笑顔

おとうふ

第1話


 その子は様々なことを言われていて皆それぞれそれらを信じていた。

 一番後ろの窓際の席でいつも目線を本に落として静かに読んでいた。その姿は皆各々悪意やら好奇心からで物を言うがその子は一つもそれらを受け取らず聞こえていなかった。

 いつも本の世界に入っていて何も聞いてなどいない、本の言葉を見ていた。その姿がとても強くて勇ましく高尚にすら思えた。青空、雨、曇り、全部背景に見えて浮き膨りになっているその子の姿があまりにも綺麗で素敵で一言でいいからその声を聴いてみたいと思った。けれど私にそんな度胸も勇気すら無くてただただその光景を机二つ分離れた所から見ているだけであった。

 夕日が眩しいくらいに綺麗な日だった。忘れ物をして教室に戻って来た時、その黄金色の中にその子はいた。

 髪の毛が黄金色に溶けて輪郭すらぼやけそうでその光景に心奪われて言ったのだ。

「その本、どんな話?」

 はた、その子は目を少し見開いてこちらに顔向けてそれから楽しそうに本の内容を簡単に教えてくれた。

 前の席に移動して詳しく聞こうと椅子に後ろ向きに腰掛けた。そこからは黄金色の中で二人本の内容のことついて話した。凛と透き通る声でここが面白い、この場面で驚いたなど楽しげに話す様子を話に集中しているフリをして見ていた。その子が言ったのだ。

「話、楽しかったよありがとう」

 案外とても可愛く笑う子でその笑顔を自分だけ知っていると思うと嬉しさが溢れた。そして初め笑顏で目を合わせられた。キラキラとしてキレイな目をしているんだなぁとわかった。

「明日もさまた喋ろうよ、ね」そう言えば急に黙ったその子は困ったような少し迷った顔でしばしこちらを見つめてニコ。と笑うだけだった。帰る時またねと言ってもバイバイと言って別れた。

 翌朝その子は行方不明扱いとして二度と誰にも見つからなかった。最初だけ話題だったがすぐに皆んな忘れてしまった。

 大人になっても尚その子との短い記憶が鮮明に焼き付いて消えない。そういえばいつもはホームルームが終わればすぐに教室を出て帰るあの子が何故あの日あの時間まで残って本を読んでいたの

 か。

 またねと言ってもその返事はバイバイだっった。

 あの子はもう私に会うつもりはなかったのだろう。

 今どこで何をして、どう暮らしているのかどうもあの子が亡くなっているとは思えないのだ。

 あの日の夕日に照らされて笑うあの子は間違いなく一等可愛らしくてあの笑顔が酷く残っていつか、またあの子に会えるならば次はオススメの本を聞いてみたい、可愛らしい本の栞をプレゼントしてそれで、そして。

 あの子の一等可愛らしい笑顔をまた見れたら私は幸せだろう。

 

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