第9話『割れた、皿』

サイドバイサイド(仮) 第9話


割れた皿の破片が床に散らばり、店内に一瞬だけ重たい空気が流れた。私の不注意で起こったアクシデント。皆の視線が私に集まる中、私は自分の軽率さを呪った。先輩に憧れの気持ちをぶつけるあまり、こんな醜態をさらしてしまうなんて。


「あ…ご、ごめんなさい…私、本当にすみません…」


割れた皿に手を伸ばそうとした、その時だった。


「なるみ、大丈夫か?怪我してないか?」


心配そうな声と共に、私の隣に先輩が現れた。私は、先輩の真剣な表情に、ドキッとした。先輩は、私の手元に散らばる割れた皿に目をやり、それから私の顔を心配そうに見つめた。


「ほら、危ないから、手を引っ込めろ。」


先輩は、私の腕を優しく、でもしっかりと制した。そして、私に怪我がないことを確認するように、私の顔をじっと見つめる。


「大丈夫、です。先輩…」


私は、先輩の優しい声に、思わず涙ぐみそうになった。私のミスを責めるのではなく、ただただ私の心配をしてくれる。その姿に、私の憧れは、さらに一層深まっていくのを感じた。


そして、先輩は、私にそう言った後、割れた皿の破片に手を伸ばした。


「危ないから、俺がやるよ。なるみは、そこから離れててくれ。」


先輩は、そう言いながら、私を優しく脇へ誘導した。まるで、私がさらに怪我をしないように、守ってくれるかのように。先輩は、私が立ち尽くしている間に、慣れた手つきで、落ちた皿の破片を丁寧に拾い始めた。


近くにいたちはやが、先輩が割れた皿を片付けてくれる様子を見て、感心したように呟いた。


「やっぱり、先輩、頼りになるなぁ。」


私も、頷くことしかできなかった。先輩は、私がどうしてああなってしまったのかを、誰よりも理解してくれているかのようだった。私の「妹みたい」という言葉は、単なる思い込みではなかったのかもしれない。先輩は、私を危ないことから守ってくれる、そんな存在でもあるのだ。


先輩が、破片を拾い集めている間、私はただじっとその様子を見ていた。先輩の手つきの丁寧さ、真剣な表情。その全てが、私には眩しく映った。私が引き起こした混乱を、先輩が静かに、そして優しく、処理してくれている。


「ありがとう、先輩。」


割れた皿の片付けが終わった頃、私は先輩に感謝の気持ちを伝えた。先輩は、私の言葉に、少しだけ照れたように笑った。


「いや、大丈夫だよ。でも、次からは気をつけてな。」


先輩の言葉に、私は深く頷いた。先輩との距離が、ほんの少し、縮まった気がした。先輩は、私の憧れであり、そして、私のことを気遣ってくれる、大切な人なのかもしれない。


割れた皿の残骸は、店のスタッフが片付けてくれたが、私の心には、先輩の優しさと、そして、私がもっと先輩の力になれるような人間になりたいという、新たな思いが芽生えていた。


(つづく)

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