非戦闘系TS勇者は今日もモフモフ&プルプルに囲まれる! 〜相棒は魔物!? 百合ハーレムは止まらない〜

和紗レイン

001 プロローグ

 可愛いものが好きな人。愛らしい生き物が好きな人。可憐な美少女が好きな人。人間って、やっぱり可愛さというものを求めるんだと思う。


「あははっ、くすぐったいよぉ」


 だって僕も、そんな可愛いもののお陰で心も癒され、毎日を楽しく暮らせているんだから。

 床に寝転がっている僕の周りを忙しなく歩き回る、一匹の黒猫。

 僕の肌にその艷やかな黒い毛を擦り付けるように歩いたり、のっしのっしと山脈のように僕の身体の上に乗ってきたり。

 時には構ってもらえないことに不貞腐れ、てしてしと柔らかな猫パンチを放ってくることもある。

 かと言って構ってあげようと撫ですぎると、機嫌を損ねて睨まれてしまう。


 これだから、猫というのは不思議な生き物なんだ。


「クロエ、わかったわかった。構ってあげるからさ」


 僕が上体を起こしてそう言うと、ぱっちりとした黒い目を爛々と輝かせ、僕の顔をじっと見つめてくる。

 ……なんか、少し恥ずかしいな。


 気恥ずかしさを紛らわそうと黒猫の頭の頭の上に手を載せて、優しくわしわしと撫でてやる。

 そうするといい子にお座りをし、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうにするんだ。


 ただ、うちの猫はこれだけで終わりではない。

 なんと人間に変身できるのだ。

 ぱっと聞いても意味がわからないかもしれないが、本当のことだ。


「……ん、気持ちいい」


 実際こうやって撫でていると、突然小さかった黒猫が僕よりも十センチ背の高い黒髪の女性に早変わりしたりする。

 頭頂部に載せた手の両脇でピクピクと動く猫耳と、滑らかでしなやかな動きをする黒い尻尾。その満面の笑みと漏れる吐息が、頭なでなでが如何に心地良いかを表していた。


「全く、クロエは甘えん坊だなぁ」

「ハルの手のひら、好き。もっと撫でて」

「はいはい」


 彼女――クロエは自分の髪を指で触りながら、庇護欲を掻き立てる可愛さでそう言ってくる。

 そんな事を言われると、ついつい僕も嬉しくなって撫ですぎてしまう。


「……強い」

「ああ、ごめんごめん。もっと優しくするよ」

「ううん、もう良い。満足した」


 これが猫の気まぐれなところで、彼女にもその性格がバッチリと反映されているようだ。

 個人的にはまだまだ撫で足りないのだけど、この状態で強引にすると爪で引っ掻かれてしまうので自制が大切。


「ま、そんなところも可愛いんだけどね……」


 クロエは猫の姿に戻って、部屋の隅に置いてある畳んだ綿製のタオルケットへと向かっていく。

 何歩かその小さな足で踏んで形を整えると、うずくまって寝息を立て始める。その行為も姿も愛らしく、思わず見入ってしまうほどに可愛いが溢れていた。


「ありゃ」

「……ん? あっ」


 視線を前に戻すと、そこにはニコニコと笑みを浮かべた女性が一人。 クロエのような可愛さはその笑みには無く、邪悪なオーラが漏れ出すのが見えるくらい、怒りに満ちていた。

 これぞ静かなる怒り。終わったな、と僕は諦めることにする。


「フフフフフ……。ハルちゃん、さぞ楽しそうだね。そんなにティナよりクロエのほうが遊んでて楽しいのかな」

「い、いや、そんな事は……」


 ニコニコと恐怖の笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄ってくる少女――ティナ。

 橙の髪が妖しい輝きを放つ。


「ティナのほうが、あの気まぐれ猫よりハルちゃんの事を愛してるのに。自分がどうだとしても、ハルちゃんが満足するまで付き合ってあげるのに。ねえ、ハルちゃんはまだ満足してないでしょ? ティナが触らせてあげる」


 ティナの白い肌が半透明な橙色の粘性体へと変わっていく。その深部はキラキラとした光を帯び、変幻自在な身体は人の形から丸いぽよぽよとした球形へと変わっていく。


 そう、彼女はスライム。

 よくあるあの姿に変化したティナは、ズルズルとその身体を動かして僕の膝の上へと乗ってくる。


「さあ、思う存分に愛でてよ」


 ……可愛い。

 ぷるんぷるんとしたその身体。肌に触れると冷感が伝わり、もちもちとした感触が心地良い。


「ふぇぇ……。気持ちいいな……」

「フフフッ、ハルちゃんはこの身体が好きだよねぇ。いいよ、もっと乱暴に扱っても。それがハルちゃんを癒せるなら」


 粘土のようにこねてみたり、クッションのように抱いてみたり、上半身を全て使ってぷるぷるを感じてみたり。

 まるで水に浮いているような感覚。

 触れたら弾けてしまいそうな水滴にも似たティナの身体は、超高級なクッションなんてものは比ではないほどにリラックス出来る。


「ハルの独り占めは、だめ」

「……この泥棒猫」


 と、地面についている僕の足先からスロープを上るかのように、いつの間にか猫のクロエが上ってくる。

 僕の背中まで来たところで、またふみふみ。うずくまって、尻尾を上げ下げし始める。


「あ、あの……?」

「ハルの背中が、一番の寝床。良き良き」

「でもティナはハルちゃんに抱いてもらってるから。ティナの勝ち」


 寝転がった下にはティナ、上にはクロエ。

 密着したサンドイッチのような状態で、僕らはそのままお昼寝した。

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