第5話お土産とトイレ
俺は、我慢した。
冷や汗が大量に出るが、膀胱の尿意が収まることを知らない。
購入したタオルも、汗を吸おうともしない。
苛立ちが、購入したタオルにあたる。
強く捻ったり、捻ったモノを丸めてみたり。意識をタオルに集中しようとしても、尿意から離れない。
俺は、限界を感じて、トイレへと向かった。
ずっと見ていた。トイレの中には、誰も居ない。外にも、誰も並んでない。
自然と足が速くなる。
邪魔な物はなく、後ろへ行くほど、加速していく。
ドアは、閉まっているが、ドアのロックの青を確認すると、遠くの位置からでも手が伸びる。
ドアに手をかけて、狭いトイレの中へ飛び込んだ。
手が、素早く動き。膀胱の栓が俺を急かす。
『ふ〜』
自然と声が漏れる。
我慢をしていたせいか、凄い勢いで出る。
だが、いつもと違ったのは、勢いだけではなかった。なかなか止まる気配がない。
何処まで、俺の膀胱は広がっていたのか。
体重の何パーセントの水分を出すのか。
このまま、干からびてしまうのではないか。
本人の意識とは別に、大量にでた。
ゲームセンターのトイレで出したら、完全に服を脱がすことが可能だろう。
恐ろしく感じる量の尿が体から出た。
少しフラフラになりながらも、トイレからから出ると、CAが立っていた。
「オシボリです。お使いください」
「有り難うございます」
俺は、何も考えずに受け取ると。
一番後ろなので、誰も振り向かない事をいいことに、顔を近付けてメモを渡された。
「今日は、沖縄で一泊の予定です。飲みに出かけませんか。連絡お待ちしております」
メモを、胸のポケットに入れて、立ち去った。
川村さんで、こちらも11桁の電話番号が書かれていた。
申し訳ないが。今の頭の中には、二億の存在しかない。
急いで席に戻ったが。意識は、棚の二億だ。
沖縄に近付き、だんだんと高度が下がる。
南部を一回りして、タイヤを出し、着陸した。
エンジンの逆噴射が始まり、棚から音がしたような気になり、見上げてしまった。
『ゴトン』
流石のウチナーンチュでも、2時間半のフライトは、応えたようで。
飛行機が止まり、ベルトのサインが消えると。
我先に飛行機を降りようと、列に並びながら棚の荷物に手を出す。
俺もその一人だ。
急いで席を立ち、棚からグレーのキャリーケースを降ろした。
20キロの重たいキャリーケースを、転がしながら、飛行機の出口へと向かう。
出口に待ち構えていたのは、深澤さんが腰の辺りで小さく手を振っている。
俺は、頭を下げて。ブリッジを渡った。
人の列を乱さずに、流れに任せながらブリッジを渡りきり。
多くの人が、出口に向かう中。俺は、トイレへと向かった。
トイレへ入り。個室に飛び込んだ。
便座の蓋を閉めて、その上にキャリーケースを乗せた。
上着のポケットから、専用の鍵を取り出して、小さく玩具のような南京錠を開けた。
二億は無事に、キャリーケースの中に有った。
それもそうだ。棚から下ろした時点で重たいのだから、盗まれているはずはない。
盗まれたのなら、全てが空になってないとおかしい。
中途半端に盗むやつなど居ない筈だ。
個室を出て、洗面所で一度顔を洗った。
冷静さを欠いてはいけないと思ったからだ。
ネクタイは、ポケットに入れたまま、袖を戻して。ジャケットに腕を通した。
俺は、そのまま預けた荷物を受け取りに、一階まで降りた。
無事に、預けたカバンを受け取り。お土産を買い忘れたので、ゲートを出て二階へと向かった。
適当に、お店を物色していたら、『クンペン』と『ヨーゴ』を見つけた。
学生の頃の贅沢だった。
バイトを終えて、家に帰る前に近所のスーパーへより、和菓子コーナーから、『クンペン』を取り、飲料コーナーから『ヨーゴ』を掴んだ。
懐かしの味のはずだが。
味が変わったのか。企業が違うのか。俺の記憶違いか。『クンペン』の味が、変わった気がした。
適当に、『ヒヨコ』の饅頭を買って、変だな弁護士へ連絡を入れた。
「はい、辺土名弁護士事務所です。雇用権を伺います」
男性が出たので驚いた。
「初めまして、東江と申しますが。辺土名弁護士先生に、アポイントメントを取りたいのですが。いつ頃がよろしいですか」
「東江様、お電話をお待ちしておりました。東江邸とアパートの件ですよね。いつでも宜しいですよ。今日でも、明日でも、明後日でも。何時に、なさいますか」
本人なのか。事務の方じゃないの。
「今日でも、大丈夫なのですか。これからですよ」
「ええ、問題ありません。どちらから、いらっしゃいますか」
「今、那覇空港に着いたのですが、本当に向かっても大丈夫なのですか」
「問題ありません。では、事務所でお待ちしております」
まだ、半信半疑だ。こんなに早く、弁護士ってアポ取れるの。何日も、待たされるイメージなのだが。
俺は、一階へ降りてタクシーを拾った。
一つは、トランクへ入れて。グレーのキャリーケースは、後部座席に載せた。
「浦添の屋富祖まで、お願いします」
新しい道だった。トンネルを抜けて、泊大橋まで出た。
港を抜けて、西洲手前を曲がり、直ぐに浦添に着いた。
見覚えのある通りだが。景色が全然違う。
懐かしさが何処にもない。今まで、3回は帰ってきたが、帰るルートはすべて違った。
タクシーを降りると、沖縄を感じて、上着を脱いだ。
辺土名弁護士には申し訳ないが、上着を脱いで挨拶に向かった。
キャリーケースは重く、日差しは眩しく暑すぎる。
辺土名弁護士の事務所は、飲み屋街にあった。
しかも、二階だ。段々と胡散臭くなった。
建物に辺土名弁護士事務所の看板は無く。
スナックの看板が有るだけだった。
エレベーターに乗り、辺土名弁護士事務所と書かれたモノを見つけた。
エレベーターの扉が開き、正面にも無い。
スナックのネオンの看板が、外に放置されている。
取り合えす、エレベーターを出て、左右を確認すると、右手の3番目にあった。
スナックの看板に、張り紙をして手書きの看板だ。かろうじて、電気は付いていた。
『ピンポ~ン』
辺土名弁護士が、直ぐに出てきた。
ボサボサの髪の毛に、ヨレヨレのかりゆしウエア、ズボンもアイロンが当てられてない。
薄っすらと、無精髭も生えている。
「お待ちしておりました、東江様。ササこちらです」
辺土名弁護士は、俺のキャリーケースを奪い、事務所に置こうとした。
「何をするのですか」
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