第5話 地下電気街

 電気街裏通り


 再び昨日のジャンク屋を訪れた。

 店員にビデオデッキの返品をお願いすると、思いのほかすぐに、わたしの三千円は返金された。貼り紙に返品不可をうたっておきながら、不思議な店だ。

 ホッとしたわたしは、ついでに聞いてみた。

「ちなみに、ベータマックスのデッキは無いんですか?」


 わたしの問いに、終始無表情だった店員は雷に打たれたような顔をした。

 そのまま待つこと三十秒。店員のフリーズは解け、ゆっくりと口を開いた。

「この店には売ってないよ。ベータはVHSに覇権を取られてから市場を追われて、今ではほとんど見かけないな」

 わたしはまたもや肩を落とした。なんてこったい。ここまで来て行き止まりにぶち当たるとは……

「仕方ない、帰ろうクロ」わたしたちはトボトボ店を後にした。


「待ちなさい。にならまだあるかも知れない」

 ……なんですって?



 秋葉原地下電気街


 ジャンク屋の店長の案内で地下街への入口を抜けて、わたしたちは秋葉原の地下街へやって来た。


 地下街の入口は、裏通りのさらに裏みたいな路地にある、壁についているスチール製のドアだった。ドアの脇には「秋葉原地下電気街」と書かれた看板が壁についていた。

 ドアを通り抜け、頼りない照明の階段を下ると、またドアがあり、そこを開けると地下街にたどり着く。正直階段を降りている時は、不気味な雰囲気に押されてしまい、気軽に来てしまったことを後悔したが、地下街の光景が予想外だったため、来て良かったと思い直した。


 わたしとクロは地下街に着くと「おおぉ〜」と感嘆の声をあげた。

 地下街は地下にも関わらず、上の裏通りより明るく活気に溢れていた。天井は高く直線の中央通りの左右に、家電屋、パーツ屋、レトロゲーム屋、パソコン屋、その他色々なお店がズラーっと並んでいる。ファミコンショップ・ケータイショップ・CDショップと書かれたお店、古本屋や、鞄屋、古着屋、ラーメン屋やお団子屋まである。


「こ、ここはサンクチュアリですか…? それともヴァルハラ?」クロがわたしの頭の上で感動に震えている。

「落ち着けクロよ。……にしても秋葉原の地下にこんな場所があるとは……」思わず

 言葉を失ってしまう。


 ここなら一日中いても飽きないなと思いつつ、当初の目的ビデオデッキ(ベータ)のありそうな店を探す。


 少し歩くと「テレビ・ビデオショップ」と書かれたデカい看板の店があった。その下に「昭和家電館レトロハーツ」の文字が、店名だろうか。

 店内には奥行きのある大小様々なテレビやビデオデッキが所狭しと陳列されていた。看板に偽り無し。ここならベータもきっとある筈。


 手分けしてビデオデッキを見て回るが、どれも「VHS」と書かれたものばかり、強者に追いやられた弱者は、こんなレトロなショップですら生存できないのか。まるで絶滅危惧種を探す学者のような気持ちになって来た。

「無いですね……一般の市場になくてもテレビ業界では使われていたので、中古くらいある筈なんですけどね」


 すると後ろからぬるっとした声が聞こえた。

「何かお探しですか」

 ジャンク屋のおじさんに似た、おじさん店員だった。テレビデオと書かれたエプロンをしている。

「あ、いや、ビデオデッキを探しているんです。」わたしは狼狽えながら答えた。「ベータの」


「べ……」店員がフリーズした。これはNGワードなのだろうか?


 きっちり三十秒後に再起動した店員が喋り出した。

「ベータマックスのデッキは、ここ地下街ですら無いんですよ」


 店員の言葉の岩石が頭に落ちたようだった。

「な、な、無いんですか? テレビ業界で使われていたなら、中古くらいありそうなものですけど……」VHSがコレだけあるのに。


「お客さん……というものをご存知か?」

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