第二章 一歩踏み出して、嫌なことを思い出す 後編
猪口は、半分以下になったペットボトルの茶を少し飲んだ。
龍野は黙っている。
「腕に怪我をした刑事に警視庁は
表向きは、腕のリハビリと交換留学。
実際は、その刑事が爆弾を仕掛けた犯人追跡のために嘆願したことです。
配属されたのは魔法事案解決課という奥まった場所にある古臭い場所。
ナチスドイツ時代からあるオカルト専門の部署で世界中のオカルト情報が集まる。
本当のような嘘や嘘のような本当もあった。
それらを検証する部署で一つのテロ組織が噂されていた。
『十三人の使徒』
キリスト教グノーシス主義から派生した自称『神に選ばれた者たち』
目的は『世界を動かくであろう人間を探し当てること』」
龍野は、確かに査問会の誰かが「十三人の使徒の動向」などと言っていることを思い出した。
「首魁はエイムズ。
名前は場所や立場で変えますから、これが本名とも分からないですが……
エイムズは表向きオセアニア地域で小さな保険代理店をしていますが、実際は世界中の紛争や戦争に傭兵や暗殺者を派遣し多額の資金と人脈、構成員を持っています。
中でもランクがあり、ただのメンバーである『
エイムズは使徒になると自分の配下の証として体の一部に焼き印を押し、忠誠を誓わせます。
福利厚生なども手厚く、亡くなれば遺族などに賠償金が支払われますが裏切りなどの制裁は容赦有りません。
また、使徒が亡くなっても接吻者の中から、その使徒にふさわしい人員を召し上げ焼き印をします。
そこまでの情報を四年間、その刑事は調べ上げました。
そうやって、ようやく、エイムズが娼婦をしている場所を知りえました。
いや、あえてそういう情報を刑事に向けたのか……?
今となっては分かりません。
ロンドンのある裏路地にある古びた娼婦館に刑事が身分を隠していくと、部屋に男物のシャツを一枚だけ羽織った誰かがいた。
北欧人独特の青い目に金色の巻き髪、白磁のような白い肌……
あえて、ここで、その刑事のために言っておきますが、彼の性欲はないわけではなかったです。
ただ、燃え上がらせるにはいささか火箸で中を混ぜる必要がありました。
『君がエイムズか?』
刑事はさりげなく右手をポケットに入れました。
『そう言いたければどうぞ。 でも、今夜はただの娼婦、または、あなたの天使』
声は中性的で甘くて冷たい魅惑的な声だった。
エイムズはゆっくり一歩ずつ、刑事に近づいて行った。
恐怖や戸惑いもなく、むしろ、王者のような歩みで……
「私の目を見て…… あなたにしか見えないものがある」
--罠だ!
刑事は目線をそらそうとした。
その反応にエイムズはにっこり笑いました。
『今はね、あなたの知っている以上に私の果実は熟そうとしているの…… 邪魔しないで』
そして、シャツを脱いでエイムズを見た時、刑事は驚きました。
まずは、男でも女でもない、または両方……
つまり両性具有者であること。
その体の各部位に美しい入れ墨がされていました。
まさに、異形の美、そのもの。
--これ以上いたら、俺は彼女に引き込まれる!
刑事は慌てて部屋を飛び出しました。
彼、または、彼女が刑事のことをどう思っていたかは分かりません。
刑事はほどなくして、帰国し、同じ公安でももっぱらデスクワークをすることが多くなりました。
若手も多くなり『灰衣』を知る人物も資料もこの世界から消えたと思い込もうとしていました。
腕の不自由は不幸な事故で、定時で家に帰ればかわいい孫と優しい息子夫婦がいて……
それが、あの若造…… つまり、緒方副総監はずっと忘れなかった。
そのテストケースとして、豊原県星ノ宮市を守る『諮問刑事』の創設になったのです」
そこまで語り、猪口は残りの茶を飲んだ。
対して、龍野の茶はまだ、だいぶ残っている。
「あなたが、その現場責任者……」
「言い出しっぺですからね、まあ、腹はくくりました」
「失礼ですが、諮問刑事のメンバーを調べさせてもらいました。その中に『平野平秋水』という男がいる。元とはいえ『世界一の傭兵』 現在は不動産を始めて手広く浅く商売をしている。 身元……」
「彼は、『十三人の使徒』で唯一、脱退して生き残った男です」
龍野が言い切る前に猪口が正体を言った。
「平野平家と猪口家は代々、主従関係にあり、猪口家が主でした。まあ、平野平家の内情はあまり分かりませんが、秋水君は一時期、家柄などに反発して傭兵になり、『十三人の使徒』になり、それにも反発して焼き印を硝酸で焼き肩にあることから『羽の痕』などと呼ばれています」
「……凄いなぁ」
龍野は感嘆の声を上げペットボトルのお茶を飲んだ。
「今は『
猪口は少し思った。
『今頃、彼ら、なにをしているのやら……』
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