第32話:おねだりピース

 楓が従魔たちに従魔具を作った翌日。

 今日もセリシャの部屋を訪れていた楓は、余った従魔具の材料を見つめていた。


「……これ、どうしましょうか?」


 楓の肩にはハピリスが乗っており、部屋にはセリシャもいた。


「私の魔法鞄で預かっておくわよ?」

「でも、ずっとそうしてもらうわけにはいきませんよね?」


 腕組みしながら考え込む楓を見て、突然ピースが行動を起こす。


「キキキキ!(ねえねえ!)」

「どうしたの、ピース?」

「キュキュキキッキキー!(おいらの従魔具も作ってよー!)」

「……はっ! それもそうだね!」


 従魔登録が完了したことで、楓の中ではなんとなく、ピースのことは終わりという風になっていた。

 しかし、ピースのおねだりを受けて、自分の従魔が自作の従魔具を身に着けていないというのは、絶対にダメだと思うようになっていた。


「セ、セリシャ様!」

「どうしたの、カエデさん?」

「材料のお支払いはしますので、ピースの従魔具を作ってもいいでしょうか!」


 真剣な面持ちでそう口にした楓を見て、セリシャは苦笑しながら答える。


「もちろんいいわよ。それと、材料はカエデさんのものなのだから、私に支払う必要はないわよ?」

「いやでも、材料自体はセリシャ様に預かってもらっていますし、手間賃は必要ですよね?」

「あぁ、そういうことね。だけれど、必要ないわ」


 手間賃の理由を説明した楓だったが、セリシャは改めて必要ないと口にした。


「……いいんですか?」

「そのような手間賃よりも、従魔具でガッポリと稼がせてもらうもの。なんだったら、恩を売っていると思ってくれて構わないわよ?」


 最後は冗談っぽく口にしたセリシャを見て、楓は苦笑しながら頷く。


「分かりました。ありがとうございます、セリシャ様」

「でも、ピースは余った材料でいいのかしら? カエデさん渾身の従魔具じゃなくてもいいの?」


 セリシャとしては手間賃の支払いよりも、ピースの気持ちの方が気になっていた。


「確かに! どうなのかな、ピース?」

「キュキュギュ、キキッギュキュキュ! ギギギッ!(おいらのライバル、ハオと同じならそれでいい! 負けないもん!)」

「……ハオ君がライバルなの?」

「ギギッ!(そうだよ!)」


 どうしてピースがハオをライバル視しているのか分かっていない楓は、コテンと首を横に倒す。

 とはいえ、ピースが納得してくれているのであれば、まずは残りの材料で従魔具を作ろうと楓は決めた。

 そして、自分でも納得できる従魔具職人になれたと思えば、改めてピースに最高の従魔具を与えようとも、心の中で決意していた。


「それじゃあピース。どんな従魔具が欲しいのか、教えてくれるかな?」


 気合いのこもった目でピースを見つめながら楓が聞く。


「キュキュッキキキュ!(カッコいいのがいい!)」

「カッコいいのね。それから?」

「キュキュン!(それだけ!)」

「……え? そ、それだけ?」

「キュキュン!(それだけ!)」


 まさか単純にカッコいい従魔具が欲しいと言われるとは思わず、楓は聞き返してみたのだが、ピースは全く同じ答えを返してきた。


「……ま、まあ、ピースがそれでいいって言うなら、いいのかな?」

「キュキュ!(うん!)」


 楓の呟きに元気よくピースが答えると、彼女も決心した。


「分かった! それじゃあ、ピースに似合うカッコいい従魔具を作るね!」

「キュッキュキュー!(やったー!)」


 肩の上でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを露わにするピース。

 その姿に癒されながら、楓はどんな従魔具がピースに似合うのかを考え始める。


(可愛いピースをカッコよくする従魔具かぁ……これ、地味に難しくない?)


 可愛いものをより可愛くするのは想像しやすいが、可愛いものをカッコよくするのは、意外と想像が難しい。

 それは言ってみれば、相反するものを一つにしようとする行為だからだ。

 特にピースは小柄で、愛らしい見た目をしており、その存在が可愛らしいを体現している。


(さて、どうしたもんかなぁ)


 腕組みしながら考え込んでいると、〈従魔具職人EX〉が突如として発動する。


「……え?」

「どうしたの、カエデさん?」


 突然声を漏らした楓を心配し、セリシャが声を掛けてきた。


「あ、いえ、その……〈従魔具職人EX〉が、勝手に使われたみたいで」

「スキルが勝手に? ……それで、何に〈従魔具職人EX〉が使われたのかしら?」

「その、ピースへの従魔具で、こんなのはどうですか? みたいに、三つほど作り方を提案してきました」

「……作り方を、提案してきた?」


 どうやらセリシャから見ても、今回の〈従魔具職人EX〉は想定外だったようだ。

 驚きの声を漏らし、思案顔を浮かべてしまう。


「……それじゃあ、〈従魔具職人EX〉が提案してきた作り方の中に、カエデさんも納得できそうな従魔具はあるのかしら?」

「か、確認してみます!」


 驚きのあまり確認できていなかった楓は、セリシャの言葉を受けて確認を始める。


「一つ目はスーツっぽい、大人の男性が着るような衣服ですね。でも、これは違うかな。二つ目は……これ、お侍さん? いやいや、異世界でお侍さんはなぁ」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら、三つ目の提案を確認していく。


「……あれ? これって」

「いいのがあったのかしら?」

「は、はい! 私、〈従魔具職人EX〉が提案してくれた、三つ目の案を作りたいと思います!」

「キュッキュキュー!(やったー!)」


 いったいどんな従魔具が出来上がるのか、セリシャもピースもワクワクが止まらないのだった。

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