第6話 失われた都
「……え?」
思ってもみない規模の話にロゼットの眉が寄る。
見越した反応なのだろう、また一つ頷いたオーサは続けた。
「順を追って、事実のみを語るとしよう。知っての通り、アルタリアには悪名高い王がいた。彼の王はある日、全てを一新しようと思いついた。アルタリアという国を己の思うがまま塗り替えようと考えたのだ。彼の王にはそれが出来るだけの膨大な知識と甚大な魔力があり、周囲には賛同者しか存在を許されなかった。……賛同したところで、自らの命が失われる未来に変わりはないと知っていても」
「それって……つまり、塗り替えるというのは、彼らの命を使って?」
「ああ。そういう儀式を行おうとした。だが……結果はご覧の通り、見事に失敗した。失敗して――その時点でアルタリアという国は消失したのだ、内々に」
「内々に……?」
現実味のない規模の話から、まるでおとぎ話を聞いているような気持ちになってくるロゼット。それでも引っかかった言葉を繰り返せば、オーサが疲れたようなため息をついた。
「ここに来るまでの間、アルタリアが一夜にして消滅した、などという話は聞かなかったであろう? 外からは変わりなく存在している国として扱われていたはずだ」
確かに、道中でそんな話は全くなかった。アルタリアの外で乗った馬車は、迷いなく、ディペルの看板があった場所までロゼットたちを運んでいた。
と、ここであることに気づく。
「そう言えばあの時……アルタリアの近くの村で馬車を捕まえた時は、ようやくアルタリアに着くって思ってたけど……。馬車移動だったとはいえ、首都のはずなのに到着まで早かったような?」
馬車に乗った安心感からついウトウトしてしまい、そこからの到着で一喜一憂して今に至る訳だが、思い返せば、アルタリアの外から首都まで、どんな馬車だろうと一日二日で着く距離ではなかった。それが半日も掛からず到着した事実を今更ながら不審に思えば、オーサは何でもないことのように言う。
「それについては恐らく、そなたたちがアルタリアの招待状か、類似する品を所持していたためであろう。あれらの類いには、アルタリア領内まで辿り着いた招待者を迅速に移動させる魔法が掛けられている」
「この書簡にそんな魔法が……?」
驚きのままにくしゃくしゃの書簡を取り出し、テーブルの上で伸ばす。
ロゼット――というよりも、仮にも国名でもって送られた書簡の有様を見たオーサは、面食らったような顔をしたが、笑いとも取れる息を吐くと首を振った。
「……ともかく。外の国から見れば、アルタリアは今もってその脅威共々健在であると認識されているが、内実はそなたが見た通りの状況だ。崩壊も荒廃も通り越して、ただ過去に存在したという事実のみがある」
「世捨ての里という名前は、そこから……」
アルタイルと諸国の境でガラリと変わる認識。外界から隔絶された、あるいは隔絶したこの場所は、確かに「世捨て」の名に相応しいのかもしれない。
とはいえ、大国と称されるに値する広大な大地と、その外周に同様の認識をもたらせられる力とは、一体どれほどの魔力があれば為せるものなのか。
少しばかり魔法の知識を持っているロゼットは、それゆえ想像し難い力に、とんでもない話だと顔を青ざめさせた。
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