ニエンニエン

ドアの板に残る蝕痕が、背中にいる小さな存在の危険性を無言で物語っていた。


だが今、彼女は大人しく私の腕の中に収まり、小さな顔を私の首筋にすり寄せ、猫のような満足げなゴロゴロ音を立てている。


「ネネ?」


試すように呼んでみた。名前をつけるのは得意じゃない。シンプルでいい。


「ん?」


彼女はすぐに顔を上げ、目をキラキラさせて私を見つめた。


「何でもない…」


彼女の絹のように滑らかな青い髪を撫でた。手触りは信じられないほど良く、スライム特有のぬめりは全くなく、最高級のシルクのようだった。


彼女をまだ汚れていない椅子にそっと下ろし、床の散らかった惨状――スライムコアの残骸の入った袋と散らばった銅貨を片付けようと振り返った。


一歩踏み出したその時、裾が小さな手にぎゅっと掴まれた。


「ご主人さま?」


ネネが小さな顔を上げ、大きな目に緊張をいっぱいに浮かべて見上げてくる。


「片付けに行くだけ。離れないよ」


説明しようとした。


彼女は首を振り、手をさらに強く握りしめ、椅子から滑り降りて、小さなしっぽのように私の足元にぴったりくっついた。


仕方なく、彼女を引きずりながら、苦労して腰を屈め品物を拾い集めた。彼女は私の手の中の銅貨と袋を興味深そうに見つめ、小さな指を伸ばしてちょんと触れた。


「これ…食べられないよ」


私は急いで銅貨をしまい、彼女が好奇心から口に入れないかと心配した。


「うん!」


彼女は素直にうなずいたが、視線はまだ銅貨から離れず、キラキラして綺麗だと思っているようだった。


それからの時間、ネネは私にぴったりとくっついていた。


二杯目のカップ麺を作ろうとすると、彼女は小さな踏み台をキッチンの入り口に運び、ほおづえをついて、私がやかんを火にかけ、スープの素を破るのをじっと見つめていた。やかんが鳴ると、彼女は怖がって首をすくめたが、目は私から離さなかった。


麺をすすって食べていると、彼女は隣の椅子に詰め寄り、私が麺をすするのを見ていた。


「食べる?」


麺を少しすくってみせた。


彼女は首を振り、またうなずき、最後に小さな声で言った。


「ご主人さま…食べるの…見てる」


私は一口分を分けてあげると、彼女は慎重に口に入れ、目を一瞬で三日月形に細め、ほっぺを膨らませながらもぐもぐと噛み、満足そうな「ううう」という声を立てた。


食べ終わると、彼女は舌で唇をぬぐい、まだ残っている私の麺を見続けた。


背中の傷の手当てをしようと、服をまくり上げると、彼女が近づいてきて、冷たい小さな手を伸ばし、そっと私の背中に触れた。


「痛くない?」


彼女は眉をひそめ、目には心配が満ちていた。


「大丈夫…」


そう言った途端、彼女が触れた場所がはっきりと心地よくなり、かすかな治癒のエネルギーが染み込んでくるのを感じた。


こうして、彼女の小さな手はそっと私の傷の上に置かれたまま、離れようとしなかった。


最も厄介だったのは寝る時だった。警察に見つかったら終わりだろうか。


狭いシングルベッドは、普段一人でも少し窮屈だ。彼女にベッドを譲り、私は床に寝ようと思った。


床に布団を敷き終え、振り返ると、彼女がベッドの一番奥で丸くなり、毛布にくるまって蚕の繭のようになり、大きな目だけを出して期待に満ちて私を見ていた。


「君はベッドで、僕は下で」


私は布団を指さした。彼女はすぐに首を振り、小さな唇をとがらせ、目尻が一瞬で赤くなり、涙が今にもこぼれそうになった。


「一緒に…寝る…」


泣き声を帯びて、小さな手を布団から伸ばし、私に向かって広げた。私は眉をひそめた。


最終的な妥協案は、彼女が奥、私が手前、間に丸めた薄い毛布を境界線に置くこと(これが彼女にとって意味をなさないのは分かっていたが)。


明かりを消すと、暗闇の中でさっそくカサカサという音がした。すぐに、小さくて温かい身体が「境界線」を突破し、私の腕にぴったりとくっつき、小さな頭を私の肩に乗せ、呼吸は均等で長くなった。


私はこわばって横になり、身動き一つできなかった。


鼻先に、彼女の体から漂うかすかな、言葉に表せない清々しい香りがした。雨上がりの草花のようであり、太陽にさらされた暖かさもほのかに感じた。


「ご主人さま…」


彼女は眠りの中で無意識にそうつぶやき、小さな頭をこすりつけ、より快適な位置を見つけた。


彼女の安定した呼吸を聞きながら、その依存を感じ、非常に複雑な感情が胸の奥深くで渦巻いた。


彼女は人間ではない。通常の意味でのモンスターですらない。


彼女は冷たいスライムコアから生まれ、腐食性の危険を帯びている。しかし今この瞬間、彼女はただひたすらに私を信頼している。


私はため息をつき、動かせる左手を慎重に上げ、そっと彼女の頭を撫でた。


「おやすみ、ネネ」


暗闇の中で小声で言うと、返事は彼女の細かい呼吸音だけだった。

 

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