真夜中は別の顔 『聖女と悪役令嬢を時間帯で使い分けてたら、どっちも恋してどっちも本気にされて、選ばなきゃいけない未来が来たようです』

カトラス

第1話 聖女になったと思ったら夜は悪女でした。

※ まえがき

ようこそお越しくださいました!


本作『聖女になったと思ったら夜は悪女でした』は、昼は聖女として敬われ、夜は悪役令嬢として恐れられる――そんな“二つの顔”を持つ一人の少女の、恋と陰謀と秘密にまみれた物語です。




主人公は、王国に突如現れた“聖女”として注目されながら、夜になると別人格・リシェルが現れ、裏社会を牛耳る悪女として動き出すというジキル&ハイド構造。


しかしこの物語の本質は、ラブコメです。


昼の聖女が惹かれたのは、女好きで不遜な極悪プレイボーイ貴族。


夜の悪役令嬢が本気で恋してしまったのは、真面目で不器用な王太子殿下。


どっちも“私”、だけど、どっちも“本気”で恋してしまった。




「恋するって、こんなにも苦しいの?」


「選べなんて、そんなの無理よ……だって、私はふたりとも、本当に好きなんだから!」




──一人の少女に宿る二人の人格と、二つの恋。


果たして彼女が最後に選ぶのは“昼の愛”か“夜の真実”か、それとも……?


切なく、笑えて、ときめいて、ざまぁも炸裂する二重人格ラブコメ、ここに開幕です!




どうぞ最後までお楽しみください。







※ ここから本編です。




 まばゆい光の中、私は目を覚ました。


 まるで太陽の真下にいるような、肌を焼くような感覚。意識が浮かび上がる中で、誰かの叫び声が耳に飛び込んできた。




「……聖女様が、ついに目覚めました!」




「……え? せいじょ?」




 私は、かすれた声で繰り返した。視界がまだぼやけている。まぶたの重さを払い、ゆっくりと目を開けると――そこには、夢のような光景が広がっていた。




 天蓋付きの豪奢なベッド。白と金を基調とした、まるで神殿のような装飾の部屋。部屋の隅には騎士たちが控え、跪く神官や侍女たちが私を取り囲んでいた。




「う、うそ……なにこれ……」




「神の御導きにより、この地に選ばれし聖なる乙女……聖女ユリシア様!」




 誰かが高らかにそう告げた瞬間、部屋中に歓声が沸き起こった。




(ユリシアって……誰? 私のこと?)




「どうかご安心ください、聖女様」




 私の肩に、誰かがそっと手を添える。銀髪の神官服を纏った青年だった。整った顔立ちに、柔らかな微笑み。けれど、その眼差しはどこか測りかねるものを含んでいた。




「ここは神聖王国イルゼリア。貴女は、神より啓示を受けた“聖女”として、選ばれたのです」




「……いや、待って待って。それ、どういう意味?」




 私は首を振る。何がどうなっているのか、まるで分からない。




「えっと……私、本当に“聖女”なの? 間違いじゃなくて?」




「間違いなど、ございません。貴女が神殿で目覚められたという奇跡、それこそが神の証です」




「いやいや、そんなファンタジーみたいな……」




 思わずぼやくと、銀髪の神官――名をミレトというらしい――は微笑みを深めた。




「すべては導きのままに。ゆっくりとで構いません、聖女様。まずはお身体をお労りください」




 そう言われ、私は仕方なく頷いた。どうやら夢ではない。




 私は、自分の手を見下ろす。


 細く、白く透けるような指先。着ている衣は、神聖な光を宿したような白銀のローブ。




 ――これが、私?







 ……だが、真の異変はその夜に起きた。




「ユリシア様、お疲れでしょう。お休みになってくださいませ」




 侍女たちの柔らかい声に見送られ、天蓋付きのベッドに身を沈める。




(今日は……何もかもが訳が分からなかったな)




 眠気に身体を預けながら、私はまぶたを閉じた。




 ――しかし、目を覚ましたのは、夜中。




「……喉、乾いた」




 ベッドを抜け出し、水差しのあるテーブルへ向かう途中。


 ふと、鏡の前で足が止まった。




「…………」




 鏡に映ったのは、黒髪に赤い瞳を持つ少女――私だ。


 だが、その目が、私ではない誰かのように冷たく、皮肉げに細められていた。




「ふふ……なんて滑稽な顔。この姿で“聖女”だなんて、片腹痛いわ」




「えっ……?」




 思わず口を抑えた。今、喋ったのは私の声だった。でも、それは私の意思じゃなかった。




「やっぱり、身体の使い方が甘いわね。久しぶりだもの、仕方ないけど」




 鏡の中の私が――否、“もう一人の私”が、勝手にしゃべっていた。




「ちょ、ちょっと待って、誰なのよあなた!?」




「私? そうね……一応、名乗っておきましょうか」




 鏡の中の少女――その唇が、ゆっくりと名前を紡ぐ。




「私はリシェル。この身体の“もう一人の主”よ」




「主って、どういう……!? 二重人格とか、そういうこと?」




「まあ、そう呼びたいなら勝手にどうぞ。ただし勘違いしないで。私は夜の時間しか出てこない。そのかわり、夜は私のものよ」




「そんな勝手な……!」




「ふふ、まだ現実を受け入れられないのね。可愛いわ、聖女ユリシア様」




 私は愕然として、鏡に向かって手を伸ばす。




 だがその手は、何も掴めなかった。




 リシェルと名乗った彼女――“私”は、私の身体を使って、静かに窓を開いた。




 冷たい夜風がカーテンを揺らす。眼下には、王都の屋根が並び、遠くの塔が月明かりに照らされている。




「ふん……神に選ばれた? 笑わせないで。神なんて、利用するものよ」




 その笑みは、私が知るどんな表情よりも強く、美しかった。




 そう――私は昼は聖女ユリシア。


 そして夜は、悪役令嬢リシェル。




 二つの顔を持つ私の物語は、ここから始まったのだ。




 昼の私は敬われ、夜の私は恐れられる。


 そしてそれぞれの“私”が、違う相手に心を惹かれていくなんて――




 この時の私は、まだ知る由もなかった。




※ あとがき




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


昼は聖女、夜は悪役令嬢。恋のお相手は、チャラ貴族と純情王子。


……まさかの“全員本気”で愛してしまう、二重人格女子の暴走ラブコメにしていきます。




「こんなヒロインいるかーい!」というツッコミから、


「分かる……選べないよね……」という共感まで、\nお楽しみいただけていたら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。




さて、作者はといいますと、昼は地味な庶務員、夜は布団にくるまってプロットを練る二重生活をしております。


(誰か私にも王子様か極悪貴族をください)




もし「続きが気になる!」「二人の恋の行方を見届けたい!」と思っていただけましたら、


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そして、「好き!」「笑った!」「わかる!」などなど、些細なことでも 感想欄 にコメントをいただけたら飛び跳ねて喜びます!(実際に布団の中で跳ねます)




皆さまの反応が、次の更新へのエネルギー源です。


最後まで応援していただけたら嬉しいです!


それではまた、次の更新か、別のお話でお会いしましょう!




聖女でも悪女でもない、ただの物書きより。

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