第30話 決戦
迎えた作戦当日、その日は清々しいほどの晴れだった。
「そろそろ作戦地点だ。隊列を組め」
ギルドマスターの声にぞろぞろと冒険者たちが動き出す。アタッカー陣は前へ。なるべく同属性で固まるように組まれた隊列だ。
魔法というのは複数人で発動すれば、威力が上がる性質がある。
例えば二人同時に同じ魔法を使う、たったそれだけで威力は倍以上になる。そのため同属性の冒険者たちは一斉に魔法を発動する手筈だった。
「行ってくるわ」
短い一言を残して配置された最前線へララは足を向ける。一見いつもと変わらない。ただその背中はいつもより小さく見えた。
「お前が死んだら俺も処刑台へ一直線なんだ……絶対生き残れよ!」
一瞬ララの口角が上がった。ひらひらと手を振りながらララは前へと消えた。
「みな準備はいいな?メルンを守るため死力を尽くせ!」
ギルマスの声に「おう」や「まかせろ」と冒険者たちが叫ぶ。
ギルマスの両手に握られているのは大きな笛。あの笛は魔物をおびき寄せる効果があるらしい。
自然と唾を飲み込んでいた。特に初手は俺が作戦の鍵(ここ点々)を握っている。
決戦の時は近い。
ブオオオォォオ!と大音量で笛が鳴らされた。
来ない……まだ来ない………落ち着け、焦るな。…………思考を冷静に………………来た!
青空にポツンと浮かぶ黒くて小さな点。その点はドンドンと大きさを増してついにドラゴンへと変わった。
隣に立つユーベリカへ視線を向ける。彼女はまだ疑いの目を俺に向けていた。
まあそんな顔になるよな。この作戦の言い出しっぺの俺でも本物のドラゴン相手にゲームのように上手くいくか自信はない。
しかし、力で明確に負けている以上全ての手段を試すしかないんだ。俺は杖を天に掲げた。それに合わせてユーベリカは杖を掲げ、冒険者たちは地面に伏せた。
「「ライト!!」」
空に打ち上がるのは巨大な閃光。
ライトは暗闇を光で照らすだけの魔法に過ぎない。しかし、俺とユーベリカが全力で魔力を込めれば昼間でも視界を奪うほどの光を生み出せる。
「ギシャヤヤヤ!」
「よしっ、成功だ!」
クリスタルドラゴンは空中で身を捩り苦痛にうめいた。
視覚を奪われて飛行することはできない。クリスタルドラゴンは空中の一点で止まった。
あの感じだと視覚は完全に奪えたな。初激は完璧。ここからが重要だ。
「ファイアボール」
大きな火球がドラゴンの右翼に直撃した。ララの魔法だろうか。続けざまに土の槍、氷の弾丸が同じ箇所に襲い掛かった。
これが作戦そのニ。動けないドラゴンを魔法の集中砲火して飛行能力を無力化する。成功してようやく五分五分といったところだろうか。
「ちっ、想定より丈夫だな」
絶え間なく注がれる魔法の嵐を受けながらも、まだドラゴンは空中にいた。
翼は見て分かるほどボロボロなはずなのに、あと一つ足りない。もっと高威力の一撃が必要だ。
「そういえばジェイスは何をしているんだ?」
皆が全力を尽くすなか、ジェイスが動いている気配がない。あいつが貴重なダメージソースなのに一体何を。
作戦通りいけば彼がスキルをぶっ放してドラゴンを地面にたたきつける予定なのに。前方を見ると微動だにせず、槍を構えているジェイスがいた。
しかし、サボっているという感じではない。どちらかといえば機を待っている、そんな風に見えた。
不意にジェイスが動き始めた。体を大きく反らし、槍を空に向ける。
ジェイスの槍は氷に覆われ、より一層鋭利なものとなっていた。
「アイスショット!」
投げ槍の要領でステップを踏み、渾身の一撃が放られた。見たことない魔法。
あれがジェイスに与えられたチートスキルなのだろうか。それは俺が知っている投げ槍ではなかった。
ジェイスの手を離れた槍が描くのは放物線ではなく直線。銃弾のような速さで空を駆け抜ける。
瞬きする間もなくジェイスの槍はクリスタルドラゴンの右翼を貫いた。次の瞬間ドラゴンは地面に叩きつけられていた。
あいつ一番ダメージが溜まっている箇所を正確に貫きやがった。
これが勇者か……まさにチートだな。地面に落ちたドラゴンは格好の的だ。
「全員突撃」
ギルドマスターの声が平原に響く。
その瞬間次々と剣を抜いた冒険者たちはクリスタルドラゴンへ飛び掛かった。
自分たちの故郷を滅ぼさせまい、目を血走らせてクリスタルドラゴンへ容赦なく攻撃していく。
「グギャアァ!」
目や翼、予め決められた箇所へ無駄なく魔法がぶつかる。
ここまで誰も後方へ下がってこない。つまり負傷者ゼロだ。マジで恐ろしいほど順調だ!
俺の作戦すげえ。この時俺、いや全員が勝利を確信してしまった。
それは唐突に起こった。視覚を失い攻撃が命中しないはずのドラゴンの爪が一人の冒険者を八つ裂きにした。
人が死んだ。あまりにもあっけなく。
初めてその瞬間を見たことに胃の中身が逆流する。また、冒険者たちの足も止まった。
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