第7話

***


「わぁー、すごく綺麗!」


 数日後、長期休暇に入ると、私は早速母の実家を訪れることになった。


 馬車の向こうにはいっぱいの麦畑が広がっている。周りには山々が見えるばかりで、建物ひとつ見当たらない。



「休暇をゆっくり過ごせるなんて久しぶりだわ」


 私の休暇は、いつも王妃教育と、結界を維持するための魔法の訓練、それから実際に結界のメンテナンスをするための遠征に費やされていた。


 しかしダリウス様に婚約破棄された今は、もうそういったことをしなくてもいいのだ。


 そう思うとどこか心許ない。けれど、同時に解放感が込み上げてくる。



 しばらく馬車が進むと、大きな屋敷が見えてきた。


 灰色の壁に黒い屋根の趣のあるお屋敷。記憶にあるより小さく見えるけれど、相変わらず美しい。


 懐かしい思いでお屋敷を眺める。


 庭には薔薇の花がたくさん咲いていた。花壇の向こうに二つの人影が見える。



「スカーレット! 待っていたぞ!」


「大きくなったわね、スカーレット」


 出迎えてくれたのは祖父母だった。


 祖父母は長旅をしてきた私を労わりながら、応接間まで案内してくれる。祖父に促され部屋の中へ入った。


 ソファもテーブルも暖炉も、全て幼い頃に見たままだった。



「カトリーナから話は聞いているぞ。とんだ災難だったな。スカーレットは幼い頃からずっとダリウス殿下を支えてきたと言うのに!」


「全く、恩知らずも甚だしいわ! うちのスカーレットにそんな無礼な真似を働くなんて! スカーレット、あなたが帰りたくないならずっとここにいてもいいのだからね」


 祖父母は怒り顔をしながら言う。カトリーナとは母の名前だ。ここに来る前に、母が祖父母に事情を説明しておいてくれたのだろう。


 祖父母のあまりにはっきりした物言いに、なんだか笑いだしたくなってしまった。



 私は二人の厚意に甘え、お屋敷でゆっくり過ごさせてもらうことにした。


 用意してもらった部屋は二階の奥の眺めのいい部屋だった。窓の外からは庭の薔薇園がよく見える。


 遠くには山々と草原が見えた。あの辺りの草原は、昔かけっこをしたり小鳥を探したりして遊んだ場所だろうか。



「ふふっ、なんだか楽しくなってきちゃった」


 私はベッドに腰を下ろして呟く。


 久しぶりにやってきたお屋敷は何もかもが懐かしかった。


 そういえば、このお屋敷に遊びに来られた頃の私は、とても自由だったなと思い返す。


 目を瞑ると幼い頃の光景が浮かんできた。



『スカーレット、絶対にまた会おうね。約束だよ』


 たどたどしい、今にも泣き出しそうな声が甦る。


 あの子もまだここに住んでいるのだろうか。


 ぼんやりと考えていたら眠くなってきて、私はベッドに体を倒すとそのまま瞼を閉じた。

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