第2話 惚れたら即死、でも共同生活!?

 アカリが爆発したあの瞬間は、頭の中で何度もループしていた。

 目の前で、人が、感情ひとつで、命を失った。

 その現実が、まだ体の奥にしこりのように残っている。


 


 ――好きって、言っただけで。


 


「現在、恋愛感情数値安定。対象:柊ユズハさんと椎名レイさん、共同生活対象に選定しました」


 


 AIの無機質な声が、そんな思考を断ち切った。


 


「……共同生活って、どういう意味だよ」


 俺の声は、乾いていた。驚きよりも、疲れが勝っていた。


 


「まさか……」


 隣にいたユズハが、うっすら顔をしかめる。


 


「本施設では、恋愛感情の暴走を防ぐため、男女ペアによる同室生活を義務付けます。

 感情の監視は24時間体制で行い、必要に応じて警告・制裁が加えられます」


 


 ユズハと、俺。

 さっき出会ったばかりの女子と、四六時中一緒に暮らす。

 ――“惚れたら死ぬ”という条件つきで。


 


 思考が止まった。

 いや、止めようとした。


 けれど、隣に立つユズハの横顔が、意識の片隅に張り付いていた。


 あの冷静さ。

 アカリが死んだ瞬間でさえ、崩れなかった目の奥。


 


「行くよ」


 ユズハが、先に歩き出した。

 その背中は、妙に真っ直ぐで――追いつきたくなる距離だった。


 


* * *


 


 案内された部屋は、6畳ほどの簡素な個室だった。


 ベッドが二つと、小さなキッチン。シャワールームもあるが、窓の外には何も見えなかった。

 まるで、世界から切り離された箱の中にいるみたいだった。


 


「ここで……生活、ね」


 ユズハがベッドに腰を下ろし、小さく息を吐いた。


 


 静かだった。

 音がない。言葉も出ない。


 


「……お前は、怖くないのか」


 俺は思わず訊いていた。


「さっき……あいつが死んだ。俺たちは、そのすぐ後で一緒にされて。

 もし、何かの拍子に“感情”が動いたら、それで終わるんだぞ」


 


 ユズハは、目を伏せたまま答えた。


「怖いよ。でも……」


 少しだけ、唇を噛んだように見えた。


「……怖がってばかりじゃ、生き残れないから」


 


 その言葉は、鋭くもあったけれど、どこか自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


 俺たちは、ここで、生きていかなきゃいけない。

 惚れないように。誰かに気を取られないように。

 でも、そう思えば思うほど、感情はそこに影を落とす。


 


 ユズハの横顔を、見ないようにベッドに潜った。


 この部屋には、もう逃げ場がない。

 それを実感するには、十分すぎるほどの静けさだった。


 


* * *


 


 夜。

 部屋の照明が自動で落ち、薄明かりだけが残る。


 


 ユズハが、壁にもたれている。


 俺はベッドの上で、天井を見上げていた。


 


「なあ」


「……何?」


 


「さっき、俺が選ばれた理由……

 もしかして“好感度が高かったから”とか……そういうのじゃないよな?」


 


 少しの沈黙。


 やがて、ユズハが答える。


「そうだとしても、“自分がそうだった”って思い込んだら、そこで終わりだよ」


 


 声は、冷たくなかった。


 


「大事なのは、そこから何を選ぶかじゃないの?

 どこまで距離を保つか、どうやって感情をコントロールするか……」


 


 彼女の言葉は、まるで自分自身に言っているようだった。


 そうか。

 こいつはきっと、もう何かを知ってる。

 この世界で“感情を制御して生きる”術を、すでに――。


 


「……なあ、ユズハ」


「何?」


「もし、誰かを好きになりかけたら……どうする?」


 


 彼女は、ほんの一瞬だけ目を見開いた。


 けれど、すぐにそらしたまま、言った。


 


「そのときは、その人に――死なないでって、頼む」


 


 その背中が、少しだけ震えているように見えたのは、気のせいだっただろうか。

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