手乗り怪獣「みにた」と私
辰井圭斗
第1話
手乗り怪獣の「みにた」と暮らすようになったのは、半年前からだ。梅雨時のある日、深夜に仕事から帰って来ると、暗い台所を何か黒いものがゆっくり横切った。思わず「ひっ」とか言っちゃう私。ゴキブリかと思ったがゴキブリにしては動き方が変だった。怖々電気を点けると、冷蔵庫の脇に「みにた」はいた。
ビジュアルとしては二足直立歩行のとかげ型着ぐるみ怪獣をすごくちっちゃくしたような感じだ。それが私をじっと見ている。我が目を疑うとはこのことでしばらく混乱した。
とにかくどうしたらいいのかさっぱり分からない。私はその小さい怪獣の写真を撮ってTwitterにアップして、フォロワーにどうしたらいいのか聞こうと思った。しかし、おかしい。怪獣の写真は撮れる。でも撮ったはずのその写真ファイルがどこにも見当たらず、アップロードができないのだ。
途方に暮れてしまった。文字だけで、「部屋にちっちゃい怪獣いるんだけど」と呟いても頭のおかしな人である。とはいえ、それも試してみた。すると、ツイート文は作れるのだが、ツイートボタンを押すとツイートが虚空に消えて表示されない。
何か超常的な現象が起こっていて、誰かに相談はできないらしい。よく分からないので近付きたくないのだが、かといって、なんだかゴキジェットを向ける気にもならないし、私は残業終わりで疲れていたので、とりあえず放っておくことにした。幸い動きはあまり速くない。
メイクも落とさずに脳死でインスタをいじっていたら寝落ちしてしまったらしい。目を覚ますと、冷蔵庫の脇にいたはずの怪獣は随分と近付いていた。しかし、私に何かするということはなく、ただ、いつの間によじ登ったのだろうか、椅子の座面につかまって、足をぱたぱたさせていた。要するに椅子から落っこちそうになっている。
私は思わず、足をぱたぱたさせている怪獣を下から支えて押し上げてしまった。「あ、触っちゃった」とは思ったのだが時既に遅い。座面に落ち着いた怪獣はしばらく腹ばいになっていたが、やがてまた直立二足歩行になって、私に向かって口を開いた。小さく牙が並んでいて、口の中はピンク色だった。よく見れば目もつぶらだ。
感触を思い出す。ちょっとゴツゴツしていたような気がする。私は恐る恐るもう一回怪獣に触ってみる。怪獣は私の指につんつんされながらこちらを見て尻尾をゆらゆら揺らしている。「可愛いかもしれない」と思った。
私は立ち上がると冷蔵庫の上に置いてある一斤八十八円の食パンをちぎって怪獣にあげた。怪獣は小さな手を使いながら食パンのかけらを食んでいる。その様子を見ていると名前もつけたくなった。もう飼う気まんまんだ。
ゴジラの小さいやつみたいだなと思ったのでミニラはどうかなと思ったのだが、ミニラは既にいるそうなので、一文字ずらして「みにた」にした。それから朝晩「みにた」に食パンをあげるのが私の日課になった。
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