第16話
『警備本部より正門班、応答せよ。
此処から爆発を視認した。
何があった応答せ……』
音声が、何者かに通信機が踏みつけられ、破砕されると共に途切れ、通信機だった物は銀色の破片となり、揺れる火影と無数の人影を写し出すのみとなった。
周囲には無数の人型だったものがが散らばり、赤く染まったひび割れたタイルが残るのみで、事態の悲惨さだけを伝えてくる。
その中の数十人の男が進む。
男達は古い軍の装備……小口径高速弾を撃ち出す突撃銃や拳銃、今となっては旧式化した短小弾を弾帯で繋げ、給弾する機関銃、堅牢な陣地や装甲車を一撃で吹き飛ばせる対戦車ロケットランチャー、長年の使用による外布の摩耗が目立つ防弾装備と巨大な鞄を身に付け、爆発によってクレーターを通り過ぎると、木々の隙間から僅かに屋敷が見える位置で止まった。
上空に数匹の不気味な黒い鳥が円を描くように飛ぶ中、髑髏が描かれた黒いバンダナを口元に巻いた男が一人、窪んだ眼孔に佇むギラギラとした瞳から屋敷を睨み付ける。
『周辺はクリア、警備は混乱しているようです。』
周囲にいた男の一人…長杖を持った金髪の若い男が髑髏の男にそう伝えると、髑髏の男はそのギラついた視線を仲間達へと向け、ぽつりと呟いた。
『……"シャスール"の準備を始めろ。』
リーダー格の男の一言を合図に、十数人はいるであろう男達が一斉に大きな鞄を下ろし、中に詰められていた急速培養キット……オレンジ色の液体が詰まったプラスチック製の袋を取り出すと、袋に取り付けられていた紐を引いていく。
袋の中の仕切りが破られ、液体が混ざり合い、泡を生じさせる。
数秒後には袋の中に手足のような影が映ったと思えば、次の瞬間には最後には水風船の様に膨れ上がり、仕舞いに水蒸気を発するほど熱された液体を辺りに撒き散らしながら弾ける。
そこに残ったのは、破れた袋と鮮やかなオレンジ色の液体、そして身体を小さく丸めてた人型の何かだった。
病的なまでに真っ白な外皮に覆われた筋肉質な身体。
頭の骨格の形がはっきりと分かるほどに痩せ細った骸骨の様な頭と鋭い刃物のような腕を持ち、体毛は一切無く、代わりとして全身にバーコードと製造ナンバーが刻まれている。
身体を丸めていた人型はゆっくりと立ち上がると、まるで正気の無い、人形のような様子でその場で立ち尽くす。
全ての袋の中から人型が現れたのを確認した男達は武器を構えて、屋敷の方を見た。
漸くだ。
漸くこの行動を実現することが出来る。
髑髏の男は屋敷を見据えたまま、ゆっくりと口を開き、背後にいる同胞全員に対して聞こえる様に言った。
『諸君、革命はもうすぐ成る。
腐り果てた貴族達に制裁を加える為に、我々がこれから為す偉業は大陸中に伝わり、自由と平等を求める我々の後を追う者の手本となるだろう。』
歓声こそないものの、男達からふつふつと喜びと怒りが混じった感情が吹き出していくのを感じ取りながら、髑髏の男はゆっくりと片腕を高く掲げ、振り下ろした。
『総員………突撃ぃ!』
男達の叫び声が響いた。
武器を片手に一斉に駆け出すと共に、それを合図に、先程までピクリとも動かなかった人型が咆哮を上げながら一斉に屋敷に向かって走り出し出す。
2129年6月24日 午後10時7分。
長い夜はまだ始まったばかりだった。
それは、突然の出来事だった。
私達4人の元へ、窓ガラスを激しく震わせる衝撃と共に、大きな爆発音が遠くから届いたのだ。
突然の出来事に思わず窓から外の様子を窺うと、辺りには土煙が立ち込め、視界が酷く悪い。
それでも目を凝らして外の様子を観察すれば、その惨状に気がつく事が出来た。
死屍累々だった。
正門手前の広場には人型の何かが地面を赤く染め、屋敷の正門の扉が吹き飛ばされて庭の生垣を薙ぎ払いながら地面に突き刺さり、正門があった筈の場所の地面は大きく抉られてぽっかりとクレーターが出来上がっていた。
私達には何が起きたのか分からなかった。
ただ、余りにも突然の事だったから頭の中が真っ白になって、目の前で起きている出来事を認識する事が出来なかったのだ。
でも、そんな事はお構いなしに事態は進行し続ける。
木々の隙間を突き破るように閃光が走ったかと思ったら、次の瞬間には、屋敷の近くに居た警備員の頭が……飛び散った。
私達の誰かがヒュッと息を呑む音が聞こえた。
それをきっかけに……まるで止まっていた時間が動き出すかのように、騒乱が始まった。
古い軍の装備で武装した一団が土煙から飛び出し、野外に居た人々に対して銃口を向けた。
断続的に鳴り響く銃声、遠くから聞こえる誰かの悲鳴や怒号。
庭園の一画で火の手が上がり、別の場所ではパチパチと閃光が走る。
誰かが攻撃を仕掛けているんだ。
私はこの状況をそう解釈した。
その瞬間、心拍数が跳ね上がり、冷や汗と悪寒が私の全身を襲ってくる。
"あの記憶"ではこんな事起きなかった。
でも、現に目の前でこんな事が起きている。
何故?……いや、そんな事は今はどうだっていい。
『此処は危ない。早く安全なところに逃げないと』
私は一度息を大きく吸い込むと、3人の方に向き直り、出来る限り感情を抑えながら言った。
『……だな。数分もすればアイツらこっちに来るぞ。』
最初に同意をしてくれたのはシメオンだった。
表向き冷静に話をしてくれているが、薄らと動揺を感じ取れる。
『は、早くにげなきゃ』
私達の言葉を聞いたカルロスは怯え、一目散に何処かへ駆け出そうとする。
『待って!出鱈目に逃げたら危ないかもしれない』
『じゃあ、どうすればいいのさ?!!』
私は今にも走り出しそうなカルロスの腕を掴み、その場に止めようと説得するが、混乱したカルロスは私に対してそう叫んだ。
シメオンが"二人とも落ち着け"と私とカルロスに声を掛けていると、隣に居たカリスが今にも叫び出しそうな口元を両手で抑えながら後退り、パタッと尻餅を付いた。
『う……ぐっ………』
カリスは腹の中から込み上げてくる吐き気と冷や汗で顔を真っ青に変え、彼女の鼓動は少し離れた場所にいた私にも聞こえるくらい大きな音で鳴り響く。
『か、カリスちゃん!!』
カルロスはカリスの元へ駆け寄ると、自分以上に混乱しているカリスを落ち着かせようと"大丈夫、大丈夫だよ"と声を掛けながら背中を摩る。
カリスの目尻には涙が溜まり始めていた。
『………お前も大丈夫か?』
突然、シメオンが私にそんな事を言って来た。
きょとんとした表情で彼を見返すと、シメオンは神妙な面持ちをしながら、私の手を指差した。
私は震えていた。
震えに気がついた私は、両手をぎゅっと握って震えを打ち消し、出来る限り落ち着いた声色で応える。
『……大丈夫。それより早く移動しないと』
シメオンは私の様子を少し不安気な表情で見ていたが、それを言葉に出す事はしなかった。
『パーティー会場に戻るか?あそこなら警備は大勢いる。』
嗚咽を漏らすカリスとそれを宥めるカルロスを横目に見ながら、シメオンはそう提案した。
『今はそれがいいと思う。……でも屋敷を攻撃した人達の狙いがそこだった時、自分から危険に飛び込む事になるかもしれない。』
私はそれに同意するが、ふと脳裏に過った可能性について話す。
攻撃者は態々警備が厚くなるパーティー中に強襲する事を選択した。
それはつまり、警備の増強というデメリットをの考慮しても尚、このタイミングで実行する事で得られるメリットが大きかったという事に他ならない。
では、パーティー中に襲う事メリットとはなんだろう?
……真っ先に思い当たるのは大勢の人間が一箇所に集まる事。
1度の襲撃で大勢を襲うことが出来る。
もしそれが攻撃者の目的なのであれば、攻撃者は真っ先にパーティー会場に向かうだろう。
そうなってしまったら、私達はむしろ危険地帯に向かおうとしている事になってしまう。
本当にそれでいいのだろうか?
私の懸念を聞いたシメオンはこう答えた。
『分からない物を考えたって仕方ないだろ、今はそれが一番マシだ』
『……分かった。行こう』
私はシメオンの言葉に戸惑いながらも同意した。
『カルロ、カリス、ほらいくぞ。移動だ』
シメオンはカルロス達に声を掛けると、具合の悪そうなカリスをカルロスと支えながら歩き始めた。
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