだと思って、とっさに『本当にいいんですか!本当に!!ありがとうございます』って、言ったら、それがおかしいって大笑いされちゃってさ」

「そりゃそうだろ、今からって時に『ありがとうございます』は無いだろう、それで、どうした、キスをしたのか」

 修平は興味津々で聞いている。

「いや、なんか――調子がずれちゃって――それに・・・・・最初にキスをしてきたって言っても、唇と唇が軽く合わさっただけだし」

 春樹は片手で頬杖をつくと苦笑いをした。

「なに、じゃ、それで終わったのか バカだね~」

 修平があきれた顔をして春樹を見た。

「だから、最後まで聞いてよ!そのママさん、あかねって言うんだけれど、そしたら、今度、俺の右手をつかんで自分のオッパイ付近に俺の手を押し当てたんだ・・・・・んなもんで、俺もその気になって、服の上からおっぱいをさわっていたら、そしたら、そしたらだよ・・・・・あかねさんが自分で着ていたブラウスのホックを外して直接、おっぱいをもめって言いだしたんだ」


「えぇ、本当に、もめって言ったのか」

 春樹の顔に修平が(嘘をつくなよ)と言わんばかりに顔を近づけてきた。

「もめって言ったかどうか覚えてないけど、でも、おっぱいを出すって

事はそういう事だろ。そのうち、『きもちいい』ってあえぎ声を出してさ~――俺の股座に手を当ててくるんだ。もう、ピンピン、そしたら『あら、ボッキボッキね』って言いながら、俺のズボンのチャックを下ろそうとした時、本当に、もう少しだったのに――。急にあかねさんのスマホがビビビビビって音がなってさ、そしたら、『ハイ、タイムオバー お し ま い』 だって・・・・・それで『15分・10,000円だけど4200円に負けておくわ』って言うとサッサと車から降りて行ったんだ。で、帰る時『よかったらお店に来て』って、名刺置いて行ったけど、これってどういう事だと思う?」 

 にやけて話をしていたかと思うと、春樹は急に不安そうに修平に聞いた。


「つまり、そのあかねさんは4200円を体で払ったって事か・・・本当にしたいんだったら15分もクソも無いだろうしな――しかし、すごい、そんな女・・・・本当にいるのか!私も13年ほどタクシーをやっているが、そんな女性に一度も出くわした事なんか無いぞ」

 修平はありえんという顔をした。

「俺だって修平より長くタクシーをやってるけど、こんなのは初めてだよ。

それで、名刺をくれたって事は、お店に行かないとバラすって事かな」

「なにを?」

「だって、会社に電話をされて強姦されたとか暴行されたとか、そんな事をチクられたら大変な事になる。正当防衛って成り立つかな」


「正当防衛ねぇ・・・・・まぁ~車内カメラがあるからそれを見れば一目瞭然だろ! でも、その時の映像って見てみたいよな」

修平が想像をしている。

春樹は血相を変えて、

「えぇっ、そんなの見られたくないよ。勘弁してよ!会社には絶対に内緒だからね」

「わかってるって!それにしても、私もそのあかねさんとやらに会って見たくなったな、石田ゆり子に似ているのか、本当に・・・・・春樹、どうだ!今度行ってみようか」


「えぇ、行ってもいいけど、おれ、お酒飲めないし、修平も知っているだろ、おれの体・・・・・アルコールを受け付けないのは」

 春樹にはアルコールを分解する酵素が肝臓に無いので飲めないのだ。

「じゃ、行ってコーラでも飲んでろ・・・・・・チクられたら困るんだろ」

 春樹は修平に相談をした事もあって無理に断る事も出来ないと思った。

 ちょっと怖いが、そのスナック茜に春樹も行く覚悟を決めた。

「じゃ、今度の休み・・・・・来週の月曜日に行ってみようか、15分、10,000円っていうのも気になるし、本当にスナックなのかな?隠れヘルスだったり、もしかしたら、おっぱいパブかも!」

 春樹は修平に相談をして良かったと思った。

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