番外編 怖いのは、わたしの方(雨宮マナ)
わたしは、小笠原くんのことが嫌いだったわけじゃない。
最初に声をかけられたとき、明るくて、元気で、うるさくて。
ああ、タイプじゃないなって思った。
でも、ずっと話しかけてくれた。
どんなにそっけなくしても、笑ってくれた。
そのうち、少しずつ心がほぐれていった。
小笠原くんといると、他の人といるよりも“安全”な気がした。
この施設に来てからも、彼は変わらなかった。
むしろ、前より優しくなった。
最初は、それが嬉しかった。
でも──ランキングで名前が出たとき、わたしは、怖くなった。
「マナちゃんが好き」って、笑顔で言ったあの瞬間。
彼の“気持ち”が、本物なんだと、確かに伝わってしまった。
その時、頭の中で冷たい声が響いた。
“惚れられたら、死ぬ”。
あの言葉が、喉元に棘みたいに引っかかって離れなかった。
怖いのは、彼じゃなかった。
怖いのは、“彼の感情”。
それを受け取った瞬間、わたしは“誰かの死”に加担する。
だから、目を逸らした。
耳を塞いだ。
心を閉ざした。
それでも、小笠原くんは笑ってた。
その笑顔が、痛かった。
わたしにはもう、笑い返す資格がないと思った。
そして、あの瞬間──
わたしが「今は話しかけないで」と言った、たったそれだけで。
彼の世界は、終わった。
なにが正しかったんだろう。
あの時、もっと冷たく拒絶すればよかった?
もっと優しく向き合えばよかった?
答えなんて、わからない。
ただひとつ、分かるのは。
あのときわたしは、はっきり“自分の感情を測った”。
怖がったのは、惚れられることじゃない。
惚れてしまいそうな自分の方だった。
だから、あの瞬間、
わたしの感情数値は“ゼロ”だった。
──残酷なほどに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます