二話 ライフデッキからカードを一枚コストゾーンに配置する


 僕、茂札普夫は名前でわかるように転生者である。

 え? なんで名前でわかるかって? こんな名前一般的なわけ無いだろ、いやこの世界だと普通かもしれないが。

 話がずれた。


 僕は転生した。


 なぜなら前世の記憶があるからだ。

 思い出したのは大体小学校の高学年ぐらいだった。

 朝起きて、あ、仕事いかなきゃって着るためのワイシャツを探していたところで前世の記憶があることに気づいたのだ。


 前世の俺は、どこにでもいる社会人だった。


 趣味として大人になってからカードをしばいて、カドショの平日大会などに参加していたぐらい。

 別にでかい大会とかは出ておらずに、近隣のカドショとかでかなり頭がおかしい(褒め言葉)の人たちにボコられたり、一矢報いたり、返す刃でやられたり。

 そんなことばかりをしていたことような気がする。

 名前も思い出せないけれどカードでの友人もそれなりにいた。

 職場とは違う人間関係の楽しい思い出があったと思う。

 なんで死んだのかは思い出せないけれど、死ぬまで楽しかったんだろうなと断言出来る。


 そんな奴だからこんな世界に転生したのかもしれない。



 カードゲーム、Lifeが社会を支配している世界に。



 待ってほしい。

 僕は正気だ。

 世界が正気だという保証は一切出来ないし、今も思っていないが本当なんだ。

 この世界は経済、政治、そしてカードゲームの三本柱で成り立っている。

 馬鹿か? だが事実だ。

 小学生時代の社会曰く、古くから人類は言葉を取得し、そして文明を得るためにカードゲームを創ったらしい。

 うん。

 古くは石器時代から石器とそしてそれで掘られた石板とかで、精霊だの大自然との対話を行っていたそうだ。

 うん。

 そして日本ではかの邪馬台国っぽい国の女王とかが神の託宣に、カードを……うん!!


 要約すると、ものすごい昔からカードゲームがあって、それがLifeの原型になってるそうだ。

 その影響で人類はみんな大小なりともカードに触れているし、Lifeでバトって白黒物事の決着を付けるのも普通。

 普通に武器と暴力で戦う戦争はあれども、一騎打ちとかの誉れにはLifeでの決戦バトルがあるとか、うん。


 これ絶対Lifeの販促アニメかなんかだろ……


 前世でLifeのカードはやっていたけど、アニメは見ていなかったから断言は出来なかったけど、他のもっと有名な決闘するほうのカードのアニメは見ていたし、そちらのカードもやっていた。

 だからなんとなくわかってた。

 これはそういう設定のアニメの世界だって。

 自分はそんな世界に転生してしまったのだと。


 そして、僕は絶望した。


 この世界のLife、いや、カードゲームに。


 だって、それは――――――
















 今日も今日とてバイトだった。


 通っている高校の授業が終わったら、そそくさと鞄を背負ってMeeKingに直行する。

 部活にも入っていない帰宅部だから早めのシフトでも問題ない。

 学校の授業?

 大体おかしい歴史と苦手だった英語以外は、セカンドライフの底地上げで楽勝の平均点ですよ。

 平均点より上なら問題ない。


「入りましたー」


 従業員用の裏口から入り、男性従業員用のロッカーでささっと自分用の店員エプロンを付ける。

 制服の上着を脱いで、ワイシャツとエプロンだけで働けるここの服装規定は緩いから助かる。手袋をしていてもいいし。


「今日も早いね、茂札くん」


「今日って大会なかったですよね?」


 フリースペースの長机にはテーブルを使って対戦することフリープレイをしている中高生らしい男子たちに、カードケースを眺めている大人が複数人。

 レジ前に客はいない。

 ゆっくりとした手つきでレアカードにスリーブを付けている店長に、引き継ぎ確認がてらに確認する。


「うん、今日はないよ。もっとやってくれっていう声は多いんだけどね」


「さすがに週二回が限度ですよね、うち店長と僕しかいませんし」


「ジャッジできるのもボクと茂札くんだけだからねえ。むしろ茂札くんがきてくれて二倍になったと思うと、頑張ってると思うんだな、ボクも」


 MeeKingは店長の個人経営のホビーショップだ。

 基本的に平日の一日と日曜日に一回ずつ、週二回でLifeの店大会を行っている。

 予選となるバトルは長テーブルで行い、残った四名の準決勝からバトルフィールド……バトルボードを使ったスタンディングバトルになっている。

 それに必要になるバトルボードは店のほうから貸し出しをしているので、なんだかんだで持っている方が珍しい小学生たちにはこれを使いたくて大会に出てくれる事が多い。

 もっとフィールドの数と貸し出しボートの数を増やしてくれという声も大きいんだが。


 フィールドとボードを整備出来る資格持ってるの店長だけだからこれが手一杯だ。


「茂札くん、ちょっとゲームスペース見てきてくれる?」


 そんなことを考えながら作業とレジ打ちをしていると、少し困った顔をした店長の声。

 見てみると、ゲームスペースのほうで小学生のグループがなんか揉めてる?


「トラブルみたいですね。いってきます。すみません、ちょっと変わりますね」


 レジの対応を店長と交代して、足早にゲームスペースに向かう。

 店長も立派に大人なんだが、男の自分と比べるとやっぱり子供には舐められやすいからなぁ。




「これ、ぼくが当てたカードなんだぞ! 絶対やらねえ!」


「みんなで当てた奴じゃない!!」


「そのカードは我のデッキにこそふさわしい!」


「もうバトって決めたら??」




 ああ、うん、レアカード当てた時のあるあるなトラブルだ。

 どうやらあの小学生……多分小学生だよな? 一人マントみたいなの付けているが、早めの目覚めかもしれない。

 

「はーいすみません、なにかありました?」


「こいつらがぼくのカードを取ろうとしてんだ!」


「ちがうよ! マサキくんが、独り占めしようとしてるんだもん!」


「我のデッキの完全体を邪魔するなー!!」


「果たして完成する日がくるのでしょうか」


 ふつう、普通、マント、なんだ君? な小学生四人組の話を聞いてみると、どうやら四人で小遣いを出し合ってパックを一枚買ったらしい。

 それでそれぞれ使えそうなカードを分けようって決めてたら一枚クソ強いレアカードが出てしまって、喧嘩になったと。


「うーん、ちょっとそのレアカード見せてもらってもいいかな?」


 エプロンから取り出した黒の手袋を右手に嵌めながら、お願いする。


「店員の兄ちゃんならいいよー」


「ありがと」


 丁寧に礼をしてからカードを確認する。

 レアはレアだが……汎用で使える強カードではないな。

 というか使えるデッキを選ぶタイプだな、これ。


「う~ん」


「どうしたの兄ちゃん、なんか問題のあるカードなの?」


「強奪する気だな!」


「おまいう」


「わたしたちのなんだけど!」


「いやいやいやそういうわけじゃないよ。ただこのカード、えーと君のデッキに合うかなって」


「どういうこと?」


「シナジーってのがあってね。よければ君のデッキ教えてくれる?」


植物戦鬼ゴブリンズデッキだけど……」


「私たちの中じゃあ一番弱いのよ! ゴブリンのくせに!」


「まだ未完の器よ」


「くくく、数の暴力でガードしきれずにボコられておる王金覇者ゴールデンロードデッキとは相性が悪い」


 植物戦鬼か。

 低コストと豊富な増援サーチ系を駆使したビートダウンのデッキだ。

 簡単に幻獣クリーチャーを並べられて、呼んで攻撃するということから初心者にも覚えやすいし、選択に思考リソースを使わないから使いやすい。

 決して弱いデッキではない。


「うん、だけどね。この<戦葬乙女ヴァルキュリアメイデンの導き手・アイーシャ>とは相性はあまりよくない」


「え、レアだよ!?」


「これは召喚と同時にアイーシャ以下のコストのクリーチャーをデッキからサーチするカードなんだ。特別な英雄、戦士を一緒に携えて共に戦うというテーマだ」


 カードのテキストを、手袋をはめた指でなぞりながら内容を読み上げる。


「植物戦鬼はサーチが豊富だから、このコストがやや重いアイーシャじゃなくても全然いいケースが多い」


 あと植物戦鬼はメインがゴブリンでかつ、戦士族の分類は一部だけだ。


「けーすがおおい?」


「代わりがきくってことだよ。あとこれをいれるならあと2枚いれないと意味が薄いかな」


「2枚!?」


「うん、Lifeは制限カードじゃなければ同名カードは三枚まで積めるからね」


「さんまい……そんなもってないよ」


「うん、だから無理にいれないほうがいいし、いれるとしても相性がいいか確認をしよう。もしも誰も使えないんだったら取っておいてそのためのデッキになったら使うか、あるいはここで売ってしまってそのお金で新しいパックを買うとかね?」


 これはちょっと店員としてはマナー違反かもしれないが、相手が小学生ならしょうがないだろう。

 カード資産もそんな多くないはずだ。

 それを大きく増やせるという選択のほうがメリットが多いし、ハズレレアばかりだとしても手に入る枚数は増える。

 上手く豪運や導きがあればレアカードも増えるかもしれない。


「でもためすって、どうするの? みんなはもってないし」


「代わる代わるにデッキにいれてみるか? 順番はじゃんけんでよかろう!」


「うーん庶民的な王様よー」


「最初はあたしからね!」


「はぁ、ふざけんなよ! ぼくからだよ!」


「なんだとぉ!?」


 ああ、またなんかもめてきた。

 どうする? この年の子だと、デッキを確認してから検討しろっていってもピンとこないだろうしなぁ。

 デッキのリストを書いてくれと言っても、


 うーん。しょうがない。


「ちょっとまってね」


 仕事用に使っているメモ帳とボールペンを取り出して、複数枚千切って外す。

 折りたたんで厚みと幅をを合わせてから、<戦葬乙女・アイーシャ>とペンで記入して、それを表面にしながらLife用のハードスリーブにいれる。

 この世界のLifeカードは金属製みたいに頑丈だからめったに汚れないが、商品にするならばスリーブにはいれるのが常識だ。


「これを代理にデッキで使ってみて、効果のテキストはそのアイーシャのを見ればいいから」


「なにこれ」


代用プロキシカードだよ。ボードで認識出来ないからテーブルでやってみて、試してみてね」


「偽物じゃん!」


「やすっぽーい」


「でも使えるかどうか、自分のデッキに相応しいか確認は出来るだろ? 実際のバトルや大会には使えないけど練習としてなら」


 こういう方法もあるよと続けようとした、僕の眼の前で渡したプロキシカードがテーブルに投げ捨てられた。


「いらなーい」


「ふん、こんな紛い物をいれたら我のデッキが汚れるわ」 


「きょーめいりつが下がるじゃん!」


「こんなの誰もやりませんよ、こんなのはね」


 そういうと子どもたちは背を向けて、ジャンケンをし出した。

 誰から使うかジャンケンで決めるようだ。


「……そう」


 僕は少しだけ深呼吸して、捨てられたプロキシカードを回収した。

 メモ紙は捨ててもいいが、スリーブはまだ使える。

 折り目の入ったハードスリーブもあったので、それだけ後で捨てないとなぁ。


「お疲れ様」


「すいません、上手く解決出来ませんでした」


「大丈夫大丈夫、取っ組み合いにならなければセーフだよ」


 とぼとぼと我ながら少し凹んだ足取りで戻った僕を、励ましてくれる店長。


「でもまあ代用カードはまずかったかな」


「プロキシカードもデッキの確認まわしになら悪くないと思うんですけど……実際のカードはすぐ手に入らないんですし」


「確認だけならね? でもそれをやりすぎたら、


 共鳴率という言葉に、眉間に皺が寄るのを抑えきれなかった。


「店長はそんなの信じてるんですか?」


「信じるというよりも知っているというべきかな。使わないカード、相性が悪いカードをいれて戦えばかみ合わせが悪くなるし、引きも弱くなる。まあボクも今となっちゃ関係ない話だけどね」


 どことなく憂いを帶びた顔を浮かべる店長が、エプロン越しの胸に手を当ててため息。


 店長はカードショップの店長だが、Lifeをやっていない。

 知識は豊富だからあくまでも商売のためと思っていたのだけど、もしかしたら昔はプレイしていたのかもしれない。

 だからある意味都市伝説ともいえる共鳴率に関してはなにか確信があるのかもしれない。


 僕にとってはあってほしくないものだが。


「まあ彼らが本当に必要だと思うならばいつか手に入るさ」


「はは、そうだといいですけどね」


 必要な汎用カードを揃えるのにバイト代の殆どを注ぎ込んでシングル買いした身としては笑って誤魔化すしかない。



 ガラン。



 深呼吸して気分を切り替えて、仕事に戻ろうとした時だった。

 聞き慣れているはずなのに、妙に耳に届く音がした。



 店の扉には昨日見届けたはずの――主人公ユウキが立っていた。



























明日を得るために、今日を準備する

生きるということはその繰り返しだ


――熟考

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