第4話

 そんなある日、事件が起こった。


 昼休み、人が大勢集まっている学園の中庭で、ダリウス様に婚約破棄を宣言されたのだ。



「スカーレット! 俺はお前との婚約を破棄する!」


「は?」


 突然の宣言に言葉を失った。


 ダリウス様の隣には、彼に腰を抱かれて目を潤ませるノーラがいる。


 こんな場所で人を指さして大声で宣言するものだから、その場にいた者たちの視線はこちらに集中していた。


 ダリウス様は呆然とする私に構わずに言葉を続ける。



「ずっとお前にはうんざりしていたんだ。必要ないと言っているにも関わらずいつもいつも俺が結界を張るのについてきて、すました顔で邪魔をしてくる。それでも陛下がお前の光魔法の才能を手放すわけにはいかないと言うので我慢してきた」


「いや、遠征に同行していたのは陛下のご命令で……」


「しかし、同じ光魔法の才能を持つノーラが現れた今は状況が変わった! もうお前など必要ない。俺はお前との婚約を破棄し、新たにノーラと婚約を結び直す」


 あまりのことになかなか理解が追いつかない。


 婚約破棄。ノーラと新たに婚約。私はダリウス様の婚約者でなくなるということだろうか。


 なかなか状況を飲み込めない私に向かって、ノーラが言う。


「スカーレット様、ごめんなさい! でも、私はダリウス様を笑顔にしてさしあげたいんです……! スカーレット様が婚約者のままでは、ダリウス様はずっと曇り顔をしてばかりだと思って……」


 ノーラは目に涙を溜めて、悲しそうな顔をしている。


 そんなノーラを見て、ダリウス様は励ますように彼女の頭を撫でた。「君はあの女のことなど気にしなくていいんだ」なんて言っている。



 これは一体何の茶番なのだろう。


 私だってダリウス様が好きで婚約者になったわけではない。


 ただ、公爵家の娘に生まれた私には、国王陛下と両親が話し合って決めた婚約を断るすべなどなかったのだ。


 それでも幼い頃はダリウス様と仲良くできるよう頑張ってきた。


 彼がどうあっても私を好きになることはないと察してからは、与えられたダリウス様の補佐の仕事だけでもやり遂げようと努力してきた。



 しかし私の思いなんて全く通じてなかったのだろうか。


 好かれてはいないにしろ、ほんの少しくらい私の努力にも気を払ってくれていると思ったのに。



 目の前には私を睨みつけるダリウス様と、ダリウス様のしがみつきながら潤んだ目でこちらを見るノーラがいる。


 中庭にいる生徒たちは大騒ぎして、収拾がつかないくらいだった。


 私の中で張り詰めていたものが切れる音がする。


 気がつくと私の口からは承諾の言葉が零れ落ちていた。



「承知しました。婚約を破棄いたしましょう」


 私が答えると、その場にいた人たちがいっそうざわめく。


 周りの人たちの喧騒を聞きながら、婚約破棄するにしてもほかに人のいない場所を選んでくれたらいいのにと思った。


 ダリウス様は最後の最後までちっとも私のことなんて考えてくれない。

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