第23話:夕暮れの光、静かな決意

インターハイ予選が終わり、

全国大会が、

目前に迫っていた。

女子バスケ部の練習は、

一段と厳しさを増している。

全国の舞台で、

最高のプレイをするために、

私たちは、

毎日、

限界まで、

自分たちを追い込んでいた。


体力的には、

疲労が蓄積しているけれど、

私の心は、

高揚感で満たされていた。

全国制覇という、

大きな目標が、

私たちを、

突き動かしている。


遠藤くんとの、

公園での練習は、

全国大会に向けての、

私の、

ひそかな特訓の場であり、

同時に、

心の安らぎの場所でもあった。

彼のひたむきなバスケ、

彼の真っ直ぐな瞳。

その全てが、

私を、

強く、

支えてくれていた。


彼のチームが、

インターハイ予選の決勝で、

惜敗してから、

数日が経っていた。

私も、

彼に、

得点王のタイトル獲得を、

直接、

祝福することができた。

その時、

彼の悔しさの向こう側に、

確かに、

前を向こうとする、

強い光を見た。


その日の放課後。

女子バスケ部の練習が終わり、

体育館の片付けをしていた。

夕焼けが、

窓から差し込み、

コートを、

オレンジ色に染めている。


チームメイトが、

次々と帰っていく。

私だけが、

残って、

最後の確認をしていた。

その時、

体育館の入口から、

聞き慣れた足音がした。


「先輩。」


遠藤くんだった。

彼は、

男子バスケ部の練習着のままで、

少しだけ、

息が上がっている。

おそらく、

彼の部活も、

今、終わったのだろう。


「遠藤くん。

どうしたの?

まだ、残ってたんだ。」


私が言うと、

彼は、

少しだけ、

躊躇するような素振りを見せた。

その頬が、

わずかに、

赤くなっているように見える。


「あの……その、

ちょっと、

先輩に、

話したいことがあって……。」


彼の言葉に、

私の心臓が、

ドキン、と、

大きく跳ねた。

彼が、

こんな風に、

改まって話しかけてくるなんて、

珍しい。

何か、

バスケの相談だろうか。

それとも、

彼自身の、

胸の内のことだろうか。

私の心は、

一瞬で、

期待と、

不安とで、

複雑に揺れていた。


私は、

彼の視線から、

わずかに目を逸らし、

「ん? なに?」

と、

平静を装って、

答えた。

でも、

私の心の中は、

すでに、

ざわつき始めていた。


彼は、

ぎゅっと、

両手を、

前で組んだ。

彼の指先が、

少しだけ、

震えているのが見える。

明日の試合への、

プレッシャーとは、

また違う、

種類の緊張感が、

彼を包んでいる。

その緊張が、

私にも、

伝わってくる。


彼は、

一度、

大きく息を吸い込んだ。

そして、

私を、

真っ直ぐに、

見つめた。

その瞳は、

強い決意に満ちていた。

まるで、

バスケの試合で、

最後のシュートを、

放つみたいに。

その視線が、

私の心の奥まで、

まっすぐに、

突き刺さる。


「あの……。

俺、先輩に、

聞いてほしいことが、

あります。」


彼の言葉に、

私の思考は、

完全に停止した。

告白ではない。

しかし、

その瞳の真剣さは、

尋常ではなかった。


(一体、何を……?)


私の顔が、

じんわりと熱くなるのが分かった。

心臓が、

耳元で、

ドクン、ドクン、と、

大きな音を立てる。

まるで、

会場の熱気に包まれたみたいに、

私の体全体が、

燃えるように熱い。

頭が真っ白になる。


彼もまた、

顔を真っ赤にしていた。

耳まで、

真っ赤に染まっている。

その手は、

まだ、

ぎゅっと、

握りしめられたままだ。

彼の緊張が、

痛いほど、

私に伝わってくる。


数秒の、

長い沈黙。

夕焼けが、

さらに深く、

体育館を染めていく。

私たちの間に、

言葉はなかった。

ただ、

お互いの、

激しい鼓動だけが、

響いていた。


「……はい、

何?」


私が、

ようやく、

口を開くと、

声が、

少しだけ、

震えた。


「俺、

先輩と、

もっとバスケが、

したいです。」


彼の言葉が、

体育館に、

静かに、

しかし、

はっきりと、

響き渡った。

告白ではなかった。

しかし、

その言葉は、

告白と同じくらい、

いや、

それ以上に、

私の胸を、

強く、

締め付けた。


(……彼、私のために……)


私の顔が、

みるみるうちに、

熱くなる。

心臓が、

さらに激しく高鳴る。

彼の、

その純粋なバスケへの情熱と、

私との練習への、

感謝と期待。

それが、

私への、

最大限の、

想いの表れだった。


彼が、

私の言葉を聞いて、

ふっと、

小さく笑った。

その笑顔は、

私の心を、

温かく、

包み込む。


夕暮れの体育館で、

私たち二人の間に、

新しい約束が、

静かに、

そして、

確かに、

結ばれた。

それは、

言葉にはならない、

けれど、

お互いの未来を、

見据えた、

固い誓い。


この夏は、

まだ終わらない。

これからが、

本当の勝負だ。

私たちの「アオハル」は、

ここから、

さらに、

深く、

鮮やかに、

色づいていく。

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