私はヒーローにならなかった

@haku92

プロローグ 「議事録」

「例の子どもについて、最終決定の時期です」


「異能の適正値、身体能力、知能。すべてが上位規格。だが、国への協調姿勢が著しく低い。ヒーローへの勧誘も過去に行ったが、すべて拒否。理由は“面倒だから”。協調の意思なしと判断。国の枠組みの中で制御できない以上…」


「あれは兵器だ。抑えきれないなら、最初から処理するしかない」


「本気で処分を口にするとは思わなかった。まだ、ただの学生だぞ?」


「監視の継続では限界があります。もし本人が明確な意思を持って行動した場合、初動では抑えきれない可能性が」


「処分、か?」


「理想は、再度の勧誘。処分、という選択肢は、これまで一度たりとも取られていない。いかなる危険因子であっても、国家は“教育と管理”で対処してきた。国の“内側”に入れられるなら、それに越したことはない」


「だが、それが叶わないなら“危険因子”としての処理が妥当」


「犠牲にするには惜しい才能だ。だが、“持て余す力”は、国家にとっては脅威でしかない」


「それでもこれは、国家にとっての“禁忌”だ。異能者を排除するという一線は、いままで誰も越えてこなかった」


「その一線を越えねば、守れないものがある。国家の秩序、民衆の安全、そして、この先の未来だ」


「国は、彼女に生き延びてほしいと思っている。その道は、ヒーローとしてこの国に尽くすこと。それだけだ」


「この決定が漏れれば、ヒーロー制度そのものが揺らぐ。だから、処分は“なかったこと”として処理する」


「再勧誘の機会は最後とする。説得が通じないなら、速やかに封鎖・拘束。あくまで“安全のための処置”として、外部には伏せる」


「了解しました。処理実行は、予定通り七日後でよろしいでしょうか?」


「問題ない。反逆者にならぬうちに、幕を引く。これは国家の平和のための、正当な措置だ」


「未来にこの会議を問われた時、誰が責任を取る?」


「その頃には、私たちの名など残っていないさ。記録にも、記憶にも」

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