第28話 次なる場所へ

「サダ君の言う通りだったよ」

 数時間前のグローリー6のやり取りの一部始終をサダに説明したあと、奥寺おくでらなごみがぽつりと言った。

「私、みんな事全然分かってなかった。ふーちゃんがあんなに怒るとこ見るの初めてだったし、いつも平然としてて強いと思ったらそれはただの私の思い込みで」

 なごみは膝の上で両手を合わせて祈るようにぎゅっと力をこめる。その時の事を思い出しているのだろう、ひどくつらそうな表情であった。

「まなやんのことも、そう。いつもおっとりして優しいけど、ずっとスズの事で後悔してたなんて考えもしなかった」

「そうか」

 サダは少しだけ安心した。

 仲間内にもちゃんと黒小路くろこうじ美涼みすずの事を想ってくれている者がいると知れただからだ。それをすぐ本人に教えられないのがもどかしいが。

「……ヒナち、普段は好きなものに一直線で真面目ないい子なんだけどね。まさか嫌いなものにここまで排他的になれるなんて……」

「それは極端すぎるだろ……」

 はざま陽奈はるなはオタクタイプだと聞いていたが、おそらく彼女は好きなものだけに囲まれたいタイプなのだろう。だからそうでないものに対しては消して理解を示さないし、徹底的に排除に走ってしまう。

 まあ今回の件は完全に彼女の自業自得だが、陽奈の場合は青森に帰ってしまえばその後の日常生活に支障はない。このままこの街で起きた事をすっかり忘れて今の生活を謳歌すればいいという選択肢があるだけ幸運かもしれない。それが正しいのかは分からないが。

「スズ、まだ意識が戻らないみたい」

「……知ってる」

 サダはつい先ほど医師から黒小路美涼の容態を聞いたが、戻ってきた返答は「いつ目覚めるか分からない」との事だった。

 ユカイ魔の影響により精神の衰弱被害がかなり大きく、最悪このまま目覚めないケースも数パーセント程度ではあるがありえる、とも言われてしまった。

「医療費のほとんどは怪討局から落ちるように申請はしてきた」

「怪討局って、サダ君の所属する組織だっけ? お金持ちなんだ?」

「いや、世間に公表してないだけで政府の組織だから実質税金だ」

「……なんか聞かない方が良かった気がする」

 なごみがため息をついた。

「で、サダ君はこれからどうするの? 事件は解決したんだよね?」

「俺は……」

 そこまで言いかけて、サダは少し考えた。考えてから、結局言うべき事を言う事に決めた。

「今日明日中にこの街を出て、次の任務へ行く」

「えっ! サダ君どっか行っちゃうの!? 高校は!?」

「あれは一時的に学籍を借りただけだ。それにここでの任務が終わった以上通う理由がない」

 まあ結局あまり登校しなかったので、サダにとってそこまで名残惜しくはないようであった。

「あと守秘義務の関係でチャットアプリのアカウントは抹消する。個人的な連絡先交換は禁止されてるので今後はやり取りできなくなる」

「そんな急に……それって寂しくない?」

「規則だからな」

 なごみの方は心配そうにしているが、サダは淡々としている。

「でも、せめてスズにはちゃんとお別れ言った方がいいんじゃ……あの子が一番サダ君の事を信頼してたみたいだし、もう会えないって知ったらすごく悲しむと思う」

「それは……」

 唯一の心残り、と言ったら嘘ではない。


 彼女は、サダにとっての人生初の友達。


 だが、任務は任務。怪魔を放置すれば美涼のような心優しい人間が理不尽に傷つけられるかもしれない。それだけは我慢ならなかった。

「……もう俺は、自分の価値や居場所のために仕事をするのはやめたから。あの子が、スズがそうさせてくれたから」

「そっか……」

 言ってからサダは今、美涼のことをスズと呼んでたなと気付く。

 勝手に呼んだらまずいだろうかと思いつつ、よく考えたら電気店で呼んでいいって言ってたなと思い直して、サダは話題を変えた。

「そっちこそグローリー6はどうする気だ?」

 おそらくなごみ自身は存続を望んでいるだろうが、彼女たちのやり取りを聞いても決裂しかかっているし、どう考えても今まで通りにはいかないだろう。

「私自身は、みんなとずっと仲間でいたい。だけど、みんなにそれを無理強いしちゃいけないし……最悪は解散もやむを得ないかな」

 なごみは一度地面に視線を落としてから、そのまま顔を上げた。

「でも当面は解散させないように頑張る。だって、スズが起きた時にグローリー6がなくなってたら嫌だろうし、それまではあの子が戻ってこられる居場所として失いたくない。薄情にもサダ君はどっか行っちゃうし」

「最後の一言が余計だ」

 少し不貞腐れるサダに、なごみは「冗談だって」と悪戯っぽく笑う。

 ようやく彼女に笑顔が戻ってきたのにほんのちょっとだけ安心している自分がいて、やっぱこいつとは合わないと思うが、前ほどの苦手意識はないな、とサダは思った。

 それは、サダ自身がなごみの人となりを理解したからだろうか。いい面も悪い面も含めて。

 これからも仕事関係なく様々な人と出会って、その人達の事を知っていけばいつかきちんとした友達の作り方を覚えるのだろうか。そんな事さえ考え出した。

「ねえ、サダ君」

「なんだ?」

「……私、スズとちゃんと仲直りしたいけど、出来ると思う?」

「さあな」

 サダは、美涼が収容されている特別棟の方を見る。

 いつかきっと彼女は目覚めてくれるとは信じたいが、なごみ達と和解出来るかどうかまでは分からない。

 そもそも美涼自身がそれを望んでいるのかどうかも分からない。

 だからなごみに対して美涼の事を頼む、とかは言えなかった。

 ユカイ魔の事件で明るみになってしまったとはいえ、元はと言えばなごみが陽奈に対して美涼の保護を頼んだせいで美涼の心は傷ついてしまったのだから。

「……今度は、間違えなければいいかも、な」


 間違えなければ、今度はもしかしたら。


 絶対的に信じてはいないが、そうであったらいいなと少しだけサダは思った。



 怪討局中央第五支部

 U型怪魔 単独討伐作戦


 雪殿ゆきどの地区におけるU型怪魔は、女子高校生に憑依するも、第五支部所属怪討人により殲滅。

 被怪者の女子高校生は、以後回復するまで雪殿総合病院特別棟にて保護。

 雪殿地区における怪魔及び怪異の警戒レベルが安全基準を満たした事を確認した後、これを以て本作戦を終了とする。

 作戦終了後は直ちに本作戦で使用した資材の返却、参考人の個人情報の抹消、その他経費のデータを中央本部へ送る事。


 尚、特例ではあるが、第五支部はそのまま関西第十二支部と合流し、その傘下で次なる怪魔討伐作戦に参加する事を要求する。


 健闘を祈る。

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