番外編 気づいたら君しか見ていなかった(ユズハ視点)

最初に、怖いと思ったのは“ルール”じゃなくて、“人”だった。


 


 この施設に集められた十人──

 みんな表では笑っていても、心の中は見えなかった。


 疑って、疑われて、誰かを惚れさせたら──死ぬ。


 それは、罰じゃなくて、仕組みだった。


 


 でも、彼だけは──椎名レイだけは、


 最初から、どこか……まっすぐだった。


 


 


* * *


 


「やばいな、全員に気を遣いすぎて疲れてきた」


「ユズハって、けっこうがんばり屋だよな」


 


 そんなふうに、自然に声をかけてくれたのがレイだった。


 


 なんでもないようなセリフ。


 でも、なんでもない言葉を、

 “本当にわたしのために”言ってくれている人って、意外と少ない。


 


 はじめて笑った。

 少しだけ、本当の意味で。


 


 


* * *


 


 初めてセッション部屋に呼ばれた日、わたしは泣きそうだった。


 怖くて、何もかも壊れそうで、でも誰にも見せたくなくて──


 


「一人で大丈夫」と笑った私に、


 レイは何も言わずに、ただ横に立っていた。


 


 「助けようか?」とも「無理すんなよ」とも言わなかった。


 


 代わりに彼は、

 “隣にいてもいいよ”っていう空気をくれた。


 


 ──たったそれだけで、心がすっと軽くなった。


 


 


* * *


 


 誰かを好きになるのに、“きっかけ”なんて必要なのかな。


 


 椎名レイは、特別じゃない。

 ヒーローでもないし、いつも冷静ってわけでもない。


 


 でも、私がちょっとだけ泣きそうなとき、

 そっと隣にいてくれる人だった。


 


 目を合わせると、少し照れたように逸らすくせに。


 他の誰よりも真剣に、私のことを見てくれていた。


 


 それが、嬉しくて。


 


 それが、怖くて。


 


 それでも、止められなくて。


 


 


* * *


 


「椎名レイくんが、好きかもしれない」


 


 そう思った瞬間、心が一度止まった。


 だってここは、**“恋をしたら死ぬ世界”**なのに。


 


 それでも。


 好きになってしまったら、もう……止まらなかった。


 


 “生きたい”よりも、“一緒にいたい”って思ってしまった。


 


 バカだな、って思う。


 でもそれが、“私の本音”だった。


 


 そしてきっと、あのときの“私の目”を、彼は見逃さなかった。


 レイくんは、きっと──気づいていた。


 


 だから私は、あの言葉を口にした。


 


「……私が好きなのは、レイくんだよ」


 


 


* * *


 


 惚れるって、怖い。


 でも同時に、とても愛しい。


 


 この気持ちが“命取り”になっても、

 私は、この恋を──恥じたくなかった。


 


 そう思えるほど、

 私は、君のことが……好きになっていた。

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