番外編3:エドワードの秘密の研究
エドワード・グリーンフィールドの作業小屋は、彼の聖域だった。そこには、彼が長年書き溜めてきた研究ノートが、山のように積まれていた。彼が「大地の賢者」と呼ばれるようになったその知識の源泉は、すべてこの小屋の中にあった。
セリーナと出会う前、エドワードは一人、この小屋で孤独な研究を続けていた。貴族社会に絶望し、王都を去った彼にとって、唯一の慰めは土と植物と向き合うことだけだった。彼はこのグリーンヴァレーの痩せた土地を、どうすれば豊かな大地に変えられるか、来る日も来る日も考え続けていた。
彼は、古文書を読み解き、忘れ去られた古代農法を発見した。近隣の村の古老たちに話を聞き、その土地に伝わる伝統的な知恵を学んだ。そして、それらの知識と、王立農業学院で学んだ最先端の科学を融合させ、独自の農法を模索していたのだ。
セリーナが彼の前に現れた時、彼は最初、戸惑い、警戒した。また貴族が、気まぐれで自分の聖域を荒らしに来たのだと。しかし、彼女の瞳に宿る真摯な光と、泥だらけになることも厭わないひたむきな姿に、彼の凍てついた心は少しずつ溶かされていった。
セリーナというパートナーを得て、彼の研究は飛躍的に進んだ。彼が理論を構築し、セリーナがそれを実践し、経営的な視点から改良を加えていく。二人の才能は、まるで完璧な歯車のようにかみ合った。
「エドワード、この新しい肥料、確かに作物の成長は早いわ。でも、少しコストがかかりすぎるかもしれない。もっと身近な材料で、同じ効果を得ることはできないかしら?」
「なるほど……。それなら、村で出る家畜の糞と、あの丘で採れる石灰石を混ぜて発酵させてみてはどうか。計算上は、近い成分になるはずだ」
そんな会話が、彼らの日常だった。セリーナは、エドワードの天才的なひらめきを、現実的なビジネスへと昇華させる、最高の触媒だったのだ。
彼がセリーナにプロポーズしようと決めた日、彼は徹夜で一つの指輪を作っていた。それは、高価な宝石で飾られたものではない。彼が自分の畑で見つけた、ハートの形をした珍しい石を磨き上げ、蔓草を模した銀の台座にはめ込んだ、手作りの指輪だった。
彼にとって、それは自分の研究と努力の結晶であり、セリーナへの愛の証だった。結局、プロポーズはセリーナに先を越されてしまったが、彼はその指輪を彼女の薬指にはめることができた時、心からの喜びを感じた。
今でも、エドワードは夜になると作業小屋にこもり、研究を続けている。それはもはや、孤独な作業ではない。隣には、彼のために温かいお茶を淹れてくれるセリーナがいる。彼の革新的な農法は、セリーナという太陽の光を浴びて初めて、豊かに花開いたのだ。二人の愛が続く限り、グリーンヴァレーの大地は、永遠に実り続けるだろう。
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