異世界召喚された最強カードゲーマー、神々の戦争を『クソゲー』認定して無双する

さかーん

第1話 伝説の召喚(サモン)と異世界

「――チェックメイトだ」


 シン、と静まり返ったカードショップの片隅。アキラは、対戦相手の少年がうつむくのを見ながら、心の中で勝利を叫んだ。


(っしゃあ! オレの考えた最強コンボが決まった!)


 テーブルの上に広げられたカードの盤面。それは、アキラにとって自分だけの王国だった。どのカードを、いつ、どこに出すか。相手がどう動くかを、三手、いや五手先まで読み切る。思考の稲妻が頭の中を駆け巡るこの瞬間が、たまらなく好きだった。


「勝者、神谷アキラ! これで地区大会、優勝だ!」


 店長の声が響くと、周りを囲んでいた子供たちから「うぉー!」という歓声が上がった。アキラはすっと立ち上がり、ニヤリと笑ってピースサインを見せる。


「ま、当然だろ?」


 少し生意気なその態度も、圧倒的な強さの前では不思議と様になっていた。


「すげえなアキラ! マジでお前、天才だよ!」


 人垣をかき分けるようにして、大柄な少年がアキラの肩を力強く叩いた。親友のタカシだ。その腕は、同じ小学五年生とは思えないほど太い。


「ったりめーだろ。オレが誰だと思ってるんだ?」

「へへっ、頼もしいぜ!」


 タカシは自分のことのように笑ってくれる。頭を使うのは苦手なくせに、友達の勝利を心から喜べる、そういうヤツだった。


 優勝賞品は、最新のカードパックがごっそり入った箱と、そして――店長の奥から出てきた、たった一つの古びたパックだった。


「アキラ、おめでとう。こいつは特別賞だ」


 店長から手渡されたパックは、いつも買っているものとはまったく違っていた。銀色の袋は色あせ、奇妙な紋様が描かれている。そして何より、ずしりと重い。まるで、中にカード以外の何か、小さな石でも入っているかのようだ。


「伝説の召喚パック…? なんだよ、この名前」


 タカシが隣からのぞき込む。


「へぇ、なんかカッケーじゃん! 開けてみろよ!」

「言われなくても!」


 アキラは指先に力を込めた。この中に、まだ誰も見たことのない、とんでもないレアカードが眠っているかもしれない。胸の高鳴りが、自分でもうるさいくらいに聞こえる。


 ビリッ、と袋を破った、その瞬間だった。


 まばゆい光が、パックの裂け目からあふれ出した。


「うわっ!?」


 あまりの眩しさに、アキラは思わず顔を腕で覆った。光は一瞬でアキラと、隣にいたタカシを包み込んだ。カードショップのざわめき、友達の声、古い紙とプラスチックの匂い――世界の全てが、急速に遠ざかっていく。


(なんだ? なんだよこれ!?)


 体がぐにゃりとねじれるような、奇妙な浮遊感。耳の奥でキーンという音が鳴り響き、目を開けているのか閉じているのかも分からない。まるで、猛スピードのエレベーターで、どこまでも落ちていくような感覚だった。


 光の中から、一枚のカードがゆっくりと浮かび上がるのが見えた。

 描かれていたのは、複雑な魔法陣。そして、その中央に立つ、古の王のような威厳ある姿。そのカードが、まるで心臓のように脈打っている。


 ――それが、アキラが自分の世界で見た、最後の光景だった。


 どれくらいの時間が経ったのか。

 次にアキラが目を開けた時、そこにカードショップの風景はなかった。


 ひんやりとした石の感触が、頬に伝わってくる。

 見上げた天井は、見たこともないほど高く、薄暗い空間にはいくつものロウソクが燃えていた。目の前には、豪華な装飾の椅子――玉座に座る、疲れ切った顔の王様。その隣には、宝石のような瞳でこちらをじっと見つめる、ツンとすました顔の綺麗な少女。


 そして周りには、硬い鎧を身につけ、鋭い槍を持った兵士たちが、信じられないものを見るような目でアキラとタカシを取り囲んでいた。


「……え?」


 アキラの口から、間抜けた声が漏れる。隣では、タカシも同じように口をあんぐりと開いて固まっていた。


 状況が、まったく理解できない。さっきまで、確かにタカシとカードショップにいたはずだ。

 なのに、ここはどこだ? この人たちは誰なんだ?


 まるで、ゲームの世界に迷い込んでしまったような、ありえない光景。

 頭が真っ白になったアキラは、ただ呆然とつぶやいた。


「…………どこだ、ここ……?」


 ーーーー

 次回、お約束のように異世界に転移した主人公たち。そこで待ち受けるのは、可愛い女神か?それとも厳つい王様か??

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