第3話「新しい方へ…」

展望台(さらなる続き)


彼の言葉に、私は思わず頷いてしまった。この広大な夜景の前で、言葉を選びながらも、彼は私の心の声を代弁してくれたのだ。


「そう、ですよね…」


私の声は、先ほどよりも少し落ち着いていた。彼に、自分の気持ちを理解してもらえたからだろうか。


「うまく行かないよね?追いかけても、仕方ないって…」


もう一度、私は心の中で呟いた。過去の恋人を追いかけても、失ってしまった時間は戻ってこない。虚しいだけだと、頭ではわかっているのに、心はまだ、その残像を追い求めてしまう。


彼は、私の言葉を、静かに聞いていた。そして、再び夜景に視線を戻した。彼の表情は、どこか遠くを見ているようで、言葉を探しているようにも見えた。


「そうだね…追っても、掴めないものって、あるんだよな」


彼は、ぽつりとそう言った。その声には、私と同じような、諦めにも似た響きがあった。


「でも、」


彼は、少し間を置いて、続けようとした。私は、彼の言葉を待った。風が、また髪をなびかせる。


「でも、それでいいんだと思うんだ。追いかけられないものを、いつまでも追いかけていても、何も始まらない。だからこそ、新しい方へ、目を向けられるんじゃないかな」


彼は、私の方に顔を向け、穏やかな笑顔で言った。その言葉は、まるで私に語りかけているかのようだった。失恋の痛みに囚われ、立ち止まってしまっていた私に、前に進む勇気を与えてくれるような、そんな言葉だった。


「新しい方へ…」


私は、彼の言葉を反芻するように、小さく呟いた。追いかけることを諦めるのではなく、その「追いかける」というエネルギーの矛先を変える。そうすれば、見える景色も変わってくるのかもしれない。


展望台の夜景は、相変わらず煌めいている。しかし、先ほどまでの虚しさは、少しずつ薄れ始めていた。彼との会話は、私の心に、小さな灯りをともしてくれたようだった。


彼は、何を追うのをやめたのだろうか。そして、これから何を見つけようとしているのだろうか。私たちの「うまく行かないよね?」という共感は、決して終わりではなく、むしろ、新しい始まりへの序章なのかもしれない。

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