第1話やで! ここどこやねん‼︎
パチリ。
目を開けると、一面の青空が広がっていた。そよ風が頬を撫でて、それに合わせて草原が踊っているのが分かった。温かい日差しが、心地よかった。
頭上を、何かが通り越していくのが遠目で見えた。それは、一見鳥のように見えたが、コウモリのようにも見えた。場合によっては、昆虫のように見えたかもしれない。
とにかく、俺の辞書にそいつはいなかった。瞬きを一度する間に、それは跡形もなく消えてしまった。正確には、物凄いスピードで通り過ぎたのかもしれないし、瞬間移動してしまったのかもしれなかった。
ここ、どこなんやろう…。
今更かつ当然の疑問だった。俺はこの風景を一度も見たことが無かった。匂いも、音も、雰囲気でさえも。
ま、ええか…。
こーゆー時は、悩んでいても仕方が無いんや。まっかい寝よ。
俺は再度目を閉じた。
いつまで、そうしていただろう。俺が陽気に微睡んでいた、その時。
「いつまで寝ているんですかっ」
声が聞こえたと同時に、殴られたような大きな衝撃が走って、俺の意識が現実に戻される。実際、俺は腹にダメージを受けていた。反射的に、後ろに飛び退く。
そこで初めて、俺は身体を起こした。瞬間、目に景色が飛び込んでくる。突然の鮮やかな光に、目が眩んだ。
そこは、一面の草原だった。
どこを見ても、草、草、草…。時々、小さな花がまばらに咲いており、それが一際目を引いた。その全てが、風に凪いで、光を乱反射している。
いや、だからどこやねんここ!
そこで、ようやく俺は目の前の影に目を向けた。遅れて、俺を起こしたのはこいつだと理解する。
驚くほど大きな耳。もこもこの毛に包まれた小さな体躯。長いヒゲ。その特徴は猫を彷彿とさせたが、やはり、何かが違っていた。
「いや、誰やねん‼︎」
思わず、心の声が漏れる。その生物は心外だという風に眉(っぽいもの)を 顰めた。その表情には妙に人間味があって、不気味なハズなのに俺は少し安心してしまう。
「…失礼な方ですね」
「しゃ、喋ったぁぁ⁉︎」
「…今更ですよ」
その猫らしき生物は、何故か、一瞬酷く悲しみの表情を見せたような気がした。しかし、すぐに気を取り直すと、ふぅと溜息を吐いて立ち上がった。
「‼︎」
もちろん、二本の足で、だ。
風を受けて、彼は立っていた。アッシュグレーの毛が、金色に輝いて見えた。
「お、お前、誰…何者なん?」
「人に名前を聞く前に、まずは貴方が名乗りなさい」
喋る、猫…?しかも、二足歩行…?
普通に考えて、ありえへんやろ。しかも、性格に難ありっぽいし。
明らかに、おかしい。
脳が、何かが危険だと警鐘を鳴らしている。
驚きと混乱で、俺は動けないでいた。
しかし俺は、それ以上に興奮していた。今まで感じたことの無い高揚感。何か、壮大な物語が幕を開けたような、そんな確信があった。
それに、この感覚は、不思議と心地よくて、
何故だか懐かしい感じがした。音も、匂いも、雰囲気も…。
「俺は…龍馬」
「りょうま…。妙な名前ですね」
不思議と、名前は覚えていた。どうしてここに居るのか、自分はどこから来たのか、全く分からないのに。あと、妙な名前ちゃうわ!
「じゃあ、行きましょうか」
「あ、ちょ…」
どこに?
俺が言う前に、そいつは踵を返して歩き出そうとした。自分勝手なやつやな…。
反射的に、俺は身体を動かす。
「…あぁ、そうだ」
そいつが、思い出したように立ち止まる。
「私は、ヒノといいます…二度と、忘れないようにしてくださいね」
ヒノが、こちらを振り向くことなくそう言った。その時の彼の表情は、影に隠れて見えなかった。
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