第141話:王城での女子会

 鈴音の部屋に入ると、全員が大きく伸びをする。


「んん~~! ……はぁ。なんだか、ドッと疲れたね」

「本当よね。私なんてSランク冒険者だけど、言ってしまえば平民よ? なんだか夢見心地な気分だったわ」

「その割にはティーちゃん、めっちゃカッコよかったけどなー!」

「私も思いました! 初めましてですけど、本当にカッコよかったです!」


 楓の言葉にティアナが本音を溢すと、すぐにアリスと鈴音が口を開いた。

 そこでティアナと鈴音が初対面だと楓も気づき、お互いに自己紹介をしてもらおうと思った。


「そっか。ティアナさんは王家からの依頼を受けていないから、有明さんとは初対面なんでしたっけ」

「はい! あの、私は有明鈴音と申します!」

「ティアナよ。敬語とかはいらないからね」

「ありがとうございます!」


 なんだかとても嬉しそうな鈴音を見て、楓は内心でホッとしていた。

 アリスも感じていたことだが、鈴音と道長の様子がどうにもギクシャクしているように見えていたからだ。


「ねえねえ、犬山さん。外の世界はどうでしたか? 色々とお話を聞きたかったんです!」


 すると楓が疑問を口にする前に、鈴音から興奮気味に問い掛けられた。


「外の世界ですか? うーん……私個人の意見だと、この世界はとっても楽しいところです」

「そうなんですね! あぁ、いいなー」

「あれー? 鈴っちは外に行きたかったの? ぜんっぜん、そんな素振りなかったじゃん?」


 楓の答えを聞いた鈴音が羨ましそうに呟くと、アリスはやや驚いたように口を開いた。


「最初は何がなんだが分からなくて、怖かったからね。だけど、王妃様の薬草を採取するって外に出た時……なんだろう。ずっとお城の中にいたからかもしれないけど、解放感がものすごかったの」

「あー! それ、あーしも分かるかも! 外だー! 何これー! って感じだったもんねー!」

「うんうん! 見たことのない木々や生きもの、どこまでも広がる大草原だったり! ……まあ、薬草のある山は大変だったけどね」


 最後の方は苦笑しながらの言葉だったが、それでも鈴音が外の世界に感動を覚えていたのは楓にも伝わっていた。


「そしたら急に、アリスちゃんもいなくなっちゃうし」

「え? アリスちゃん、有明さんや神道君に何も言わずに出てきたの?」


 鈴音の予想外の言葉に、楓は驚きながらアリスに問い掛けた。


「いやー、そうなんだよねー。こうと決めたらすぐに動いちゃうタイプでさー。レイニャンが犬っちのところに行くって聞いて、直接頭を下げたらオッケーもらえたんだー!」

「す、すごい行動力ね、アリスって」


 アリスの話を聞いたティアナが呆れたように呟いた。


「でもでもー? そのおかげで犬っちと再会できたしー? ティーちゃんとも友達になれたしー? 王子様を見つけられたし!」

「そうだよ、アリスちゃん! ヴィオンさんを見つけられてよかったね!」

「あいつのどこがそんなにいいってわけ?」

「あれ? もしかして、ティアナさんとヴィオンさんって、お知り合いなんですか?」


 ティアナとヴィオンの関係性を知らない鈴音は、アリスのことで喜んでいたのだが、ティアナの言葉を聞いて気まずくなってしまう。


「あぁ、気にしないでちょうだい。私たちは同じ冒険者仲間ってだけで、男女の関係じゃないから」

「幼馴染み、でしたよね?」

「「お、幼馴染み!?」」

「ちょっと、カエデ! 変なこと言わないでよ!」

「ヴィオン兄、ですもんね?」

「「ヴィ、ヴィオン兄!?」」

「カーエーデー!!」


 楓がティアナをからかっていると、アリスと鈴音から笑い声が聞こえてきた。

 ティアナも本当に怒っているわけではなく、それでもやられっ放しは悔しいと口を開く。


「カエデはレイス様から求婚されてたじゃないのよー」

「えぇ!? そうなんですか、犬山さん!!」

「ち、違うからね! あれはアリスちゃんが変な話の流れにするから!」

「でもでもー? レイニャンは断らなかったしー? 脈ありだよねー?」

「な、なんだか私、興奮してきました!」

「落ち着いてよ、有明さん! アリスちゃんも変な方向に話を持っていかないでよ!」


 大盛り上がりな女子会だったが、恋愛トークになったからだろう、アリスがこんなことを口にする。


「そうそう! あーしがお城を出たあと、鈴っちとみっちーはどうなったの? 何か進展はあった?」


 アリスとしては二人の関係を知っているからこその、当たり前の質問だった。

 しかし、鈴音はこの質問のあと、一気に表情が暗くなってしまう。


「……え? あのー、鈴っち? どしたー?」

「……道長君、他の女性の方に一目惚れしちゃったんです!」

「……あん? マジで言ってんの、あいつ? 鈴っちと付き合っておいて?」


 鈴音が涙ぐみながら感情を吐露すると、アリスの雰囲気が一変した。

 表情は怒りに染まり、すぐにでも殴り殺しに行きそうなくらいの殺気を全身から放っている。


「お、落ち着いて、アリスちゃん!」

「私は話が見えないんだけど、スズネとミチナガって奴が付き合っていて、それなのに他の女に目がくらんじまったってこと?」


 楓が間に入りながら、ティアナは話を整理しようと確認を取る。


「……はい」

「よし。みっちーの奴、一回殺してやろう」

「殺しちゃダメだからね、アリスちゃん!?」

「確かに殺しはダメだ。半殺しくらいにしておきな、アリス」

「半殺しもダメですよ、ティアナさん!?」


 なんとか全員を落ち着かせようと、楓が必死に声を上げる。


「と、とにかく! まずは有明さんの話を聞きましょう! ……あ、でも、言い難いことなら無理にとは言いません。どうですか、有明さん?」

「……いいえ、話します! こうなったら、とことん文句まで言わせてもらいます!」


 涙を拭いながら、鈴音は真剣な表情でそう口にした。

 その表情を見た楓は、いったいどれだけの文句が飛び出すんだろうかと、内心でハラハラしていたのだった。

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