第36話 「終わりのとき」
校舎の屋上にまで届きそうなほど巨大なユリが吹き飛ばされてしまうほどの烈風。
ありとあらゆるものが吹き飛ばされていく。
現実のものも、迷宮のものも。
それらすべてが舞い上がり、分厚い雲の上へと消えていく。まるで、この世からありとあらゆるものを消去するかのように。
窓ガラスがビリビリ鳴る。開いた窓からは風がびゅうびゅう吹いてくる。バサバサと揺れる
部屋の中にいるというのに吹き飛ばされそうだった。
なのに、高砂さんは根を張っているかのように直立している。
「好きになってくれない
そう言った高砂さんは、悲しげに目を伏せる。
わたしは理解した。
高砂さんは本当にわたしのことが好きなんだと。
好きで好きでたまらない。たまらないから、吸収したい――その言葉に嘘も偽りもなかった。
ここにいる神にも等しい力を有した生命体は、神様のくせして他に方法を知らないんだ。
吹く風はますます強くなって、外の世界を漂白していく。神様がこんな世界は不要だとリセットボタンを押したみたいに。
悲しみの雨に降られた高砂さんが近づいてくる。その足取りはひどく遅かった。
わたしから目をそらした高砂さんが、腕を振り上げ、わたしめがけて振り下ろす。
ギュッと閉じた瞼の裏に、1つのビジョンがふっと現れた。
走馬灯――いや違った。
暗闇の中で膝を抱える高砂さんが見える。
孤独。
悲しみ。
そんなものが漂っている漆黒の世界を見ないようにしているその姿は、胎児のようで。
そんな高砂さんを、わたしは眺めていた。
「高砂さん」
呼びかけても返事はない。むしろ、声におびえるようにその体が震えた。
わたしはふわりと舞い降りて、その隣に並び立つ。
恐怖する高砂さんをじっと眺める。ペアを組んでいる高砂さんとも、バケモノとしての高砂さんとも違う。
たぶん、この高砂さんは――。
「わたしがいます」
おずおずと高砂さんの顔が動き、わたしを見た。
手が掴まれる。
瞬間、何かが流れ込んでくる。全身に強い衝撃が走り、何かが流れ去っていく。
肉が、血が、力が、生気が、頭脳が、心が、溶けていく。
わたしという意識そのものが吸い込まれていく。
そこに、わたしは軟体生物の影を見た。
それこそは、高砂千夜を吸収したという地球外生命体なんだろう。だけど、不思議なくらい怖くはなく、むしろかわいそうだと思ってしまった。
この地球上に、彼女は独り。
孤独に震える高砂さんに吸収され、解けていく意識の中で、わたしは愛を
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