第4話 薔薇の封蝋
「姫様の大切な大切なお手紙、私が責任を持ってクロード様へお渡し致します。どうぞご安心ください」
手紙を託した侍女の瞳は、使命感に燃えきらきらとそれはそれは美しく輝いていた。
どうも彼女達は主人の不審な行動の数々を目にしながらも全てを察し、あたたかく見守ってくれていたようである。
手紙の相手がクロード様だと言うと、小躍りせんばかりのはしゃぎ様だった。
「必ず成功させましょう」
「何か必要でしたらお手伝い致します」
口々に激励と惜しみない援助を約束してくれて、嬉しさと気恥ずかしさが綯い交ぜになり小さく微笑む。
私史上最高の恋文を送り出して、さあお茶でも飲みながらゆっくり待ちましょうと侍女達がてきぱきと紅茶を淹れてくれる。
お昼も食べそびれてしまったので、小さなサンドイッチのたくさんのせられた小皿も一緒に準備してくれている。
「…あぁ本当に出してしまったわ」
しかし、私は恋文を携えた侍女が書斎から出て行ってすぐに後悔し始めていた。
指南書を読んだ勢いに任せてお誘いの手紙を書いて、書き上げた高揚感のまま出してしまった。
思い返せばまだまだ書き直した方が良かった気もする。
優雅に紅茶の入ったカップを持っているけれど、指先が小刻みに震えるのを気合いだけで抑える。
あまりにそわそわと落ち着かないので、せっかく用意してもらったサンドイッチにも手がつけられずにいる。
指南書の『可愛らしさを添えて』が結局何を添えれば良いのか分からず、せめて何かを、と封蝋印を普段使いの頭文字のものではなく、薔薇の花にしてみたけれど、やっぱり普段のものにしておけば良かった。
時計をチラと見れば、侍女が出て行ってからまだ然程経っていない。
「…今から走って追いかければ、まだ手紙を取り戻せるかしら」
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