第55話:既製品作り
「首輪に関しては、レクシアへのプレゼントである程度の感覚は掴めているかしら?」
セリシャの問い掛けに、楓は頷く。
「はい。あとは、従魔の体系に合わせた既製品をいくつか作ればいいかなって考えています」
「そうね。であれば、足輪から作ってみましょうか」
「……足輪から、ですか?」
楓はセリシャの提案に驚きの声を漏らした。
何故なら楓は腕輪からと言われると思っていたからだ。
しかし、楓の思考はあくまで人間の体をイメージしていたからで、従魔の体系をイメージしていたならば、足輪の方が先に来るのは当然のことだった。
「ラッシュやレクシアのように、四肢で動く従魔の方が、人型の従魔よりも多いの。それに、ハオもそうではなくって?」
「あ……確かに、その通りですね」
ラッシュやレクシア、そして商業ギルドの受付嬢をしているエリンの従魔であるハオを例に出したことで、楓は納得して大きく頷いた。
「でも、そうなるとラッシュ君も、レクシアさんも、ハオ君も、他の従魔たちだって、足のサイズは違い過ぎますね」
「だからこそ、カエデさんのベルトが役に立つのよ」
思案顔になった楓に対して、セリシャは嬉しそうに声を掛けた。
「大、中、小で作るのは今までの既製品と同じだけれど、そこにベルトを取り付ければ、近いサイズの従魔には十分に使えるはずよ」
セリシャが口にした考えを、楓も考えていた。
それは日本にいた頃にも使われていた方法なので、作る分には問題はない。
ただ、そのサイズの違いがあまりにも大きすぎるのだ。
(ラッシュ君の足のサイズと、ハオ君の足のサイズって、全く違うもんね。それどころか、ラッシュ君の足のサイズが、ハオ君の全身だといってもいいくらいだもの)
それに、従魔の大きさもラッシュが最大ではない。
楓が知っている中で一番大きな従魔は、バルフェムを治めている貴族、ボルト・アマニール子爵の従魔である、老ドラゴンのカリーナだ。
ラッシュよりも大きく、空まで飛ぶのだから既製品では収まりきらないサイズでもある。
ここまで来ると、おそらくだが完全オーダーメイドでなければ対応できないはずだ。
「……まあ、全従魔に対応できる既製品なんて、さすがに無理ですよね」
「それはさすがに、無理があるのではないかしら?」
楓の呟きにセリシャが答えた。
「ですよね~。でもまあ、今はある程度の大きさまで対応できれば、問題ないですよね!」
最初から全てを完璧にこなせるとは、楓も思っていない。
そもそも、最も多いサイズに合わせて作るのが既製品だと楓は考えており、極端に大きい、もしくは小さいサイズの従魔に対しては、それこそオーダーメイドであるべきだとも思っている。
(まずは一番サイズ的に多そうな中サイズをイメージして、足輪を作ろう。それから大サイズ、最後に小サイズをイメージした足輪だね)
足輪自体は簡単だ。要領は首輪と同じなのだから。
ただ、足というのは実際に走る時に動かす部分でもあり、行動を起こす時に邪魔になってはいけない。
そこを気をつけながら、楓は足輪の形をイメージしていく。
(締め付け過ぎは良くないから、最初から多少の余裕を持たせたベルトの方がいいかな。装飾はジャラジャラしたのはダメ。シンプルで、ピッタリはまる感じのものがいいかな)
従魔のことを考えながら、楓はイメージを固めていく。
「……よし」
楓の呟きを聞いたセリシャは、準備ができたと判断して魔法鞄から従魔具の材料を取り出していく。
すると楓は、取り出された材料をすぐに手に取ると、〈従魔具職人EX〉を発動させた。
「どうやら、大丈夫そうね」
最初は何かしらのアドバイスが必要かと思っていたセリシャだが、楓の行動を見て安堵の息を吐く。
そして、頼もしさすら感じながら楓の作業を見守ることにした。
(ベルトには木材を使おう。レクシアさんにプレゼントした首輪と同じ要領で作ろう。飾りは鉱石を使おうかな。今ある鉱石は緑宝石、黒狼岩、雷鳴鋼の三種類。これらで飾りを作って、足輪にピッタリとはめ込もう!)
単に足輪を作るだけなら、飾りなど必要ない。むしろ、動きのことを考えたならシンプルな方がいいかもしれない。
しかし楓は、従魔具をつけてくれるのであれば、それなりにオシャレなものであってほしいと考えていた。
主だけではなく、従魔にも満足してもらえるような、そんな従魔具を既製品であっても作りたい。
「……よし、できた!」
レクシアの首輪を一度作っていたからか、初めての足輪ではあったがあっという間に作り上げた。
飾りには緑宝石、黒狼岩、雷鳴鋼を使った三種類の足輪をだ。
これにはセリシャも驚きを隠せない。
「……すごいわね、カエデさん。これだけ美しい従魔具、普通の職人なら一つ作るのに一時間以上は掛かるわよ?」
「え? そうなんですか? でも、スキルが助けてくれるんですよね?」
楓がスキル〈従魔具職人EX〉の使い方を知らなかった時、セリシャはスキルが作り方を教えてくれると助言してくれた。
実際にその通りとなり、楓はラッシュの従魔具を作り上げたのだ。
「そうなのだけれど、カエデさんの場合はスキルレベルもそうなのだけれど、あなた自身のイメージ力も高いようね。スキルが無駄なく発動している、そんな風に感じるわ」
「イメージ力、ですか?」
イメージ力と言われた楓は、確かにと感じたものの、それは彼女自身のイメージ力というわけではなかった。
楓の頭の中に浮かんでいたのは、日本で実際に見たことがあるベルトや飾りの形だったりしたからだ。
「……だとしたら、嬉しいですね」
とはいえ、そのことをあっさりと誰かに教えていいものかどうか、楓にはすぐに判断がつかなかった。
(セリシャ様には伝えていい気もするんだけど、何かのついでに伝えるのは違う気がするんだよね。伝えるなら、もっとちゃんとした場を設けて、伝えなきゃいけない気がする)
異世界から召喚された人間だと知られれば、信頼を置くセリシャであってもどんな反応を示すのか、楓には想像がつかなかった。
(……嫌われたく、ないなぁ)
思わずそんなことを考えてしまったからだろう、楓の表情はいつの間にか沈んだものに変わってしまう。
「どうしたの、カエデさん? 疲れたなら、休んでもいいのよ?」
そんな楓を見たセリシャが心配そうに声を掛けてきた。
「あ! えっと、大丈夫ですよ! すみません、ちょっと考え事をしてしまいまして! よーし、頑張るぞー!」
明らかな空元気だ。それはセリシャから見ても分かるほど、無理をしていた。
しかし、セリシャとしても楓が何か訳アリなのだということは理解している。
だからこそ、ここで無理に話を聞くのも、休ませるのも、違うのではないかと考えてしまう。
「……分かったわ。だけれど、本当に無茶だけはしないでね?」
「もちろんです!」
セリシャは楓の判断に任せ、この場は見守ることにした。
しかし心の中では、いずれ自分には本音を語ってほしいと、強く願っていたのだった。
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