第6話(クライマックスへ)
展望台(クライマックスへ)
彼の突然の提案に、私は一瞬、何を言われたのか理解できず、目を丸くした。でも、彼の「よし、朝ご飯食べよう!」という、底抜けに明るい声を聞いているうちに、胸の中にあった漠然とした不安が、どこかへ吹き飛んでいくのを感じた。
「えっ、朝ご飯ですか?」
思わず、私の声は上ずった。失恋の傷を抱えて、夜景を見下ろしながら、これからどうしようかと考えていた私に、彼は「朝ご飯」という、あまりにも現実的で、あまりにも日常的な、しかし、それ故に温かい提案をしてくれたのだ。
彼の顔は、夜明け前の薄明かりの中で、輝いていた。その表情には、昨夜からの感傷や迷いは一切なく、ただ「これから」に向かう力強さだけがあった。
「そうそう、朝ご飯!」
彼は、私の戸惑いを面白がっているかのように、元気よく頷いた。
「この景色もいいけど、美味しい朝ご飯もいいもんだろ?それに、夜明けと共に、新しい一日が始まるんだ。スタートダッシュは、やっぱり腹ごしらえから!」
彼の言葉は、あまりにもストレートで、あまりにも力強かった。まるで、私の背中を優しく、しかし確実に押してくれるかのようだった。
「…そうですね。そうですね!」
私は、彼の勢いに押されるように、同じように元気よく返事をした。どうするべきか、迷っていた心が、彼の言葉で、一気に動き出したのを感じた。
失恋の痛みは、もう過去のこと。今は、目の前の新しい一日、そして目の前の彼と共に、何を経験できるのか、という好奇心の方が勝っていた。
「どっか、美味しいお店とか、知ってますか?」
私は、彼に尋ねた。彼の提案に乗ってみようと思ったのだ。この、二人で迎えた朝焼けの始まりに、美味しい朝ご飯という彩りを添えてみよう。
「任せとけ!」
彼は、私の問いかけに、満面の笑みで答えた。その笑顔は、この夜明けの光よりも、もっとずっと眩しく見えた。
展望台から降りていく道は、まだ少し冷たかった。でも、私の足取りは、軽かった。彼の手には、まだ空になったコーヒー缶が握られている。私の手には、今はもう冷たくなったコーヒー缶。でも、二人の心の中には、きっと新しい温かいものが灯り始めていた。
これが、私たちの、本当に新しい始まり。夜景ではなく、美味しい朝ご飯という、もっと現実的で、もっと温かい場所から始まる、私たちの物語。
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