第43話:協力の条件と料理の力

「ルンルルーン! ルンルルーン!」


 鼻歌を歌いながら、ティアナはスキップで東にあるフェザリカの森を目指していた。もちろん、楓も一緒にいる。

 フェザリカの森へ向かう理由は、ティアナの従魔を見つけるためだ。


「あのー、ティアナさん? 本当によかったんですか? セリシャ様からの無茶なお願いを受けちゃって?」


 ティアナが楓に協力をお願いした時、セリシャは同行の条件を一つだけ突きつけていた。


「問題ないわよ! それにこれ、カエデのためを思っての条件だもの!」

「それはまあ、そうなんですけど……」


 セリシャが突きつけた条件、それは――


「従魔具の材料を集めることが条件だなんて、私にしか得がないように思えるんですけど……」


 楓が作る従魔具の材料を集める、これがセリシャの出した条件だった。

 その条件を聞いた楓はすぐに否定しようとしたのだが、その前にティアナがあっさりと引き受けてしまったのだ。


「そんなことないわよ?」

「そうですか?」

「だって、カエデの従魔具は商業ギルドを通して受けているんだから、当然だけど紹介料が商業ギルドに入る。そして私は、従魔を見つけることができるかもしれない!」

「でもでも、ティアナさんのメリットは絶対ではないですよね?」


 楓が一緒だから必ず従魔になる魔獣が見つかるわけではない。

 ピースの場合はたまたま、楓の料理の味付けが舌にあっただけで、そうではない魔獣もいるだろう。

 もしかすると、襲い掛かってくる魔獣がいるかもしれない。

 ティアナが口にした彼女自身のメリットは、全くないようなものなのだ。


「ふふふふ。私のメリットは、それだけじゃないのよ?」

「そうなんですか? でも、他にどんなメリットが?」

「それは――カエデの料理が食べられることよ!」


 そう口にしたティアナの表情はどこかだらしなく、それでいて満面の笑みを浮かべていた。


「前にも言いましたけど、私の料理では報酬にもなりませんし、今回の件ではメリットになりませんって!」

「受けた私自身が成るって言っているんだから、なっているのよー」

「うぅぅ~。プロの料理人には、絶対にこんなティアナさんは見せられないよ~」


 Sランク冒険者であるティアナなら、お高い料理店にも足を運べることだろう。

 そして、そこに行けばいつでも楓が作る料理よりも美味しいものが食べられるはずだ。

 それにもかかわらずティアナは楓の料理が食べたいと言ってくれている。

 ありがたいことなのだが、楓としては正直プレッシャーにもなってしまう。


「うーん……高級な料理店にも行ったことはあるけど、私にはよく分からなかったんだよねー」

「……そうなんですか?」

「うん。貴重な食材とか調味料を使っているみたいなんだけど、味が薄いっていうか、なんていうか……こんなことを言ったら楓に失礼かもしれないけど、私って平民だからさ。お高いものは合わないのかも?」


 ティアナの言葉を受けて、楓もなんとなくだが共感できてしまう。


「その気持ち、少し分かるかも。普段食べているもの以外の高級なものって、絶対に美味しいんだって思って食べているからなのか、味が薄かったりすると、ん? ってなりますよね」

「そうなのよ! よかったー、カエデに共感してもらえて!」


 楓が同意したからか、ティアナは安堵の息を吐きながらそう口にした。


「カエデは殿下と顔を合わせてるみたいだけど、平民だったの?」

「平民ですよ! どこに貴族要素があるんですか!」

「だから、殿下と顔を合わせていたこと?」

「ぐはっ!? ……うぅぅ、ぐうの音も出ないよぅ」


 第二王子であるレイスと顔を合わせている時点で平民ではないと思われるのは、仕方がないことなのだと理解した楓。

 実は皇太子である第一王子のアッシュとも顔を合わせたことがあると知られたら、どんな反応をされるのか。


(……アッシュ様とも会ったことがあるというのは、言わないでおこう)


 そう心に決めていると、気づけフェザリカの森に到着した。


「そういえば、ティアナさん。いったいどうやって従魔を見つけるつもりなんですか?」


 楓の料理以外にも何か柵があるのだろうと思い、ティアナに聞いてみた。


「とにかく歩く! そして、カエデの料理で誘い出す!」

「……え? それだけですか?」

「え? むしろ、他に方法ってあるの?」


 当然という感じでティアナが答えたため、楓はどうしたものかと思案する。


(……これ、セリシャ様に従魔を見つける方法とか、聞いておいた方がよかったんじゃ?)


 一抹の不安を抱きながら、楓とティアナはフェザリカの森に入っていく。


「絶対に従魔を見つけるぞー!」

「お、おぉー?」


 気合いのこもったティアナの声に、楓は首を傾げながらも応える。


「……キュキュ~(やれやれ~)」


 そんな二人を楓の肩の上から見ながら、ピースは肩を竦めていたのだった。

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