三十六話 死亡とは、場からいずこかの墓地に送られることである



 うーん。

 ハメられたかなー。

 うーん。

 いや、タイミング的にどう考えてもそれっぽいんだがそんな態度じゃなかったよなあ。

 うーむ。


 ……言い過ぎたかなぁ。

 いや、俺悪くなくね?


「フツオくん、どうかしたの?」


「あ、大丈夫です」


 いかんいかん、仕事中だ。

 店長に呼ばれて、慌てて次の作業に移る。


 Life部の部長さんたちに呼び出された一件から数日。

 まあまあ変わらない日常を送っている。

 廊下ではLife部にシメられたとか、エレウシスに優勝した奴らに喧嘩売った命知らずとか、まあまあいい感じに作戦は成功しているようだ。

 俺の風評は犠牲になったが、平穏を考えればプラスだろう。

 まあそんなことよりも耳をすませれば天儀さんたちを始めとしたファンクラブなどが加熱していたんだが……

 クラスメイトの吉岡なんかは今年の文化祭では複数クラス合同でメイド喫茶とかを成立させる、そのために生徒会に直訴してくるとかなんとかテンション上がっていて若さってすごいなと思った。

 ドロシーと揉めたりして、冷たい目で見られたりした? 上目遣いだった?

 とか聞かれたが知らんがな、上目遣いでめっちゃ美人だったぞとは伝えたら羨ましがられた。

 ああいうのは人生楽しそうだと思う。

 まあなにはともあれ、あと二年ちょっとぐらいで終わる話だ。

 露骨なイジメ態度されるぐらいなら前世よろしく首掴むテコ入れ作業がいると思ったが、そんなのもないので平穏である。


 というわけで今日も仕事に専念するわけだが……


「んああああああああん!! くそう! また負けた、どうしてぇ!」


「全体除去をケア出来なかったからだねぇ」


「全体火力を使い切ったと思ったら全体除去ってひどくない!?」


「更地にしないとブレイバーデッキが勝つからねえ」


 休憩時間。

 再戦を求められたので容赦なくユウキちゃんをゴブヒロデッキでしばいてた。

 テーブルでのファイトだが、まあ5戦やって4勝利。まあまあいい感じだ。


「うーん、ちゃんと欲しいカードは結構引けるのにどうして……アリーシャで加えた灼刃さんが、さんが……ようやく当てた灼刃なのに」


≪わ、私が加えたカードも吹き飛ばされた……≫


「公開サーチなんだから当然叩き落とすよ。効果知ってるんだからマスカンは通さないって」


「うぐぐ。モブさんの手札が二枚あると通らないのはそのせいか」


「何もない時もあるよ? コスト足りないとか、だから速攻で切腹加速自傷バーンするけど」


「くそう、私も自分を焼きたい!」


 人聞きが悪い叫びだけど、まあわかる。

 バーン使いでもないと切腹加速しづらいからね。

 まあ調子載ってライフ削りすぎて、相手のバーンでそのままうっかり頓死もあるんだけど。


「使いやすい全体自己焼き火力だとせっかく展開したブレイバーも焦げるから使い所難しいよ」


「うわあああああああん!」


 というわけで組み直したゴブリンヒーローデッキは気持ち多めの全体火力と汎用全体除去を差しました。

 まあ死亡した時に効果誘発する系のゴブリンにもそこそこ入れ替えたんだけど。

 サクリファイス向けに使われるタイプのゴブリンでも、こうやってまとめて吹き飛ばすのには向いてる。

 ぺんぺん草も生えないような荒野から盤面を立て直すならブレイバーより当然ゴブプラのほうが早い。


「ユウキちゃんって手札わかりやすいからね」


「わかりやすい?」


「うん。ドローする引き運がすごく強いじゃないか」


 まあこの世界だと強いファイターってのはみんなそんなもんだけど。

 ポンポン窮地を乗り越えるカードを引いてくるとか、並んでる土地の数で大体出せるカードとか、無駄がない引きなんだけど。


「だから無駄がないんだよね。おかげで遊びがないっていうか」


「無駄がないって、良い事じゃないんですか?」


「余裕がないんだ。使使


 毎ターンカードを二枚以上使えば、余りがちな土地以外にはまたたく間に使い切る。

 どんなデッキでも動けるようになるまで手札を温存したり、貯まるのを待つ待ちというのがある。

 そうならないようにデッキを調整したり、プレイングで工夫して、動けるけど動けなかったように見せる駆け引きもあるのだが……



「だからこそ、相手の予想を外しにくい」



「外しにくい?」


「うん。例えば相手がクリーチャーを3体も4体も並べてたら、全体除去とかほしくない?」


「欲しいです」


「というわけで君がドローをして、にっこり笑顔浮かべてたら、んじゃこれ以上展開せずにトークン発生の魔法カードは取っておくか。あるいは妨害残しておくね」


「ええ、展開してよ~」


「しません。だからこのままでぽこぽこ殴ります、どうします?」


「生き延びるために全体除去を撃つしかない?」


「じゃあ更地になったところを立て直すか、妨害打っておきますね」


「ひどい」


「でね。この場合、君は――ダメージを無効にするカードとか、あるいは受けたダメージ分ライフを回復するとか、あるいは展開されてるクリーチャーを蹴散らせる大型クリーチャーとか、ステイ状態のをレディに出来なくさせるロックとかを、選択肢にいれてないんだ」


「……?」


 コテンと首を傾げるユウキちゃん。

 こういうのは経験がないと飲み込めにくいんだろうなぁと思う。


 多種多様な殺し方展開と多種多少な展開殺され方をしていなければ想像は膨らまない。


「引きたいものを引くことしかしたことがない人は、その盤面しかなんとか出来ないと思う」


 目の前のことをなんとかし続けても、最終的な勝利に繋がるとは限らない。

 クリーチャーを倒し続けて盤面を押し続けても、いきなりデッキを全て消し飛ばすコンボが叩き込まれることもある。

 バーンデッキで相手を焼き続けたら、ダメージ軽減の秘宝とそれを固定する魔石とのギミックコンボでライフ不変動のまま枯渇死することもある。

 イグニッションレギュでライフんんん千点! 勝ち申した! と喜んでいたら、腐死カウンターを十個蓄積で腐れ死することだってあった。


TCG


「ルートですか?」


「そう、選択肢の引き出し。自分が出すカードが、どんな風に使えば強いのか、弱いのか。相手が出してくるカードはどんな時だったら強く感じるのか、弱く感じるのか、そしてそれにどんな意図があるのか。その引き出しだよ」


 チラリと時計を見る。

 そろそろ切り上げ時間なので、テーブルにコストごとに並べたカードを束ごとに重ねていく。


「例えば、こうやって並べたデッキの中身を見て、どんな風に動くかわかるかな?」


「わかります。この名義貸しでブレイバーの強化を共有して、とにかく殴りつけてきますよね。う、勇者王が複数ブロックで倒されてゴブリンにされたショックが」


「<報復する菌>はめっちゃ強いんだけど、呪言なのが辛いんだよね。なんとか引くまで耐えるか、ライフデッキのトップにセットしとかないとギャンブルだし。まあそれはおいといて、ユウキちゃんは何度もファイトをしたからデッキの動きがわかるわけだ」


 そして、重ねたカードをシャッフルする。

 二度ほど簡単にシャッフルしたデッキから五枚、上から引き抜いて出した。


「で、こうやって出た手札だけど。どうやって戦っていくか、わかる?」


「……んーなんとなく?」


「なんとなくでもいいんだ。で、次のこれだったら?」


 言いながら、次の五枚を引き抜く。


「名義貸しが出ないね」


「だからサーチもまあいれてるんだけどね、そういうこともある」


 まあこれだと間違いなく負けるだろう。

 墓地から秘宝回収のカードがきても肝心のとサーチがこないとどうしょうもない。


「大事なのは、自分以外のプレイングを知ること」


「自分以外」


「うん、どんなデッキだろうが、それを使いこなすのは自分だ。そして、自分で一人回し続けても限界はすぐにくる。自分だけの視点では選択肢は、思考回路が一緒なので増えない。だから自分以外の誰かのプレイを知る。学ぶ。同じ手札でも、僕が出すカードの順番と君が出すカードの順番が違うことがあるんだから」


「同じ手札なのに?」


「選ぶ選択肢が同じとは限らない。土地をまず出して、1コストのバーンを使うか1コストのクリーチャーから先に出すか。使わずに相手のクリーチャーを見てからバーンを飛ばすか、あるいはためておくか。選択は無数にある。手堅い選択というのがあっても、ミスじゃない選択だったのかどうかは振り返らないとわからない」


「わからない……」


「だから沢山色んな人とファイトをするんだ」


 俺はプロじゃない。

 前世はただのカードショップ通いの趣味でカードをしばいてた人間だ。

 海外にツアーに出たり、賞金やスポンサーがついてそれで収入を得ているようなプロではない。

 そこそこ安くないだけの金をカードに注ぎ込んできたし、時間も青春もそれで溶かした。

 けど後悔はない。


「カードゲームは一人だけだと強くなれないんだから」


 本物のプロフェッショナルならもっと考え方も、知識も豊富で、いいアドバイスが出来るんだろうけど、これぐらいが精々だ。

 前世のようにプレイの配信とかがあれば学びやすかったんだけど、この世界だとそれがない。

 だからどこかしらの集団に属して研磨し合うのが一番早い。

 そう締めくくって、再度シャッフルをしたデッキをケースに戻す。

 休憩は終わりだ。

 プレイマットを折りたたんでいく。


「一人だと強くなれない、かー」


 休憩時間の分のプレイ料金をユウキちゃんの前に置く。

 テーブルの使用料はしっかり払うし、中学生から取るほど侘びしくない。俺は働いているし。



「じゃあ、モブさんってたくさんの人とファイトしてきたんだね」



「うん、そうだよ」


 その大半はもうどこにもいないけれど。


「沢山友達がいたからね」


 いたんだ。

 それだけは絶対に否定はさせない。

 例え死んで、生まれ変わって、それが思い込みだとか妄想だと言われても、かけがえのない記憶だ。

 俺の頭の中の記憶にしか証拠がないけれど、確かにあったんだ。

 あの出会った人たちは、俺が一緒に遊んでた友達も、疎遠になった知り合いも、俺を育ててくれた両親も確かに存在していたんだ。


 前世の記憶なんてものは、もう帰る術がない異国になってしまった故郷なんだと思う。


 戻りたいと思う人もいるだろう。

 もう忘れたいと思う人もいるだろう。

 けれど、どこかにふと思い出したり、体に染み付いている、故郷の癖。

 この世界にはない神話の三途の川とか、忘却の川とかに死んだ時に落とし損ねたんだろう記憶。

 覚えていないほうが色々と得をしたかもしれないし、覚えていたからこそ得したLifeの強さもある。

 だからこれを握りしめている。

 その選択を俺は。


「楽しかったよ」


 いい思い出だと思っている。

 理由なんてそれだけでいい。


 でも、他人ひとから見れば気持ち悪いかもしれないな。


 少しだけため息が出た。


「……モブさん?」


「ん? ああ、ごめんね」


 少し参ってるな。

 答えは決まってるのに選ぶのに迷っているみたいな。

 カードのことなら経験でわかるのに、人間関係のことは未だにわからない。

 人生二周目ぐらいで把握できたら政治家にでもなれてるだろうに。


 ……そうだ。


「大した話じゃないんだけど、ユウキちゃん」


「うん」



「後悔しない選択ってどうすれば出来るかな」



 そう、口に出して。

 後悔した。

 中学生の女の子に何を聞いてるんだ、俺は。


「ああ、ごめん。なんでも「簡単だよ」な」



「自分がスッキリできるって思えることをすることだと思う」



 真っ直ぐに。

 さらっと。

 桜色の髪をなびかせた少女ユウキちゃんは答えた。


「スッキリ?」


「です。だって私だって色々もっとああしてればよかった、こうしてれば勝てたとか、もっとよかったら父さんだって一緒にいたかもしれないって思うこと沢山ありますもん」


 父さん?

 もしかして父親を亡くしてるのかな。


 俺は彼女のことをお客様ぐらいしか知らない、あとは推定なにかの主人公ぐらいで。


「迷って迷って迷って、迷ってばかりだったよ」


「でも今は迷ってないんでしょ?」


 さっきの答えとは全然違う。

 だからそう思ったのだけど、ユウキちゃんは横に首を振って。


「迷ってるよ。でも」


「でも」


「選んだ答えは、もうこれを選んだほうがいいんだって思えることをやるって決めたんです」


 真っ直ぐに、目を向けていた。

 何も考えてない目じゃなかった。

 生きた、強い目だった。


。だって後味が悪いことをしたら、しんどいじゃないですか」


「……そっか」


 そっかぁ。

 うん、そうだな。


「ありがとう、助かったよ」


 さすが主人公だ。

 なんて思ってしまう。

 まあ推定に過ぎないし、こんな子が主人公だったらアニメか漫画か小説だったら素晴らしい話になんだろうなって確信が出来た。


 ――エッチなエロゲではないことを少しだけ祈っている。


 守護らないといけなくなるし。お兄さんは許しませんよ。

 設定でもなんでもなく未成年だぞ!!


「? どういたしまして?」


「ジュースでも奢ってあげよう。オレンジジュースとかでいいかな?」


「じゃあ次の十回勝負手加減してください」


「ごめん。ファイトは真剣勝負なんだ、君は教導されるほど弱くないんだ」


「ちくしょー!」


 やらん。

 まだやらんぞ、俺の灼刃は。

 絶対これデザイン間違えてんだろっていう強さだからな。


 後期ブレイバーとかが出てきたら制限とかされそう。







 ◆




 そんなこんなで楽しい過ごした閉店時間。

 朝早くから開けている分、終わるのが早めなのが土日祝のMeeKing営業時間だ。

 慣れた閉店作業をささっと終わらせて、店長に挨拶をしてから店を出る。


「……涼しくなってきたな」

 

 ついこの間までは半袖でも夜は過ごせてたのに、肌寒くなってきている。

 前世のイカれた猛暑の延長タイムと違って涼しくなるのが早い。

 ちゃんと四季が存在していることに、違和感を覚えなくなったのはいつだったか。


 そんな侘び寂びを感じながら駅までの道を歩いていく。

 秋に近く、日が落ちるのは早い。


「おい」


 だから気づくのが一瞬遅くなったし。


「おい」


 通り抜けようとして。


「おい!!」


「俺?」


 慌てて出てきた人影に、足を止めた。


「よぉ。久しぶりだな、茂札」


 それは長く伸ばした茶髪のロン毛の男だった。

 耳にはピアス、真っ黒なコートを羽織り、中には悪趣味な模様のシャツを着た顔色の悪い男。


 その顔と声に、俺は――




「誰だお前」



 さっぱり覚えがなかった。



「ふざけんなよ、茂札ぁ!!!」



 なんかキレてる、やだこわい。

 え、知り合い?

 いや、まて。今の小気味の良いツッコミは……


「あ、今のツッコミで思い出した」


「ツッコミで思い出した?!」


「もしかして……副部長ですか」


 かなり人相と柄とイメージが変わっているが、多分おそらく間違いない。


 それはかつて俺を追い出した――Life部の副部長だった。

 多分。



「なんで自信なさげなんだよ!!」



 多分あってるっぽそうだ。

 よかった。












 ついに瞬間移動が発明された。

 どれだけの長い距離でも瞬く間にたどり着ける素晴らしい移動方法だ。


 ただし、とてつもない過負荷がかかってしまう。

 そうまるでその分だけ老いてしまったような。

 だが、瞬く間に到着しているのは間違いない。



                        ――忘却サービス








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