第14話 夢から覚めても
――撃て。
――撃て。
耳の奥で繰り返される声。
赤い閃光、砕け散る影、降り注ぐ彼岸花の種。
気づけば、俺はレジ前で突っ伏して眠っていた。
(……夢、だったのか?)
制服の胸元は汗でびっしょり濡れている。
腕も足も普通のまま。
金属の砲口なんてどこにもない。
安堵の吐息がもれた。
休憩室から戻ると、コンビニはいつも通りだった。
棚には菓子パンが並び、冷蔵ケースには飲料が整然と並んでいる。
入店チャイムが鳴れば、客が入ってきて、レジを打ち、袋に詰めて「ありがとうございました」と声をかける。
――何も異常はない。
夢だった。
兵器になって戦うなんて。
そんな馬鹿げた悪夢に決まってる。
だが、不意に心に小さな違和感が刺さった。
(あれ? 今日は誰とシフト入ってたっけ……?)
思い返しても、同僚の顔が浮かばない。
柳田? あの無口な女の子?
いや、名前も声も、どうしても思い出せない。
今夜、確かに誰かと交代の挨拶をしたはずなのに。
チャイムが鳴った。
いつもの常連客が入ってきた。
フードを被ったあの男だ。
顔は見えない。
コーヒーを一本取り、レジに差し出してくる。
俺はいつものようにバーコードをスキャンし、金額を告げた。
「百二十円です」
――ピッ。
POSの画面に金額ではなく、赤い文字が浮かぶ。
> 『ありがとう、店員さん』
(……ありがとう?)
奇妙に思ったが、深く考えずに会計を済ませた。
客が去り、俺はふと店のガラスに映った自分の姿を見た。
そこには――レジ台の奥に根を張る、真っ赤な彼岸花の怪異が映っていた。
花弁の中から覗く、俺の顔。
笑っていた。
だが、それは俺の意思ではない。
「いらっしゃいませ。
今日も夜勤、ありがとうございます。」
自分の口が、自分の声で、勝手に喋っていた。
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