第17話

***


「……仕方ない。スカーレットをここに呼んでやろう」


 最初の遠征に来てから三週間。俺はとうとうスカーレットを呼ぶことを決めた。


 魔術師団員たちはそう言った途端、涙を流して喜び始めた。



 本当はあんな可愛げのない女など呼びたくない。光魔法が効かないからあの女を呼ぶなど、まるで助けを求めているようで屈辱だった。


 しかし、最初の遠征の日から三週間が経ち、その間何度も結界の元へやって来て維持魔法をかけているが、一向に効かないのだ。


 この先も魔法が効くようには思えず、諦めるしかなかった。



「ダリウス様! スカーレット様なんていなくても私たちだけでどうにかなるはずですわ! 諦めないで頑張りましょう!?」


「いや、しかしな、ノーラ……」


 ノーラは頬を膨らませて怒っている。しかし、今後ノーラと二人で結界に魔法をかけ続けても、どうにかなる未来が思い浮かばなかった。


 仕方ない。非常に不本意だが、今後も遠征に行くときだけはスカーレットを連れてきてやろう。


 あの女は俺に婚約破棄されて沈みきっているはずだから、遠征だけでもこれまで通り動向を許してやると言われれば、涙を流して喜ぶはずだ。


 俺は渋々魔術師団の一人にスカーレットを呼ぶよう命じた。



 しかし、戻ってきた魔術師団員が告げたのは、思ってもみない言葉だった。


「ダリウス殿下! スカーレット様はこちらへは来られないとおっしゃっています!」


「はぁ? あの女、遠征に連れてこなかったことを拗ねているのか。もう一度連絡し直せ。何度も連絡してやれば、自尊心も満足してここへ来ることを了承するはずだ」


「いえ、違うのです……! スカーレット様はルシア聖国を出て、隣国のアウロラ帝国に移り住まれることになったと……!」


「は……?」


 呆然とする俺の横で、ヒューバートがはっとしたように声を上げる。



「アウロラ帝国……? スカーレット様の母君のご出身のか?」


「はい。スカーレット様は学園の休暇中、アウロラ帝国にある母君の生家で過ごされていたようです。そこで帝国の第二皇子殿下と婚約なさったそうで、国には戻らずあちらに移り住まれると……」


「なんてことを……!!」


 ヒューバートと魔術師団員は、顔を真っ青にして話している。



 スカーレットが、帝国の第二皇子と婚約? 一体何を言っているのか理解できなかった。


 つい最近まで俺の婚約者だったというのに、もう別の男と婚約したというのだろうか。それも皇子だなんて、一体どうしたらこの短期間で知り合うことになるんだ。


 そもそも、スカーレットが隣国まで行っていたことも予想外だった。



 いや、よく考えたらスカーレットは母の実家で休暇を過ごすと報告を受けていたな。


 スカーレットの母の出身なんて興味もないから、すっかり記憶から抜け落ちていた……。

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