8月18日

「お先に失礼します」

 束沙は控え室から出て自転車に鍵を刺す。ケータイを開くと渚からメッセージが通知が来ている。

「今日俺家いないわ」

 束沙は軽く首を傾げた。

「おっ、束沙! おつかれ〜」

 笑顔で手を振る渚の前で、束沙は自転車をとめる。

「えっと……何してるの?」

 渚は足下にあった箱を持ち上げる。

「ん〜、手伝いかな!」

 そう言い残して店に入っていく。束沙は店のすぐそばに自転車を置いて渚の後を追う。レジカウンターの前には背を丸めた老女が座っている。束沙が会釈をすると老女は微笑む。

「お友だちも、来てくれたのかい?」

「たまたま通りがかったから捕まえて来ちゃいました!」

 そう言って笑いながら、渚は箱をレジの奥へ運ぶ。

「おばあちゃん、これって冷蔵庫の中に入れるやつ?」

「ん〜? 何入ってるんだい?」

 老女も奥へ入っていき、束沙は一人残される。

「……僕は……帰ってもいいのかな……?」

 つぶやいた疑問に答えるように渚が顔を出す。

「束沙も一緒に手伝わない?」

「……とりあえず、なんで渚が手伝ってるのか訊いてもいいかな?」

 渚は老女に一言ことわってから束沙と外に出る。

「今日2人とも仕事に行ってて、暇だな〜って散歩してたんよ。ついでにどっかでバイト募集してねぇかな〜って」

「諦めたんじゃなかったっけ?」

「いや、諦めてはねぇよ。……そんでここ通りかかったら、おばあちゃんがいてさ。遊びに来た小学生たちを見送ってたっぽいんだけど、腰痛そうだったんだよ」

 こんな感じで、と言いながら渚は背を丸め、顔をしかめつつ腰の辺りを擦る。

「だから、大丈夫すか? って声かけたら、微笑んで大丈夫って言ったんだよ。大丈夫じゃなさそうなのに」

「で、何か手伝いますよ、みたいなことを言ったわけか」

「おう! ……んで、実はもひとつ手伝ってる理由があるんだよ」

 渚はニヤッと笑う。

「何?」

「小遣いと称して金もらえるんだ!」

「あ〜……そういうこと」

「だからこれからもちょくちょく手伝おっかなって」

 ニッと笑う渚に、束沙も微笑む。

「良かったね、抜け道があって」

「ほんとにな〜……というわけで、俺は手伝いに戻るわ!」

「じゃあ僕は、渚に会計してもらおうかな」

 渚は軽く目を見開いて言う。

「なんか買うものあったんか?」

「うん、かき氷食べようかなって」

「……俺の目の前で?」

「そんなことは言ってないよ?」

 笑顔で答える束沙を軽くにらむ

「少し、いじわるじゃねぇか?」

「……そうかな?」

 2人は少しの間見合ったが、渚が先に視線を外す。

「まぁいいや。俺も後で食お〜っと」

「今食べちゃダメなの?」

「じゃあ休ませてもらお〜っと」

 2人は店に戻っていった。

「……で、結局束沙も手伝ってんじゃねぇか」

「レジの手際が悪いから、つい」

「これからうまくなんだよ!」

 黄昏時の道を歩く。ふと渚が立ち止まり、束沙も後ろを振り返る。

「……こぢんまりとしてっけど、意外と人来てるよな」

「そうだね、僕が来てからも数人買って行ったし」

「……なくならないでほしいよな」

「そうだね……」

 2人は再び歩き始める。

「あそこ、おばあちゃんしか店員いないんだ」

「確かに見たことないね」

「他の家族はみんな別のところいるんだって。だからそろそろ畳もうかなって言ってた」

「そう、なんだ」

「でもさ」

 渚はニッと笑いかける。

「俺らが手伝ってたら、おばあちゃんもあんまムリしなくてい〜し、……もしものことがあってもなんとかなんないかな〜なんて……思ったんだよね。実際うまくいかないだろ〜けど!」

 ひとつ伸びをしてから束沙の前に出る。

「そう思うくらい、楽しかったわ!」

 束沙は微笑む。

「そうだね。……本当に継ぐってなったら大変だろうけどね」

「それは……がんばる」

「いや、継がないでしょ?」

「え〜、わからんよ〜?」

 そして声を出して笑い合った。

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