栞と馨

@haretasora

お昼ご飯は食べ損ねた

待ちに待った昼休み。四限の授業は数学。お腹の虫が静かなあの空間で鳴り響かないか気が気でなかったのだ。さあさっさとお弁当を食べてしまおう。地響きのような唸り声をあげる私の胃袋にそろそろ何か与えてあげないと。なんて、空腹と苦手な数学での疲労も相まって、わけのわからないことを考えていた私の前に颯爽と現れた女は、当然のように前の席につき、こう言った。


「ねえ、トランプタワー早建て選手権をしましょう!」

「…………………え??」


なにを、何を言っているんだろうこの人は。今は昼休み。一日で一番楽しみにしてるお昼ご飯の時間。のはず。……いや、違う。今は昼休み。私の目の前でトランプを差し出しキラキラと目を輝かせているこの女に言わせれば、学校生活の中で友達と遊べる唯一の時間。…そう、待ちに待った、遊びの時間なのだ。

「ルールは簡単よ。先に十段のトランプタワーを完成させたほうが勝ち。」

「十!?」

「ええ、十段。大きいほうがかっこいいでしょう?それに、カントリーマ◯ムもダ◯ソーも大きければ大きいほど良いとされているじゃない。」

「それとこれとは話が別なんじゃないかなぁ〜!?」

「よし、じゃあ早速トランプタワーをつくりましょう!せーの、で始めるわよ。準備はいい?」

うわこの人私の話聞いてないよ!しかもなんなんだその口調と全く合っていない庶民的すぎる例えは。でもこれだけはこのゴーイングマイウェイ女に伝えなければならない。私にだって譲れないものはあるのだ。

「はい!すみませんちょっといいですか!」

「なぁに?発言を許可しましょう。」

「どこの女王様…?じゃなくて、ご飯、食べてからでもよくないですか…?」

頼む。もう私の空腹は限界だ。早くご飯を食べたくて食べたくて仕方がない。少し上目遣いで渾身のおねだりの顔をしてみせる。声色、表情全てを駆使してお弁当を食べさせてくれと主張する。彼女が私の顔が好きだってことは短くない付き合いで存分に知っている。

「…………いいえ。」

「えっ、なんで!!」

「いつもいつもそれが通用するなんて思っていたら大間違いよ。いい?馨。今日は、あなたがお食事よりもわたくしとの遊びを優先するとっておきの理由を考えてきたの!」

漫画だったら背後にでかでかとドヤ!と書いてあるだろうなと思うほどのドヤ顔を披露しながら彼女は言う。睡眠よりも何よりもご飯の時間が大好きなこの私に、食事よりも遊びを優先させる理由なんて、果たして本当に存在するのだろうか、と訝しげに彼女の顔を見る。

「とっておきの理由ぅ〜?」

「ええ、とっておきの!ふふ、一つ賭けをしましょう馨。このトランプタワー早建て選手権、勝ったほうが負けたほうのお弁当の具をなんでも一つもらえるの。どうかしら__」

「のった!!!」

彼女が話し終わるのすら待ちきれず、身を乗り出して大きな声で答えてしまった。のった!そんなの、賭けにのらない理由がないじゃないか!何を隠そう、私の目の前で秘策が決まって嬉しそうにニマニマと頬を緩めているこの女、フィクションのような喋り方をするだけあって、れっきとしたお嬢様なのだ。そんなお嬢様が持ってくるお弁当といえば……当然豪華である!庶民派代表の私のお弁当では見たこともないようなおかずがたっくさん入っている。彼女は今、なんでも一つ具をもらえる、と言った。つまり勝てば私は、お弁当が減ることなく彼女の豪華な弁当からおかずを得ることができるのだ!こんな機会、そうそうないだろう。絶対に逃すわけにはいけない!

「ふふふ、やっぱりやる気になってくれたわね。それじゃあ始めましょう。第一回トランプタワー十段早建て選手権を!」

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