第13話 さっそくバレてる!?
凪忌と別れて、自分の家の前。
扉の取っ手に手をかけると、背後に人の気配がした。
明らかに、私を気にしてる。
学生も会社員もまだ、帰ってくる時間じゃないし……。
まさか、どろぼう!?
どどどどうしよう……!
もしそうなら、鍵開けないほうがいいよね。
でも、襲われたりとかしたら……っ。
「すーいちゃん。何してんの?」
「ひゃっ」
ぽんっと肩に手を置かれ、反射的に飛びはねる。
聞き覚えのある明るい声。
私はそーっと振り向く。
「……な、なんだ。ハクかあ」
「あはっ。翠ちゃんてば、ビビりすぎー」
ハクは片手を口にそえて、くすくす笑う。
どろぼうじゃなくてよかった……!
でも、紅は?
まだ学校から帰るには早いよね?
「紅ならあっち。体調不良で早退したんだ」
ハクが親指で肩を指す。
その先には、塀に隠れて私たちをのぞく紅が!
「えっ。体調悪いの? 大丈夫?」
「あー……うん。本人は平気だって言うんだけどな」
うん? つまりどっちなんだ?
紅は平気って言うけど、ハクから見たら平気じゃないってことだよね。
それって大丈夫なのか……?
「入らないの?」
「あっごめん! 今開ける……って、鍵どこやったっけな……」
あれ。
ポケットにいれてたと思うんだけど……。
どっかに落としちゃった!?
「鍵落としちゃったかも。探してくる!」
「じゃあ、俺が開けるよ。荷物置いて、ちゃんと確認してからのほうがいいんじゃない?」
たしかに、と納得して、場所をゆずろうとする。
と、ハクは扉に手をついて、さりげなく道を塞ぐ。
じゃあ反対側から……って思ったけど。
そっちには鍵を開ける腕!?
なっなんでっ?
これじゃ、壁ドンみたいだって!
ハクはひそかに心臓バクバクの私に、顔を近づける。
「部屋で何飼ってるのか知らないけど。問題は起こさないでよ。隠したそうだったから、ごまかしてあげたけど、そうなる前には、紅にもバラしちゃうからね」
とっさに言葉が出なかった。
部屋でって……イヅナのこと!?
なんでバレてるの!?
しかもこれ、警告だ。
問題は起こすなって、つまり面倒事を持ちこむなって意味だよね。
早く追い出せって言ってる?
それとも、迷惑かけなきゃいいって意味?
「ハク、それって……」
「はいはい。いいからさっさと、部屋行って。紅が休めないよ」
ハクはぱっと体を離すと、家の中に私をおしこんで扉を閉めた。
あ……そっか。
紅は私に会いたくないから、ハクに声かけさせたんだもんね。
私が早く部屋に入らないと、紅も戻れないか。
私はしゅんとうなだれて、自分の部屋に向かう。
もうなれたけど……。
小さいころは、翠姉ちゃん翠姉ちゃんって、なついてくれてたと思うんだけどな……。
「ただいま……って、イヅナ!? 何してるの!?」
「見て分かるだろ。瞑想だ」
「いやいやいや、そうじゃなくて……!」
部屋の真ん中で座禅を組むイヅナ。
ベッドから出ないでって言ったのに……!
隠符の意味ないじゃん!
「いいい今っ。紅たちが帰ってきててっ」
「うん」
「ハクっていう、竜のスペクトルには、イヅナのことバレててっ」
「だろうな」
「お願いだから、隠符の範囲からは……っ。え?」
イヅナは立ち上がって、天井を指さす。
四端には……ベッドに設置したはずの隠符?
なん、で……。
あれじゃ意味ないんだって!
私はイヅナに、バッと飛びつく。
「な……っ!?」
「私の力じゃ、隠符の効果もベッドサイズが限界なの! ハクは黙っててくれるって言ってたけど、紅にバレたら追い出されちゃうんだよ!? そしたら、イヅナが……っ」
「わ、わかった。分かったから、一旦落ち着けって」
全力でイヅナをベッドに戻そうとする私を、彼はぐいっと引きはがす。
なんでそんなに落ち着いてるの?
行く当てないって言ってたよね。
追い出されたら、イヅナが休む場所がなくなっちゃうのに……!
イヅナは私をベッドに座らせる。
そして、切り替えるようにこほんっとセキ払いをした。
「手袋、取ってみてくれ」
「手袋……?」
そういえば、イヅナがつけてくれてたんだっけ。
私は指先でつまんで、すーっと外す。
「っこれ……!」
ひし形の星が連なる半円の中に、達筆でくずされた『契』の文字。
黒く刻みこまれているソレは、スペクトルとの契約の証だ。
イヅナが申しわけなさそうに頬をかく。
「契約すると、スペクトルでも神札が扱えるようになるのを、思い出して。翠が気を失ってから、イキオイでしてしまったというか……。ごめん、気持ち悪いよな。でも、俺の傷が治るまでは、解除しないでほしい」
「あ……うん! 分かった」
そうだよね。
私みたいに、祓い屋の才能がないヤツと契約なんてしたら、自分の身も危険だ。
何より波長が合わなかったら、ヒートを起こす可能性もある。
多くの場合、スペクトルが運命的な何かに引かれて契約するっていうけど……。
そうだよね、緊急手段だよね!
一瞬、私なんかにもって思っちゃったよ。
そんなわけないのに。
私が相当嫌がってると思ったのか、イヅナは居心地悪そうに目をそらす。
「あのさ。本当に嫌だったら、言ってくれれば、出ていくし……」
「違うの! 嫌とかじゃ、なくて……」
なんですぐ、出てくとか言うのっ?
いつまでだって、いてもいいのに。
でも、相棒としての契約だと思ったなんて、勘違いもいいとこだ。
恥ずかしくて言えないよ……!
私とイヅナの間に、なんともいえない気まずさがただよう。
互いが言葉を選んでいるようにも、相手が話し出すのを待っているようにも思えた。
しばらくそんな空気を過ごしていると、隣の部屋からもめる声がした。
「……っ! ……でしょ!? ねぇ、待ってってば!」
人が出ていく気配。
それに続いて、もう一人が追いかけていく。
紅とハク……?
紅は体調が悪いんじゃなかった?
私が外を気にしてるのに気づいたのか、イヅナも扉のほうを見る。
「弟?」
「うん。体調が優れないって、早退してきたみたいなんたけど、今から外出なんて……」
「なら、家をふっ飛ばさないためかもな」
イヅナの口から出た不穏な言葉に、耳を疑う。
今、家をふっ飛ばすって言った?
そんなの、紅にはやる理由がないし、物理的に不可能なはず。
ハクならって思うけど、紅を止めようとしてたみたいだし。
なら、なんで? どうやって?
「……ヒート?」
「そうだ。人間のほうの、力の流れがおかしい」
流れがおかしいって……紅の?
でも、ヒートはアレルギー反応みたいなものだって、先生が言ってた。
紅はハクと契約してから、二年くらい経ってる。
今さらヒートなんて……!
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