コンビニ裏から夢の続きへ
疲れ果てたハムスター
第1話 コンビニ裏での出会い
その日、アコウは世界の理不尽さにキレかけていた。
「なんで先生って、『将来の夢は?』って真顔で聞いてくるんだろ」
駅前のコンビニ。制服姿のアコウは、炭酸ジュースの棚の前でひとりぼやいた。
夢なんて、もうとうの昔に冷蔵庫の奥に置いてきたわ。炭酸よりシュワっとしないし。
レジでお釣りを受け取って店を出た瞬間、不思議なことが起きた。
「お嬢ちゃん、人生、詰んでる?」
――知らん女がいた。狐耳つきで。
「は?」
アコウはスッと距離を取った。都会ではまず距離感が大事。
でも相手は、まるでそういう警戒を一切気にせず、ニコニコと詰めてくる。
「人生に疲れてるでしょ? ねえ、どう? ダンジョン、行ってみない?」
「は???」
「今なら初回無料!死ぬかもしれないけど、夢が手に入るかもしれない!お得!」
絶対に詐欺のセリフである。
しかも、「死ぬかもしれない」を軽く言うな。
「おまわりさ――」
「……その前に見てほしいものがあるの」
狐耳少女――いや、もはや狐“っぽい何か”は、アコウの肩をぽんと叩いて、コンビニの裏手を指さした。
そこに――見たことのないドアがあった。
「いやいやいや、絶対今までなかったよこれ」
「君には今、見えてる。それが答えさ」
「なにそのRPGみたいな台詞。じゃあ次は『さあ選べ、赤か青か』って言うの?」
「ううん。君には“諦めた夢”があるから、そのままじゃ死ぬって言うの」
「もっとヤなやつだった!!」
狐は名乗った。ユウというらしい。妖狐だそうだ。
アコウは「はいはいケモミミ地縛霊ね」と思いつつ話を聞いていたが、なぜかドアの前まで来てしまっていた。
「行かないよ。私は現実主義なんで」
「でもそのジュースの味、夢見て買ったでしょ? “ちょっといいことあるかも”って思ったでしょ?」
「うっ……!」
図星だった。
「それが夢。ほら、まだちょっとだけ、残ってるじゃん?」
ユウの笑顔は底抜けに明るく、どこか悲しげだった。
「君がこのまま現実だけで生きててもいい。でも、たぶんそれ、すっごく味が薄い」
アコウはため息をひとつ。
気がついたら、ドアノブに手をかけていた。
「死んだら?」
「夢がなくなる。もう何も感じなくなる。あと、たぶんめっちゃ後悔する」
「マジか。で、勝ったら?」
「夢、戻る。あと、武器とか自分好みに勝手に出てくる。めっちゃ厨二」
「……バカみたい。でも、ちょっと楽しそう」
「でしょー?」
ドアが開いた。
中は異世界――というより、現実逃避のテーマパークみたいだった。
紫色の空、浮かぶ地面、飛んでる魚、巨大なキュウリっぽい敵。
「なんだこの世界!? 物理法則はどこいった!」
「ようこそ、“夢喰らいの箱庭”へ!」
「いきなりラスボスのステージ名みたいなの出てきたぞ!」
敵が襲ってくる。
「武器!武器どうすんの!?装備どこ!?」
「だいじょーぶ!願えば出るよ!本当に出るかは知らないけど!」
「うわー無責任!!」
その瞬間、アコウの手に、淡く光る剣が現れた。
「……ほんとに出た」
「だから言ったじゃん。ダンジョンって、けっこうバカなんだよ」
敵のキュウリ(仮)を叩き斬る。驚くほど身体が動いた。
「これ……なんか気持ちいい」
「でしょ? 夢に向かって戦うって、脳内アドレナリン出まくるから!」
「それ説明すると全部冷めるやつだよね!?」
キュウリ(仮)は消えた。まだ奥がある。まだ終わらない。
「どうする? 戻る?」
「……行く。なんかムカついてきた」
「いいね、その怒り。そのうち第二層で活かせるよ!」
「まだあるのかよダンジョン!?」
こうして、
女子高生とケモミミ妖怪の、ちょっとバカでちょっと本気の冒険が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます