第三章 優しさの勝つあなたの欠けたとこが希望 (後編)
平野平正行は、午前中をスタミナアップのため持久走に当てていた。
港までゆっくり走り、だいぶ汗が出た。
早朝なら競りや朝市などで活気があるが今は無い。
自販機からスポーツドリンクを一気飲みした。
冷たい甘じょっぱい味が体に沁みる。
と、賑やかな声がした。
海辺を見ると、遠くからでも分かる馬と、その馬に振り回されている大人と自分と同じぐらいの生徒。
農業科の人間とすぐわかった。
「どうしたんですか?」
正行が顔見知りの教授に声をかけた。
「おう、正行君。 いやね、今度、廃業した牧場から馬を一頭仕入れたんだけど、なかなか言う事を聞かない娘さんでさ……」
ふいに正行と馬の目が合った。
その時、正行は直感的に言った。
「この子、不安なんですよ。いつも誰かを背中に背を負っていたから……」
この言葉に、教授が鞍なしで馬に乗る。
すると、馬は驚くほど静かになった。
「…… で、その馬を大学の放牧場までみんなと送り届けたと……」
正行は、家の残り湯で体を石鹸で入念に何度も洗ったが、やはり獣独特の臭いは残る。
ので、正行は自主的に下座で苦笑しつつジーパンと厚手のブラウスで麦茶を飲んでいた。
父は息子のお人よしに半ば呆れていた。
「それで、今日、皆様にお集まり…… 正行君、近くに来てもいいよ」
龍野が声をかける。
ほんの少し、近づく正行。
その様子に龍野は苦笑しつつ、湯呑から茶を飲んだ。
「お集まりいただいたのは、皆さんを諮問刑事として、私、龍野優弥から依頼を受けて欲しいのです」
「依頼、ということは、何かしらの報酬なり、特典があるわけですね」
そこに猪口が割って入る。
「得点と言うか、制限付きだけど警視庁から事件の記憶や証拠のアクセス権限や現場の立ち入り、他金融業や自衛隊などの情報紹介等可能になる」
「刑事の真似事ってことですか?」
石動が皮肉っぽく言う。
「というか、民間刑事って感じだね。 まあ、特別オプションで石動君の会社に今進行している我が社のパソコン業務委託をお願いするだろうけど」
社長でもある石動は苦笑した。
「…… で、今回のご依頼は?」
正行が龍野に聞いた。
だが、答えたのは猪口だ。
「先日、成田空港の襲撃事件を覚えているか?」
それまでの親しみやすさが消え、如何にも現場の刑事と言った重々しさで猪口は口を開いた。
「え…… はい」
「狙撃されたのは裏社会の情報屋だった。秋水君や鑑識の結果、狙撃者は『
そこまで言って、今度は龍野が手を挙げた。
「で、僕の裏アカSNSに『十三人の使徒』…… つまり、秋水さんが所属していた犯罪集団の一人を名乗る者から書き込みで【国際保全条約の全貌を記憶したUSB】を情報屋が知って売ろうということが分かった」
正行が眉をひそめる。
「何です? その『国際保安条約』って」
「まあ、秘密結社的に言うのなら『必要な生贄』…… この場合、戦争孤児とか含むけど、それらを正当化するための言い訳だね。 でも、それが世間に出て見ろ。世界の倫理が崩壊する」
猪口は茶をすする。
「面白くない話だ」
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