第12章:魔王との対峙と無自覚すぎる決着
魔王城は、天を突くほど巨大な、黒曜石でできた禍々しい城だった。絶えず紫色の雷が落ち、城の周りには絶望と怨念が渦巻いている。普通の人間なら、近づくだけで正気を失うだろう。
「すごいな、ラスボス感満載だ」
俺は呑気に感想を漏らし、仲間たちから同時にジト目で見られた。
城の内部は、不気味な静寂に包まれていた。魔王軍の幹部は、道中で俺が全員(無意識に)倒してしまったため、雑魚一匹いない。俺たちはまっすぐ、玉座の間へと向かった。
玉座の間は、だだっ広いホールになっていた。その奥、巨大な骸骨を積み上げて作られた玉座に、一人の男が座っていた。
漆黒の鎧を身にまとい、血のように赤いマントを羽織っている。整っているが冷たい顔立ち、そして、全てを見下すかのような金色の瞳。彼こそが、この世界の闇の支配者、魔王だった。
『……来たか、予言の子よ』
魔王は、重々しく口を開いた。その声は、聞くだけで魂が凍りつきそうなほどの威圧感を放っている。
「お、あんたが魔王?はじめまして、勇者のユウキです」
俺が気さくに挨拶すると、魔王は眉をひそめた。
『……妙だな。貴様からは、勇者特有の悲壮な覚悟も、世界を背負う使命感も、何一つ感じられん。ただ、空っぽだ。そのくせ、我が魔眼を以てしても、貴様の力の底が見えん。貴様、一体何者だ?』
魔王は、俺を見て本気で警戒しているようだった。
一方の俺は、「うわー、すごい玉座だな。座り心地良さそう。でも骨だから痛いのかな」なんてことを考えていた。
「ユウキさん、油断しないでください!あれが魔王です!」
「我らが全力で援護する!ユウキ殿は、一撃に全てを賭けてくれ!」
仲間たちが悲壮な覚悟で叫ぶ。
『フン、小賢しい仲間たちめ。だが、無駄だ。この我を前にして、希望など存在しないこと、教えてやろう!』
魔王が手をかざすと、彼の背後に巨大な魔法陣が展開し、そこから世界を滅ぼすと言われる禁忌の魔法、「エンド・オブ・ワールド」が放たれた。空間そのものを消滅させる、絶対的な破壊の光が俺たちに迫る。
「きゃあっ!」
「ぐっ……!」
仲間たちが絶望に顔を歪める。
「うおっ、まぶしっ!」
俺はただ、それが眩しいという理由だけで、顔を背けながら手で光を払った。
すると、世界を滅ぼすはずだった破壊の光は、俺の手に触れた瞬間、まるでシャボン玉が弾けるように、パチン、と音を立てて消滅した。
「「「「「…………は?」」」」」
仲間たちと、そして魔王本人も、信じられないといった顔で固まっている。
『ば、馬鹿な……!?我が究極魔法が、赤子の手をひねるように……!?』
魔王が本気で動揺している。
「いやー、今のビックリしたなあ。なんか、すごい光ったけど」
俺がのんきに言うと、魔王は逆上した。
『おのれぇぇ!ならば、これでも喰らえ!』
魔王は次々と、人類が何世代もかけてようやく対抗できるレベルの絶技を繰り出してきた。しかし、時を止める攻撃は「あれ?なんか周りが静かになったな」で効果がなく、因果を捻じ曲げる呪いは「ん?なんか肩が凝ったかな?」で終わってしまい、精神を破壊する波動は「うーん、ちょっと眠くなってきたな」という感想しか俺にもたらさなかった。
魔王の猛攻は、俺にとって、ただの「ちょっとしつこい邪魔」でしかなかった。
『ありえん……ありえんありえんありえん!我が数千年の支配!我が絶対的な力!それが、なぜこの男に通じぬのだ!』
魔王はプライドをズタズタにされ、半狂乱で叫んでいる。
そろそろ話が長くて飽きてきたな。早く帰って、王都のおいしいご飯が食べたい。
「なあ、もういいか?」
『何ぃ!?』
「もう、しつこいな」
俺はそう言うと、魔王に向かってまっすぐ歩いていった。そして、目の前で、ごく普通のパンチを繰り出した。何の変哲もない、ただの右ストレートだ。
俺の拳は、魔王がとっさに展開した何重もの結界を、まるで薄紙を破るように貫き、彼の鎧を砕き、その胸の中心を、的確に捉えた。
ドスッ、という軽い音。
魔王は、信じられないといった顔で、自分の胸にめり込んでいる俺の拳を見た。
『……が……は……』
彼は何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。そして、彼の体は足元からゆっくりと光の粒子となって崩れ始める。
『こ……こんな……ことが……。我は……魔王……ぞ……?一体……我は……何に……負けたのだ……?』
最後の言葉は、誰にも聞こえなかった。世界を恐怖のどん底に突き落とした魔王は、自分が何によって滅ぼされたのかを理解できないまま、呆気なく完全に消滅した。
後に残されたのは、静まり返った玉座の間と、ぽつんと立つ俺、そして腰を抜かして震えている仲間たちだけだった。
俺は、自分の拳を見ながら、首を傾げた。
「あれ?終わったのかな?」
世界は、救われた。
一人の、自分の力を全く自覚していない男の、ただのパンチによって。
この日、ユウキという名は、神話となった。本人は最後まで「たまたま相手が弱かったのかな?」と首を傾げ続けていたけれど。
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