取調室




 私は、大勢のバヤナルトの兵に取り囲まれながら、地下の取調室へと入れられる。


 取調室へ入ると、違和感を覚えて。視界の左端に、いくつものテロップが流れる。


 『ウォーターアロー封印、ウォーターウォール封印、水圧斬封印』


「何だ、この部屋は。魔法が封印されるのか」


 コレには、取り調べをするイヴァンが答えた。


「やはり、ウィザードには、分かるようだな」


 下にいた、貴族もどきよりは、マシな対応を望みたいのだが。


「私は、ウィザード何かじゃない。何度説明したら分かってくれるのだ」


 同じ石のブロックが積まれた部屋だが、魔法を封印されただけなのに、異様な圧迫感がある。


「嘘を付くな。ウィザードでもないのに、あの猿どもの森を、抜けられるはずが無い。俺を、バカにしているのか」


 自分の納得する答えが出るまで、私に尋問する気らしい。


「何を言ってる。猿などは、私にとって雑魚なのだよ。何故それが分からない」


 ココに来るまで、何度も説明し納得させようとした。相手とは、話ができる、分かり合えるとは信じていた。


「過去に、あの草原を確保するのに、何人の血が流れたと思っている。千や二千の血が、流れたのだぞ。その中には、私の祖先も入っている」


 下にいた貴族もどきと、何ら変わりはしなかった。


「それがどうした。私を、鎖で繋いでいるからといって、甘く見るなよ。この足枷も、私にとっては何の効果も無い。只のアクセサリーだ」


 今の私は、魔法を封印されて、手足も鎖で繋がれ、大きな鉄球が鎖の先についている。

 ドラゴンの鱗は、魔法では無く。スキルとして扱われているみたいだ。擬人化も、解けていない。


「バカを言うな。素直に何処から来たかを吐いたら、国外追放で許してやる」


「それは困る。マリア・バヤナルトに、合う為にココへ来たのだぞ。そんな事したら、この街を、更地にするぞ」


 イヴァンの眼光が鋭くなった。今までは、敵意を向けずに、話をしていたのだが。マリアの名が出て変わった。


「何が目的だ。女だからって、容赦はしないぞ」


 椅子を少し引いて、腰の剣に手をかけようとした。


「鉄の剣で、私を殺すつもりか。無駄だ、諦めろ」


『コンコン』


 取調室の戸からノックする音が聞こえた。

 イヴァンの聴取を、薄茶色の紙に内容を書き留める兵士が、立ち上がり。ドアへと向かった。


 イヴァンも、誰も呼んだ覚えはなく。不思議に思い、後ろの戸を振り向き。驚いた。


「誰だ。オリスを呼んだのは」


 男は、身長が低く、薄汚れた格好で、髪の毛はまばらに生えている。片目を失い、歯は欠け、額から右頬にかけて、痛々しい程の切られた古傷が残っている。


「副戦士長が、『秘密の抜け穴を知っている者を、生きて返すな』と、言われましたので。私が、来ました」


 オリスの手には、拷問道具と思われる品々が、きちんと並べられている。


「おい、女。悪い事は言わん。素直に全部吐け。そしたら、苦しまずに死ねるように、頼んでやる。辱めを、受けたくないだろ」


 イヴァンの顔は、嘘をついているように、見えなかった。机を叩き、声を荒らげている。


 聴取を書き留めるヤツは、取調室の戸を閉めて、椅子に座り。今までの言葉の内容を、書留は始めた。

 一番有能なヤツは、コイツなのか。


 オリスは、手に持った道具をテーブルに置いて、ハンマーを手にした。

 右手に握られたハンマーは、オリスの左手の手の平に、二度軽く振り落とされて。

 オリスは、ハンマーを振り下ろす感触を、確かめている。


「あぁ、手が滑った」


 オリスは、前触れも無く。振り上げたハンマーを、机の上にある私の手に振り下ろした。

 性格には、指先だ。右手の人さし指を狙って、振り下ろされた。


 私は、声を上げること無く、オリスのハンマーを受け止めて。ハンマーの運動エネルギーは、机を2回バウンドさせた。


「久しぶりに、女の悲鳴が、聞けると思ったんだが。我慢強い女だ」


 オリスは、私の手袋に手を伸ばして。潰れた指を、確認するために手袋を捲った。


「うわ~。何だこの化け物は」


 私の透ける肌に、点滅する光を見て、オリスは恐怖を覚え。ハンマーを、道具箱に戻して、ナイフを取り替えて、手袋を切り裂いた。


 イヴァンは、止めようとしたが。筆記係は、黙々と状況を書き続けている。


「この化け物が、死ね。死ね。死ね。死ね死ね」


 オリスは、私の手袋だけでは飽き足らずに、着ている服も、切り裂いて、丸裸にした。


 私は、大きな胸の下で腕を組み。足は秘部を隠すように、左足を持ち上げて組んだ。

 背もたれに体重を掛けて、椅子を傾けた。バランスは、地面と接地している右足だけで、保っている。


 私を始末しようと、オリスの攻撃は止まらず。

 私は、オリスの左手の小指を、強く握り。


 この時点で、オリスの子指は、複雑骨折をして、小便を漏らした。


『グワッ〜』


 私は、オリスの子指を握ったまま、手首を回転させた。


 機械のように、手首から先がクルクルと回り、オリスの骨は、剥き出しになり。血がダラダラと流れている。


「ぁ゙ぁ゙~」


 オリスは、右手で。私の手を剥がし取ろうとするが。その度に、私の手がクルクルと回り。力が入らずにいると。子指は、ギリギリ薄皮一枚で、繋がっている状態までになった。


「おい、私は回復魔法を持っている。この部屋の魔法解除を解け。そしたら、コイツの小指を治してやるぞ」 


 私が、オリスの子指の現状を見せる為に、手を離して見せると。

 オリスの指は、指でなくなっていた。


 オリスは、恐怖を感じて、出口の方へと走った。


 私の右手が伸びて、オリスの胴を掴み、そのまま、胴を一廻りして包み。オリスは漏らした。


「この駄犬は、躾がなってないねぇ。それとも、私に抱かれて、嬉ションでもしているのか」


 私は、逃げられないように、縛ったつもりだったが。思いのほか苦しかったようで、胃の中の物を吐いた。


「すまない。オリスがしたことは謝る。だが、ココの魔法解除を、切る理由には行かない。一度、外へ出て話をしよう」


 やっと、私の話を聞く気になったか。遅すぎるがな。


「2つの願い事を聞け」


 私は、地上の部屋へと移動させられた。


 「1つは、私の服を準備しろ。バヤナルトの兵士は、レディーを裸で放置するのか。コレが、貴族の振る舞いなのか。化け物とは言え、レディーだぞ、私は」

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