吾輩は捨て子猫である ~動画投稿でご主人を救う恩返しにゃん物語~

カトラス

第1話 捨てられた場所で、出会いは起こる

吾輩は猫である。

 名前はまだ、ない。

 というよりも、つい昨日まで「吾輩が何者か」なんて考える余裕は一切なかった。


 だって、寒かったのだ。

 ひたすらに、寒くて、おなかが空いて、誰にも見向きもされなかった。

 生まれてから、たぶんそんなに日は経っていない。目が開いたと思ったら、すぐに捨てられた。どこかの誰かに。冷たくて硬いダンボールの中に。


 場所は、古びたアパート裏のゴミ置き場。人目につきにくい絶妙な立地。

 誰も気にしない、ゴミ袋とカビ臭い空き缶の間。

 泣き声をあげても、誰も振り返らなかった。


 にゃーん、にゃおー、にゃー……

 声はだんだん枯れていった。喉も渇いていた。


 そのとき――


「……猫、だ……」


 声がした。

 小さく、掠れたような、けれど確かに人間の声だった。

 ゴミ袋の影から、そっと顔を覗かせると、そこにいたのは……なんだか疲れた顔の女の人だった。


 髪は茶色で、後ろでひとつにまとめられている。

 スーツのズボンにはシワがあり、持っていた紙袋は破れていた。足元はびしょびしょで、傘もさしていない。

 全体的に、「疲れてるオーラ」がにじみ出ていた。


 でも――その目だけは、違った。


 やさしかった。


「……ちょ、ちょっと待っててね……!いま、いまタオルとか、あったかな……!」


 女の人は焦ったようにカバンをガサガサと探し、ハンカチを出して吾輩をそっと抱き上げた。

 その手はふるえていたけど、冷たくはなかった。


「うわ、すっごく軽い……どうしよう、ガリガリ……」


 吾輩は、されるがままだった。動く気力もなかった。

 それでも、ほんのりとあたたかい彼女の胸の中で、ようやく少しだけ安心できた。


「このままじゃ……死んじゃう……」


 彼女の声が、ふるえていた。

 でも、それは寒さのせいじゃないと、なぜか分かった。


「猫拾って動物病院連れてくとか、完全に貧乏の極みOLがやるやつじゃん……」

そう呟きながら、彼女――ご主人は、小さなタクシーに吾輩を抱えて飛び乗った。


「ごめんなさい、急いでるんです……猫が、弱ってて……!」


 タクシーの運転手は眉をひそめつつも、黙って頷いてくれた。

 揺れる車内で、吾輩はご主人の胸元に顔をうずめていた。ふわふわして、ぬくもりがある。

 でも、不安もぬぐえない。


 吾輩は、また捨てられるんじゃないか――

 少し目を開けると、ご主人がじっとこちらを見ていた。目が、涙でにじんでいた。


「……大丈夫。もう、ひとりにしないから」


 それは、吾輩の小さな胸に、まっすぐ届いた。

 何も分からないのに、分かってしまった。

 この人は、違う。たぶん――この人なら、信じてもいい。


 病院に着くと、医者は眉間にしわを寄せて吾輩を見た。

 白衣の裾を翻して、冷たい診察台の上にそっと寝かされる。


「名前は?」


「な、名前は……あ、ありません!今拾って……!」


「体温34度。脱水、低血糖、軽度の衰弱……けっこうギリギリですよ。このままじゃ……」


「た、助かるんですか!? お願いします……!」


「……とりあえず点滴しましょう。体力が戻れば、命は繋がる」


――その日から、吾輩の命のカウントダウンは、逆回転を始めた。


 夜。点滴を打たれた後の吾輩は、ご主人のひざの上で毛布に包まれていた。

 獣医・神田先生が、腕を組みながら言った。


「この子、かなり小さいですね。生後、二週間くらいか。目が開いて間もない」


「そんなに……」


「こんな小さな命でも、ちゃんと意志があるんです。『生きたい』って。……あなたが来てくれなかったら、たぶん……今夜が限界だったでしょう」


「…………」


 吾輩の視界に、ご主人の涙が一滴落ちた。


「よく来てくれたね……生きててくれて、ありがとう」


 それは、きっと、こっちの台詞だった。

 ありがとう。

 見つけてくれて、ありがとう。

 吾輩は――ここで、生きる。もう、見捨てられたりなんかしない。


 帰り道、ご主人は吾輩をキャリーケースに入れ、アパートまで歩いた。

 夜道の風は冷たく、路地裏にはコンビニ袋が舞っていたけど、足取りはなぜか軽かった。


「ボロアパートだけど……でも、うちに来てよ。お金ないけど……でも、おいしいカリカリは買ってあげるから」


 キャリーの中で、吾輩はか細く「にゃ」と鳴いた。

 彼女の顔がぱっと明るくなった。


「……あはは、今の返事? もしかして、気に入ってくれた?」


 にゃあ。

 たぶん、そう。吾輩は、あなたがいい。


 そして、ご主人はアパートの玄関先で小さくつぶやいた。


「名前、つけなきゃね。うーん……何がいいかなぁ……もちもちしてたから……もち?」


 もち。

 そうか、吾輩の名は、もち。

 悪くない。いや、むしろ――


 とても、気に入った。


 この日から、吾輩とご主人の、にゃんともドタバタな共同生活が始まったのである。


 次回、「朝の事件簿(顔踏み起こし編)」、にゃ!




【\にゃんと!大賞エントリー中!応援してにゃ!/】

読んでくださった皆様へ――

ここでちょっとだけ、大切なお知らせがあります!


吾輩こと「もち」と、ご主人様こと「みのり」の奮闘を描いたこの物語、

なんと……

\アルファポリス「ほっこり・じんわり大賞」/にエントリー中なのです!!


え、まじで?

そう、まじで。


え、あれで“ほっこり”と“じんわり”してたの?

そうなんです。それを目指して書いてたんです!(小声)


でもね、ここだけの話、

大賞ってやつは――

「ブックマーク」や「読者の応援」あってこそ、

勝手に「もち賞」とか勝手に創設してもダメなんです(残念!)


というわけで……


吾輩からのお願い(もふっと真面目)

読者様の

感想ポチッ!

ブックマークぴょいっ!

応援ポチポチ!(もしくはSNSで「読んでるよ~」って叫んでくださるだけでも!)


……が、吾輩とご主人の未来を照らす“ちゅ~るの光”となります!(たぶん)


作者は、毎晩カリカリ(=プロット)をかき混ぜながら、

「どうやったら“もっとほっこり”できるかな~」と、

もちの肉球を揉みつつ悩んでいます。


ぜひ、

「読んだよ~」

「もち、好きだよ~」

「うちの猫もキャットタワーでどや顔します!」

などなど、どんな小さな一言でもいただけたら、作者ももちも床を転げ回って喜びます(本当に)。

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