風の如く影も無し 無影疾風は賞金稼ぎ

まほら

1話 プロローグ 二つの時代がつながる。

  ……泥棒の風太……

 深夜1時。風太は博物館の入り組んだ連絡路の隅から身を起こした。

 閉館後、トイレに隠れ、中庭に隠れ、またトイレに隠れを繰り返し身を隠した。 警戒しながら特別展示室に近づく。警備員が5人もいる。強行突破と決める。

 ガス防護マスクをはめる。昼間は爺さんの変装でカメラに映っていただろう。今はガス防護マスクの顔。ポケットから手製の致死ぎりぎりの催眠缶を出す。ふたを開け中の水袋を破る。煙が勢いよく上がりやがて無色になる。15分。催眠ガスが充満した頃、風太は目の前の展示ケースの角をタングステン合金のハンマーでたたく。強化ガラスは瞬時に割れる。風太は展示品を手に取り決めていた逃走ルートから博物館を脱出する。

 警報が鳴り響くが、警備員は起きない。といっても館内警備本部からやってくる。

 外に出ると隣接する城跡の中を突っ走る。防護マスクをお堀跡に投げ捨てる。コインパーキングまであと1分位。自分の車がみえた。と、目の前にでかい人間。後ろ姿?背中が見える。大きな両手剣を上段に構えているが何かよわよわしい。その男の前に、いかにも下っ端と言わんばかりの3人が棒を構えていた。先端が月光を反射する。

 ?なんだ?警備員か?警備員ならサスマタか?。関係ない。右正面にある車に向かって全力で走る。

 

 何故だろう、身体が空気を切るような?走る足の動きが軽い。背負う大きめの泥棒工具の入った重いリュックも吸い付くように感じる。左手に持つ盗んだ大型日本刀も軽い。


 警備員か?と思う前にいた3人がこっちにくる。サスマタじゃない。槍だと?

 脅しのつもりで今盗んだばかりの「同田貫どうたぬき」と言われる実戦様に鍛えられた日本刀の鯉口こいぐちを左親指で切る。博物館蔵の国宝。左端の奴の槍に正面を向き左にかわし右手で日本刀のつかを握り左下から右上へ袈裟に切りあげる。槍を持つ右腕、槍、左手首が切断される。

 

 え?なぜおれは人を斬っている?

 おれはなぜこんなに素早く動ける?

 いや、脅しだったはず。

 勝手に身体が動く。動きが自分で止められない。


 二人目。真ん中の奴。体をねじり俺を突き刺そうと伸びてくる槍を右手にもつ刀で下から跳ね上げ切断し、一気に距離を詰めて手首を返し、上段から左下へ振り落とす。ゴツッという手応えと共に首と左肩が落ちていく。


 倒れながら首付け根から血潮を吹き出すそいつの腹に乗り3人目にとびかかる。

 及び腰になっている奴の槍を左によけ同田貫を振り下ろす。奴のかぶる雑兵用の兜が割れる。

 

 辺りは静まり返る。背後の男から襲われぬよう素早く振り返る。

 男は背が高かった。ゆっくり大きな両手剣を降ろす。あの両刃剣は南蛮剣だ。男が口を開く。「かたじけない」剣を地面にさして身体を支えようとしたが膝をついた。

「やられたのか」風太が聴く。「アイム、ハングリー。……腹が減って。もう4日も水だけだ。」

 「……何か 変。」

 その時気づく。月明かりに照り映える堂々たる5層はあろうやぐらが見えた。しかもその櫓は大きい。壁があれば天守閣に見えるレベルだ。

 博物館の建物はどこにもない。

 また振り返る。目の前にはコインパーキングも車も道さえなかった。

 明かりもない暗がりに川が流れているのが見えた。

 また振り返る。城を囲む黒い森。

 3人の死体。

腹減って座り込む英語を話す南蛮剣をもつ男。

満天の星空と半月があった。


 ……鍛冶屋の丹蔵……

 小刀を2本いでいる。

きれいな波紋が出ている。

実戦用の肉厚の日本小刀。

脇差わきざしと言われる刀だ。

 研ぎ終わると2本とも白鞘しろさやに収め、発注者の娘に渡す。


丹蔵の常連客。 と言ってもいつもは宝石加工用の刃物を作ってやっている。娘は宝飾業を一人でやってる。

「ごめんなさい。お金は「ぎょく」を売ってから。申し訳ない。」

「いいって」

「ここらじゃあたしの作ったぎょくを評価して買ってくれる奴がいなくなった。国府まで行って売ってみる。北条様が太閤様に破れてお城も放棄された。商売は物々交換になっちまってる。食うものも困る中じゃ宝石は買い手がない。宝石以外には交換するものを持ってない。」


「治安は悪化している。盗賊に山賊に野良武士。ましてお前は女だ。」丹蔵がいう。

「だから刀、2本持ってく。」

「大した度胸だが、国府じゃなくてあの世に行っちまうよ。」

「民間護衛隊は目玉飛び出る位高値でしかも前払いだ。丹蔵さん貸してくれる?」

「護衛隊に払うだけの金はない。」

「でしょ。大丈夫!」

「いや大丈夫じゃないって!」


 少したって丹蔵がいう。

「その装飾した玉ってやつ見せてくれよ」

丹蔵は「玉」を見た。


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